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真実の愛に破れた元公爵子息はスラムの孤児とのんびり暮らしたい~おしかけ同居人も添えて~  作者: 沢野 りお
婚約破棄と真実の愛

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元公爵子息と小さな家 5

今日も商業ギルドで借りた馬車に乗って、平民街西地区中央街までお出かけするリーンたち。

しばらく同居することが決まったクルトの服や日用品の買い出しと、クルトに盗みの罪を被せて職場を追い出した奴らの報復……いや調査を頼むため、商業ギルドのギルドマスターヨハンを訪ねる。


「……リーン様。私はこう見えても、意外と仕事で忙しい身分なのですが……」


「ここ最近は、手間をかけさせて悪いとは思っているが、ちょっと事情があってね」


チラリとテオとニナ、昨日から増えた同居人のクルトに視線を流すと、ヨハンも見慣れない子どもの姿に目を細めた。


「日用品と服。あ……あと食材の購入で、この子たちの付き添いを誰かに頼みたいんだが」


「わかりました。必要なもののメモなどありましたらお預かりします」


リーンは一枚の紙をヨハンに渡すと、クルトと視線を合わせるためしゃがんだ。


「いいかい? 遠慮はしなくてもいいから欲しいものを買いなさい。文房具や盤上玩具などもだよ。ああ……ニナのぬいぐるみとテオのペーパーナイフも選んでくれ」


ポンポンと頭を軽く叩き、クルトが照れくさそうに頷くのを見届ける。ぬいぐるみを買ってもらえるとわかったニナは「やったぁ」とはしゃぎ、テオはソワソワしている。ソワソワ……いや? もじもじしだした。


「あ、あの、リーン様! クルト兄ちゃんに剣を買ってもいいですか?」


「やめろ、テオ!」


「剣?」


確かに十歳ぐらいの子どもでも、冒険者ギルドに登録して仕事をしている子は、自分専用のナイフや剣を持っている子もいる。クルトも剣が欲しいのか? そんな気持ちでクルトの顔を見ていたら、再びテオが声を出す。


「クルト兄ちゃんは強いんです! スラムのときは木の棒だったけど、大人を蹴散らしちゃうぐらい強いんです! だから剣を習ったらすごいと思うんです!」


「テオの推薦はあるけど……クルトは剣を習いたい?」


「え? いや……スラムのときは大人とやり合うのに棒を振り回していただけだし……。確かに棒で魔獣を追い払ったこともあるけど……剣を習うなんて考えたこともない」


スラムから脱出するなら冒険者ギルドに登録して冒険者になるのが手っ取り早いが、クルトはしっかりと働いて安定した暮らしを求めていたので、冒険者になるつもりはなかったらしい。


「ふむ……。やりたいことを見つけるのも大事だが、できることを確認しておくのもいいことだ。ヨハン、クルトたちを武器屋にも連れていってくれ」


「はいはい、わかりました」


高ランクギルド員に対しておざなりの返しだったが、しょうがない。ヨハンの仕事の邪魔をしている自覚がリーンにはあった。

























「ふぅ~っ。美味しい」


「ただの紅茶ですが?」


不思議そうな顔でひと口紅茶を飲み、そしてますます不思議そうにカップの中の紅茶を見るヨハンの姿に、リーンの口から笑いが漏れる。


「ははは。違う、違う。淹れるほうの問題だ」


ああ、と納得したヨハンは、リーンに使用人を雇うことを勧めようとして諦める。代替案は申し出ることにしたが。


「では……、あのクルトという少年に、紅茶の淹れ方をレクチャーしておきましょう」


「それは助かるよ」


決してリーンには教えない。ヨハンは忙しいのだ。無駄なことはしないに限る。


「それで、今度は何がありました? 私は嫌ですよ? こちらに来るたびに同居人が増えるなんて。しかも問題付きの」


「そんなことにはならないよ。今回は特別さ。クルトはスラム街で生活していたときのテオたちの恩人らしいからね」


パチンとウィンクしてきたリーンへ胡乱な目つきで不満を表し、手早くまとめられたクルトの身上書に目をとおす。


「相変わらず仕事が早いね。クルトに会ったのはさっきでしょ?」


「こういうものは早さが大事です。情報っていうものは」


ヨハンは身上書をリーンへと差し出し、ある運輸業者についての資料を持ってくるよう、ギルド職員に指示を出す。


「そんなに難しい話ではない。クルトはここに雇われていたが、金を盗んだと冤罪を被らされ追い出された。僕と会ったときは足が折れていて、暴行の痕があったよ」


サラサラと身上書の端に、クルトを連れていった医者の名前を書き加える。


「ふむ。教会への手配でリーン様が拾ったなにかが怪我をしているとは思いましたが……まさか、そのまま引き取るとは……」


「クルトは次の仕事が見つかるまで預かるだけだよ。元気になって落ち着いたら、本人の希望の仕事を探してあげようと思って」


ペカーっと純真なフリをした笑顔を見せつけられ、ヨハンは疲れた表情で大きく息を吐いた。


「そのときは……ご協力させていただきますとも。ええ、喜んで」


「嬉しいよ。ところで、そのクルトを追い出したところ、ちゃんと調べて取り締まってくれ。クルトは追い出されるまで働いた賃金も貰ってないし、怪我をさせた奴らから治療費も貰わないと。ああ……もちろん、金を盗んでいた本当の犯人には罪を償ってもらってくれ」


「……はい、わかりました。このヨハンがすべて手配をしておきます」


「すまないね。ああ、ちゃんと仕事はするよ? クルトは料理もできるし掃除も洗濯もできる。花壇の世話もできるし畑も薬草も育てられるんだ。すごいよね? だから僕も時間を持て余しているから魔道具の仕事を……」


「仕事ですか……」


魔道具職人の仕事に精を出すと告げれば喜ぶと思ったヨハンは、たいして興味もなさそうに聞いて流した。あれ?


「新しい魔道具とか……いいのか?」


「リーン様……、できましたらしばらく魔道具を発明したり作ったりするのは、お控えください」


「……?」


それでは貴族子息から平民。魔道具職人というラベルもなくなったらただの無職。無職な平民は……ちょっとまずいのでは?


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