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真実の愛に破れた元公爵子息はスラムの孤児とのんびり暮らしたい~おしかけ同居人も添えて~  作者: 沢野 りお
婚約破棄と真実の愛

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元公爵子息と小さな家 6

婚約破棄のせいで公爵子息、小公爵の身分がなくなったが、平民となっても特に困らないと思っていたのには、リーンには魔道具職人としての別の顔があったからだ。生活に根差した魔道具の多くは、古くからの魔道具を修理して使い続けており改善はされていない。その、主に平民が愛用する古い仕組みの魔道具を改良し、さらに必要と思われる新しい魔道具を開発したのはリーンだ。


魔道具とは、貴族王族が愛用するものであり、多少の魔力が必要な魔道具職人は、特権階級の者たちに重宝された。そうなれば当然、彼らの望むものを作り出すことがメインとなり、新しい魔道具は高値で取り扱われ、平民が手にすることはできないものとなった。


貴族たちに飽きられた魔道具職人は、貴族街にある魔道具工房から追い出され、平民街の魔道具工房に流れ着き、古い魔道具の修理を糧にして生きていく。


そんな常識を破り、なにより平民たちが使う、平民の暮らしに役に立つ魔道具の開発を主にしているのがリーンであり、それを作成する工房や売る商会からの仲介料でウハウハとなのが商業ギルドである。


リーンは商業ギルドにとって金の卵を産む鶏。ただの高ランクギルド員ではないのだ。

それなのに……新しい魔道具を作らなくていいとは?


「僕は……どうしたらいいのかな?」


予定外に同居人が増え、多少なりとも食べさせていかなければならない。責任ある立場になってしまったのに、無職とは……。いや、お金が足りないわけじゃないけど……子どもたちから「仕事しないの?」と聞かれたらどうしよう?


「なにもずっと魔道具を作るなといっているわけではありません。せめて王太子が決まるまでは、我慢してください。リーン様の場合は試しにとか、ちょっとだけ、とかもダメです。うっかりとんでもないものを作ってしまうかもしれません。アイデアだけでも盗まれたら、たいへんです」


「……王太子ねぇ。そうか、そろそろだったか」


この国、バーデッド王国には三人の王子がいる。第三王子はまだ幼いため、王太子に選ばれる可能性は低い。そうなると母親の違う第一王子と第二王子のどちらかだ。

王妃の子どもは第一王子と第三王子、ついでに第一王女。側妃が生んだのは第二王子。長子であり母が正妃である第一王子が王太子になると思われていたが、第二王子側は強力な後ろ盾を用意してきた。それが、第二王子の婚約者であるソフィア・カレンベルク公爵令嬢。カレンベルク公爵家は四代前の王女が降嫁しており、その前にも王家と縁づいたことがある。血筋が貴いだけでなく広大な領地と屈強な騎士団を有し、領地には鉱山を幾つか抱えている。寄子貴族も多く、血と金と人脈に優れた家である。


このカレンベルク家との婚約が王命で成されことで、王太子争いが苛烈さを増していく……はずだった。


「しかし、どんなに後ろ盾を得ようとも側妃の生家は伯爵家。陛下がどんなに寵愛しようとも、王妃の生家である侯爵家は隣国の王家の血が流れるという。それに、二人の王子の優秀さを比べても……第一王子が圧勝なのだが?」


これはリーンがユンカース公爵家という、王家でさえ手出しができない家の者だったから知りえた情報ではなく、王都にいる貴族なら誰でも知っていることだ。知らない、いや理解できないのは当の本人の第二王子陣営だけだろう。


「多少は取り繕わないといけません。第二王子殿下はどうでもいいですが、カレンベルク公爵家を怒らせてはなりませんから」


「そうか? 第二王子はソフィア嬢を疎んで他の令嬢にうつつを抜かしていると噂があるが……」


第二王子の首の皮はソフィア嬢との婚約で辛うじて繋がっているが、本人はその意識がまったくなく、王命で勝手に婚約を決められたと不貞腐れているらしい。婚約を結んでもう何年も経っているのに。


「とにかく、王太子が決まるまでは大人しく。これは魔道具職人に限ったことではありません。新しいドレスのデザインも。新しい料理もスイーツも禁止なのです! 胸躍る歌劇も小説もなにもかもが新しいものは禁止です!」


ドンッとテーブルを叩くヨハンに、リーンはビクンと体が反応するほど驚いた。


「いったい……なぜ?」


「いいですか? 王太子が決まるまではあちこちの分野から新しいものが次々と生まれていたのに……、いざ王太子が決まったら、それらがピタリとなくなったらどう思います?」


どう、思うって……そんなこともあるだろうし、特に何も思わないが……。


「ダメですな……ダメです。リーン様は商人には向きませんなぁ。いいですか? それは決まった王太子様に何か瑕疵があると思われるのです!」


「いや、まさか、そんな……」


ヨハンは痛ましげに顔を歪めて、リーンの呟きに頭を横に振って否定する。

社交界というものは魔窟である。煌びやかで美しい、夢のような世界ではあるが、実際には足の引っ張り合いと悪意のある噂話に、危うい遊びが蔓延るところだ。


「たしかに、王太子が決まった途端、何もかもが不調になったと騒ぐ連中がいるな」


「ええ。ですから、リーン様は王太子が決まったあとにバンバン作ってください」


「はは……。頑張るよ。それじゃあ、ヨハン。テオたちのためにも、僕の名誉のためにも、他の仕事をくれないか?」


かわいいテオたちからの冷たい視線なんて耐えられそうもないからね。


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