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真実の愛に破れた元公爵子息はスラムの孤児とのんびり暮らしたい~おしかけ同居人も添えて~  作者: 沢野 りお
兄と公爵家と小さな剣士

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ご挨拶しよう 5

小さな家の狭いリビングに、クルトの淹れたやや渋い紅茶でこの家に初めて訪れた客をもてなす。テオとニナは二階の部屋にいるようにとリーンに言われたが、階段からこっそりと覗いていた。リーンには、二人がこっそりと覗き見しているのはバレてはいるが。


クルトはリーンの従者として、ソファーに座ったリーンの後ろに立っている。黙って立っているが……視線は客の顔に向けられている。それもしょうがないことだ。今日、ヴェンデル大隊長から聞いた、勇者とその仲間の話が頭の中でグルグルと巡っているのだから。


「……久しぶりですね」


リーンはニコニコと客に話しかける。客はむっすりと黙ったまま、向かいに座るリーンの顔を睨んでいた。


……クルトはそっとリーンと客の顔を見比べる。きっと、テオとニナも階段の上から二人の顔を盗み見ているはずだ。その客とリーンはとても似ていた。背格好も似ているし、顔立ちも似ている。貴族子息らしいリーンと違って客は少々ワイルドさがあったが、それでも他人とは思えないぐらい似ていた。そして、他人ではないと思う。クルトはそっと客の顔を、その瞳の色を確認した。エメラルドグリーンの瞳。深い緑色に輝くその瞳は、勇者の仲間、賢者の家系に受け継がれるもの。だから、きっとこの人もリーンと同じく公爵家の人だろうとクルトは予想した。


「……家には、戻っていないのですか?」


リーンは、チラリと家の外、窓から見える黒い立派な体躯をした客の馬を見た。この黒い馬は実戦にも耐えうる馬で、公爵家の馬ではない。公爵家の馬は馬車を牽く馬と優美で狩猟用に乗る馬であり、剣を振るい敵を葬る戦いを共にする馬ではなかった。


「俺の家は公爵家じゃない。それよりも……お前はなにしてるんだ?」


客の眉間のシワがより一層深くなった。


「なにって……魔道具職人として仕事をしたいのですが……王太子が決まるまでは、新商品は作るなと厳命されてしまい……のんびりしてます?」


コテンと首を傾げて答えると、客の握り拳がブルブルと震え出した。後ろで話を聞いていたクルトも、内心ではリーンは客をからかって遊んでいるのかと疑問に思っている。


ダンッ!


「そうじゃない! なぜ、公爵家を出て平民になったんだ! お前はユンカース公爵家の正統な嫡子だぞ? お前が平民になったせいで、公爵家は養子をもらうことになったと聞く」


「あれ? 養子ですか? 兄さんは継がないのですか?」


「にっ……兄さんだと!」


リーンによく似た客は、リーンに「兄さん」呼びされたことに驚き、ソファーから立ち上がった。勢いよく立ち上がったので、テーブルの上の茶器がカチャリと音を立てた。


「あれ? 平民では兄上のことを兄さんって呼ぶのでは? さすがに兄ちゃんでは気安いかと思い、兄さんにしたのですが……兄ちゃんがよかったですか?」


「……兄ちゃんは止めろ。そもそも、お前は俺のことを兄と認めていたのか?」


疲れたような顔でソファーに座りなおした客、リーンの兄は訝しそうに弟の顔を見た。クルトは自分の予想通り、客がユンカース公爵家の者だと知って一人納得している。だが、二人の間にはテオとニナのような親愛のオーラは感じられないことに首を捻る。


「昔から認めていましたし、仲良くしたかったですよ? ただ……母上の眼を気にしたら無理でしたけど」


ハハハと力なく笑ったリーンは、自分の両手をぎゅっと組合わせ悲しげに目を伏せた。


「兄さんは何も悪くないのに……母上が……。でも母上の気持ちもわかるし、元凶の父上をどうにかするには、まだ自分は幼かったので。何もできなかったことを、ずっと詫びたいと思っていたのです」


「……まさか、それで婚約破棄をしてわざと廃嫡され、俺に公爵家当主の座を明け渡そうとしたのか?」


兄の追及に、ついーっと顔を背けるリーン。そして、言い訳がましく小声で申し開きをする。


「婚約破棄を言い出したのは向こうですし。もともと彼女は僕のことを気に入らなかったみたいですし。兄さんのために公爵家を出たわけじゃありませんよ? 僕もあの家は嫌いだっただけです」


「だったら……もっと穏便に家を出ればよかっただろう? 公爵夫人はお前が廃嫡され倒れてしまったのだぞ?」


「息子の身を心配して倒れたんじゃありませんよ。社交界で噂されるのが嫌だっただけです」


母のことなのに、冷静にスパーンと言い切るリーンを見て、兄は鼻の頭にシワを寄せた。


「確かに、庶子だった俺は、公爵家に引き取られたとき、公爵夫人に嫌がらせをされたが、それは当然のことだ。夫の裏切りの証拠が目の前にいるんだから」


リーンはちょっと口を尖らせた。兄が母のことを庇うのが理解できないし、父である公爵の地位なぞとっとと奪い、父を隠居させてしまえばいいのにと不満を募らせる。


「……兄さんが公爵になれば、僕は全力でお支えしますよ?」


「ならん。俺は平民が性に合っている。母も貧しい子だくさんな男爵家出身だし。今さら、公爵になれと懇願されても断固拒否する。……それより、お前は幼いときから公爵となるべき厳しい教育を受けてきたのに……今からでも公爵家に戻れないのか?」


「無理ですね! なんでも僕は、公爵家よりも平民の女性との真実の愛を望んだ男なので!」


ニコーッと邪気のない笑顔で言い切ったリーンの姿に、兄はパチパチと瞬きを繰り返した。


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