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真実の愛に破れた元公爵子息はスラムの孤児とのんびり暮らしたい~おしかけ同居人も添えて~  作者: 沢野 りお
兄と公爵家と小さな剣士

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やりたいこととできること 2

リーンはレースのドレスの女性が、幼いときからの婚約者だったガブリエラだとすぐにわかった。真実の愛の相手であるはずのイリーネについては、化粧が濃くてすぐにはわからなかったが。自分と会うときは薄化粧だったのか、新しく男を見つけなくてはいけないから化粧が濃くなったのかは、リーンが知ることはない。


「ちょっと、アンタの言ったとおりにしたじゃない。だったらもっと金を寄越しな!」


「……報酬はもう払ったはずよ。とにかく、もう連絡はしてこないでちょうだい」


揉めている内容がお金のことであり、ここで言う報酬がリーンを誑かすことだと推察したリーンは、関わらないためにも路地から離れようとした。離れようとしたが、なぜかテオたちが目を爛々と輝かして、二人の女性がやり合うのを凝視している。


「ほら、喧嘩しているみたいだから、あっちへ行こう」


ポンポンとテオとクルトの背中を軽く叩くが、二人は無言で頭を横に振る。リーンと子どもたちとの無言の攻防を繰り返す間、キャットファイトは段々と苛烈になっていくようだ。


「それは違うだろ? あたしは貴族のボンボンとイイ仲になれって言われて、アンタのいう真実の愛ってやつの相手をしたけど……。アンタ、あたしが貴族の奥さまになれるつったじゃん」


「……そうだったかしら?」


「言ったよ! リーンハルトの奴は公爵家の子どもなんだろう? だったらあたしは公爵夫人になれるはずだったのにぃ。アンタ、あいつが家から追い出されるの……わかってたよね?」


「…………」


そんなつもりはなかったのに、路地から動かないテオたちのせいで、二人の会話を盗み聞きすることになったリーンは小さくフンッと鼻を鳴らした。ガブリエラが自分との婚約を破棄させるため、イリーネに誘惑させていたのには気がついていた。腹も立たないし、結果的に公爵家から放逐されて感謝してもいいぐらいだ。ただ、気に入らないのは、そのままイリーネに騙されて結婚までするバカだと思われていたことだった。


あんなに婚約者として接してきて、リーンハルト・ユンカースがすこぶる優秀だったのかを知らないなんて、どけだけ自分に興味がなかったのか……。彼女に愛情を感じたことはなかったが、長い時間の積み重ねから生じた細やかな情はあったのに……。


「アンタ……あたしを貴族にしなっ。あの坊やでもいいし、他の貴族の若い男でもいい。あたしに紹介しなよ」


「そんなことできるわけがないでしょう? 貴女、平民なのよ? 平民が貴族と結婚なんてできるわけないじゃない」


ガブリエラはイリーネの無知さを嘲るように言い放った。が、それは悪手であった。彼女はリーンを嵌めるため、イリーネに貴族との結婚を仄めかして利用していたのだから。


「なんだって! アンタ、あたしがあいつと結婚したら貴族になれるつったじゃん! アンタ……騙したね?」


「それぐらい常識でしょう? ……っつ、ちょっ、きゃあああ、やめ、やめなさいっ」


イリーネはガブリエラの返事を待つでもなく、爪を立てて飛びかかった。侯爵令嬢として蝶よ花よと育てられたガブリエラは、そんな攻撃を躱すこともできずに両腕で顔を庇い逃げ惑う。


「あ~あ……」


「リーン様。止めないのですか?」


テオがきゅるんとした純粋な眼差しで見てくるが、リーンは片方の口端だけ歪むように笑うと、その場を静かに離れた。


「いいかい、テオとクルト。女性の喧嘩には、決して嘴を突っ込んではいけないよ? 大ケガの元だからね」


パチンとウィンクするリーンの顔をきょとんと見つめた二人は、路地の奥で喧嘩をする二人はものすごく強いのかもと震えてしまう。クルトに口を塞がれたニナだけは、好奇心に瞳をキラキラと輝かして女性二人のしょうもない喧嘩を観察していたのだった。



















ヨハンお勧めの食堂で夕食を食べつつ、リーンは先ほどの二人のことを考えていた。本来、貴族令嬢であるガブリエラが平民街を歩くなどあり得ない。例え、治安がいい西区だったとしても。今回はイリーネから誘われて、若しくは脅されて足を運んだとしても、侯爵家の護衛がいるはずだ。きっと、見えないところに控えていたと思う。しかし、イリーネが爪でガブリエラに襲い掛かったときに、護衛は止めなかった。それの意味するところは?


「リーン様? もう、お腹いっぱいですか?」


難しい顔で黙ったままワインばかりを口に運ぶリーンの様子に、心配したテオがおずおずと声をかけた。


「ああ……いや、ちょっとボーッとしてしまったよ」


クスッと苦笑して、ステーキにナイフを入れる。ニナはご機嫌でフォークに刺したソーセージに歯を立てた。パリッと小気味いい音が聞こえる。ニナは肉汁の美味しさに足をバタバタと動かした。


「うまいか、ニナ?」


「うん! とってもおいしいよ! クルトにいちゃんは?」


クルトも大きく切った鶏肉の香草焼きをはぐっと頬張ってみせた。


「ほら、ニナ。零れてるよ」


テオはたびたび自分の食事の手を休めて、ニナの世話を焼く。


「ふふふ」


リーンは頭の中から元婚約者と真実の愛の相手のことを追い出して、目の前の幸せをたっぷりと感じることにした。

美味しい食事とかわいい子どもたち。ゆったりとした時間と自由を。


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