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真実の愛に破れた元公爵子息はスラムの孤児とのんびり暮らしたい~おしかけ同居人も添えて~  作者: 沢野 りお
兄と公爵家と小さな剣士

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続く悪意と策略 3

元婚約者のガブリエラ嬢だけでなく、その家、ヴァルター侯爵もかなり頭がお花畑の人物だと再確認できたところで、なぜジークハルトはリーンにその話を聞かせているのか。もちろん、当事者であることは間違いないが、リーンがその話を聞いたところで「ふ~ん」で終わりである。


「お前が興味を持たない話だというのはわかっている。肝心なのは()()からだ」


ジークハルトが足を組み直し、ソファーに深く座りなおす。


「ヴァルター侯爵がなぜ娘を公爵夫人にさせたいか。しかも、自分の騎士たちを動かしてまで」


「そりゃ、権威がほしいのでは? ユンカース公爵家といえば、王家にも強く出ることが許される賢者の家系ですし」


だが、ユンカース公爵家の者はその力が諸刃の剣だとよくわかっている。王家に対しても恭順を示し、異を唱えてきたことなど表面上はない。まさに忠臣である。


「そうだな。そして、力を求めるには理由がある。たまに、単純に力がほしいバカもいるが」


兄さんは辛辣だなぁと思いつつ、リーンはこの話がどこに着地するのかわからなかった。元々、公爵子息として社交をしていたときも、その社交界そのものに興味がなかったからだ。貴族の考えなど理解できないしするつもりもない。


「理由? 陞爵でも狙っているのですか? それとも大臣の地位とか、新しい領地とか?」


「お前は純粋だなぁ。前向きな理由といえば、そうだが……。ヴァルター侯爵は悪事の隠蔽を狙ってたのさ」


「悪事?」


リーンは、いつぞや侯爵邸で会ったヴァルター侯爵の姿を思い浮かべてみる。よくある血だけで継いだ爵位以外、価値も能力もなさそうな凡庸な男だった。こちらに媚び諂う態度は鼻白むものだったが、特に大それたことを考えるようには見えなかった。どこにでもいる小者だと判断していた。


「ちょっとした悪事なら、貴族の身分を笠にきてそこそこやってるが、ヴァルター侯爵が手を出したのは人身売買だ。他国から孤児を買い取り、奴隷として自国の金持ちに売っていた。まぁ……悪徳商会に騙されて商品が何かを知らないまま手を貸していたってところだろう」


「だとしても……極刑ものですね」


人身売買だけでも重罪だが、他国の民だとしたら国際問題にもなる。侯爵だけで許されるわけもなく……。


「焦っただろうな。自分が扱っていた商品の真実を知り、お前と娘の結婚で得る公爵の権威で隠蔽しようと思ったら、娘が婚約破棄騒動を起こす。なんとか、娘を公爵夫人にさせようと動けば動くほど、ドツボに嵌る。……そして、その罪は王家の知るところとなった」


「王家の?」


それでは、ヴァルター侯爵がどんなに足掻いても終わりだ。たとえ、ガブリエラ嬢が改心して再びリーンと婚約を結び、公爵からの許しを得て籍を戻してもらっても……その前にヴァルター侯爵の首は体とおさらばだ。


「いや、毒杯かな?」


「毒杯を貰えるほど要人ではないだろう? 縛り首では?」


穏やかな表情で物騒な会話をし、優雅にカップを傾ける二人の間に暫し微妙な空気が流れる。


「コホン。それでだな、ヴァルター侯爵のことは放っておいてもそのうち捕縛される。お前の周りも静かになるだろう。むしろ、余計なことはするな。返って邪魔になるし、平民のお前も牢にぶち込まれるぞ。今日来たのはこの報告と、これを渡しておこうと思って」


ジークハルトからリーンへとポイッと投げ渡されたのは白い封筒。


「これは?」


封筒を手にして表から裏からと見ても、真っ白な封筒には何も書かれていない。


「あのガキの推薦状だ。衛兵になるときにでも使え」


「え? そ、それは誰か書いてくださったんですか?」


「……うちのギルドマスターだ」


「…………」


それは冒険者ギルドのギルドマスターでは? とリーンが疑いの眼差しを白い封筒に向ける。商業ギルドのギルドマスターヨハンとは気安く接しているが、本来ギルドマスターと接触しようと思っても無理である。それこそ紹介者や貴族の権威を使わないと無理である。それ以外では、ギルドマスターが欲する能力を持っていること。ヨハンがリーンに対して忖度するのは、商業ギルドが欲する能力をリーンが持っているためだ。


「なにが目的で?」


絶対にヤバい案件が絡んでいると睨んだリーンは、貰った封筒をジリジリとジークハルトの方へ押し返す。


「すまん。俺が直接ギルドマスターに頼んだわけではない。世間話でお前の近況を話したら……()()が用意されてた」


「……ちなみな誰と世間話を?」


公爵家の庶子であり、冒険者ギルドの優秀な職員のジークハルトと世間話をして、冒険者ギルドのギルドマスターに推薦状を書かせられる人物って、あまり想像したくないとリーンは眉間にシワを寄せた。


「あ~、お前には言うなって言われている。そして……伝言だ」


「なんでしょう?」


「この借りはしっかりと返してもらいます」


「…………」


「…………」


二人は見つめ合い、そして思いっきり顔を歪めた。


「そんな……親切な押し売りなんて断りたいのですが?」


「だから、すまん。それは無理だ」


いったい……誰なんですか? その恩の押し売りをしてしっかりと見返りを求めてくる腹黒さんは……。

リーンはため息を吐いて、白い封筒を指でツンツンと突いた。


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