続く悪意と策略 1
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします。
いろいろな問題はあれど、クルトの衛兵詰所通いが始まった。
リーンが朝起きると、畑からはテオとクルトの明るい声が聞こえ、自分が薬草園に水やりを終えると、畑仕事を終えたクルトは卵を焼きテオがパンを焼いている。ニナは真剣な顔でサラダに使う葉っぱを千切っていた。
朝食前に、リーンはテオたちが洗ってくれた洗濯物を干すことにする。背が高いから洗濯物を干すのはリーンの仕事である。シワが寄らないように干す技術を手に入れるのに苦労したなぁと思いつつ、タオル干してパンパンと手で叩く。
「クルト兄ちゃん、今日は衛兵詰所に行くんだろう?」
「ちょっ、卵をひっくり返すときに話かけるなっ! ん~よっと」
洗濯物を干したら、食事をする準備だ。野菜洗いと葉っぱ千切りを終えたニナと一緒に、お皿やカトラリーを準備する。リーンはテーブルの上に放り出した本を片付け、ニナの指導の元、詰んだ草花を活けた花瓶の位置を直す。
「そうだ、今日は剣の稽古と、ちょっと盾の使い方も教えてもらう」
「わああぁっ、すっごいなぁ」
クルトの得意そうな言葉に、テオは純真な心とキラキラとした眼差しで応えた。別にテオは剣が好きでもないし衛兵や騎士に憧れているわけではない。ちゃんとリーンはテオに直接聞いた。もし、衛兵になりたいなら、別々に手配すると面倒だから、テオの分もやってしまおうと考えて、先回りしてテオの意向を確認したのだ。
テオは、これぽっちも騎士や衛兵になりたいと思ってなかった。リーンがちょっとだけ、ホッとしたのは内緒だ。
「ごはん、まだぁ」
グーと鳴るお腹を両手でおさえてニナが情けない顔で強請ると、テオとクルトは苦笑してパンとオムレツ、サラダを運んできた。もちろん、リーンも手伝っている。みんなの分のミルクとオレンジジュースを用意して、今日も一日の始まりだ。
「いただきまぁ~す」
ニナがあ~んと大きく口を開いて、オムレツを頬張った。
どうにも家の周りにイヤな気配を感じる。
リーンはテオとニナがお昼寝している間、商業ギルドのギルドマスターヨハンから預かった本を読んでいた。読みたくはないが、今後の仕事に影響があるので、勉強だと自分に言い聞かせ読んでいた。
そのおかげで、本に集中することなく、周りに意識を向けていたので気が付くことができた。何人かがこちらを窺う気配。盗みを働こうとするゴロツキでもなく、子どもたちに危害を加えようとする悪党でもない、洗練された動き。
「……冒険者? いや、騎士か?」
元公爵子息であるリーンは、何度か王族とも顔を合わせたことはあるが、わざわざ騎士まで寄越して近況を心配される間柄ではない。むしろ、公爵家嫡男でありながら、平民との真実の愛を貫き廃嫡されたバカなど知らんと捨て置かれている立場だ。
王国騎士団に籍を置く者ではないなら、私兵……公爵家のお抱え騎士か?
「ふむ。公爵様にとって捨てた子どもが邪魔になる案件でもでてきたか?」
物騒なことを呟きつつ、扉と窓の施錠を確認する。二階にはテオとニナが無防備に眠っており、二人の様子を見にいきたい衝動に駆られるが、ここで自分が動き、その隙をついて相手に襲撃されても困る。
部屋の中に視線を走らせ、いざなったときに武器となるものを頭の中でピックアップしていく。キッチンからは包丁とめん棒と、フォークやナイフもいいかもしれない。一階で敵と応戦中に二階に忍びこまれてテオたちに何かあるとマズイなぁ。見もしていない悪漢との闘いを頭の中でくり広げていたせいか、扉をノックする音に気付くのが遅れた。
結果、訪問客自らか扉を開けたが……鍵はどうした? とリーンの時間は暫し止まった。
「なにアホ面を晒してやがる。俺は身の周りには注意しろって言っただろう?」
確かに聞いたとリーンは内心では頷いていたが、いまは兄がなぜ鍵のかかった扉をいとも容易く開けられたのかと慄いていた。
「周りにいた騎士もどきは散らしておいたぞ。ちっ、何人か冒険者たちを連れてきてよかったぜ」
勧めもしないのに、椅子にドカリと座りティーポッドからドボドボと冷めた紅茶をカップに注ぎ、グイッと飲み干す。兄さん、そのカップは僕が使っていたものですが? 困惑が深くなる一方のリーンを置いてきぼりにし、兄であるジークハルトはキョロキョロと部屋の中を見回す。
「あれ? ガキどもがいねぇな? まさか、もう攫われちまったあとか?」
「ちがいますよ! クルトは衛兵詰所ですし、テオとニナは二階でお昼寝中です」
リーンは柳眉を逆立てジークハルトに返すと、カップを取りに立ち上がる。
「ついでに菓子もくれ。冒険者たちを雇ってしばらく警戒しておくか?」
「はい、どうぞ。外にいたのは公爵家の者でした? それとも……」
「なんでユンカース公爵家がお前に騎士を向かわせるんだよ。あっちはあっちで、新しい後継者を迎えるから、大忙しだぜ?」
後継者家族に合わせた部屋の内装や調度品を用意し、現公爵は離れに移動するためそちらの手配。公爵夫人は一足先に領地へ向かったが、使用人たちが共に移動したため、公爵邸では人手不足でさらに混乱。
はっきり言って廃嫡した子の動向を探る手間があるなら、いっそのこと……。
「じゃあ、違いますね。では……あちらのほうですか?」
まだ元婚約者との関わりが切れないのかと、ため息を吐くリーンだった。




