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真実の愛に破れた元公爵子息はスラムの孤児とのんびり暮らしたい~おしかけ同居人も添えて~  作者: 沢野 りお
兄と公爵家と小さな剣士

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やりたいこととできること 5

衛兵の訓練を見学したその夜は、クルトの興奮度合が凄かった。ふと、目を向ければクルトは剣を持ったフリで今日見た衛兵の剣捌きを模倣していたり、テオ相手に組み手をしたり、はしゃいでいた。とにかく、剣に興味があるのか、自分の木剣を磨いてうっとりと眺めている様子を見たら、もう知らないふりはできない。


「クルト。ちょっといいかな?」


「あ、はい」


リーンがいつにない雰囲気で声をかけたからか、怒られると勘違いしたクルトはしょんぼりと肩を落としてやってきた。テオも心配そうに見守っている。ニナはむにゃむにゃと一足先に夢の国へと旅立った。


「クルト、今日衛兵の訓練を見学して、どう思った?」


「へ? いや、別に……」


きょとんとした顔で見返してくるクルトに、リーンは質問の仕方が悪かったかと苦笑した。かと言って、衛兵になりたいかと尋ねれば、クルトは遠慮して否定するだろう。


「……クルトは剣が好きだよな?」


「…………」


クルトは、リーンの迷惑にならないように、どう答えればいいのか迷った。その返答に迷った僅かな隙に、テオが大声でクルトの気持ちを代弁してしまう。


「クルト兄ちゃんは剣が大好きです! ほぼ毎日、見回りの衛兵さんに剣を習ってます!」


ビシッと背筋を伸ばしてテオが暴露すると、クルトは慌てた。まるで、秘密にしていたことがリーンに知られてしまったというように。


「ち、違います! ちょっと、時間が余ったから……たまたま、衛兵の兄ちゃんたちに教わっただけで……」


じんわりと額に汗をかき、目をグルグルと回して言い訳するクルトの姿に、リーンはクスッと笑いをもらした。


「あれ?」


「ハハハ、いいよ、いいよ。剣の手合わせをしていたことを咎めたいわけじゃないんだ。クルトが剣が好きで習いたいなら、師を見つけてくる。馬にも乗りたいなら馬も手配しよう。僕はねクルト、君の気持ちが聞きたいんだ」


「俺の気持ち?」


親を亡くして一人で歯を食いしばって生きてきた。時には望むものも手放して、夢を見ることも諦めて、ただ生きることを自分に強いてきた。だから、リーンに望むことを聞かれても、クルトは自分の本当の望みが見えにくかった。


「クルト兄ちゃん。いつも楽しそうに剣を振ってるよ? 昨日より強くなったかもって嬉しそうだよ?」


クルトにはわからない気持ちも、側にいたテオにはわかる。テオはクルトが望むものを手に入れられるようにと願いながら、言葉を重ねた。


























リーンは時間をかけて、テオの助けも借りつつ、クルトの気持ちを聞き出した。衛兵になりたいかどうかはわからないけど、剣は強くなりたいと。それならば、衛兵詰所の雑用係として働いてみないかと提案してみた。


この衛兵詰所の雑用係については、訓練見学中に大隊長ヴェンデルからの提案でもある。将来、衛兵を目指すならば見習いとして受け入れてもいいと言われたが、クルトの場合はクリアしなければならない問題があるため難しいと、遠回りに断った。そうしたら「名目上は雑用係として働き、特別に剣を教えてやろう」と恩着せがましく言われたのだ。


しかも、剣だけでなく、乗馬や他の武器も教えてくれるという大判振る舞いだ。リーンはそれとは別に雑用係としての給金をクルトに払うように交渉した。

渋い顔のヴェンデルだったが、そもそも雑用係の給金は高いものではないので、彼の私費で賄ってくれるだろう。


「でも……俺が衛兵詰所に行ったら、ここはどうするんですか?」


「お、俺が頑張るよ、クルト兄ちゃん!」


ドンッと胸を叩いてテオが主張するが、リーンは苦笑して首を横に振った。


「この家だって、クルトがいなくなったら困るさ。だから衛兵詰所での仕事は朝の畑仕事のあとで、衛兵の見回りと一緒に詰所へ行く。午後には衛兵の馬でこの家に帰ってくる。ニナのお昼寝が終わるころかな?」


雑用係といっても短時間のみの勤務だから、せいぜい馬の世話とか、食事の下拵えとか、衛兵たちが使う部屋の清掃とかだ。それも日替わりで。


「毎日は通わない。クルトが行きたいならいいけど、慣れるまでは一日おきにしよう」


そして、この家にいるときに、リーンには無理でもテオには家事を教えておいてほしい。とくに料理を! リーンの必死な顔にクルトはアハハと声を出して笑った。


「はい! テオには紅茶の淹れ方も教えます」


「そうしてくれると助かるよ。仕事するのにクルトの淹れてくれたお茶がないとね」


リーンの誉め言葉に嬉しそうにはにかむと、クルトはテオに向かって大きく頷いた。テオも両手を握って頷いて応える。


「雑用係している間に、他にやりたいことができたらちゃんと相談するんだよ? 僕はクルトがやりたいことをやってほしいのさ」


「はい、ありがとうございます」


クルトはリーンへ深々と頭を下げた。隣のテオまで頭を下げるから、リーンは少し気恥ずかしい気持ちになった。クルトはきっと剣の稽古に夢中になるだろう。面倒見もいいし、正義感も持っている。近い将来、リーンに「衛兵になりたい」と相談してくると思う。そうなってほしいとも願う。

だからこそ、リーンはクルトの問題を片付けるために動くことに決めた。


とりあえず、商業ギルドのギルドマスターヨハンを訪ねよう。


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