帰還①
帰還
「おはよう守人、今日もかわいいわね」
「おはようライラ、今日はみんな揃っているかね?」
「ええ、みんないるわよ」
「それでは、話の続きをしようか」
「宇宙が大介入を行って、地球の人々の意識改革と地球の五次元上昇を行うために、大量の魂を送り込んだ話をしたね。今日は、ラマナとケイリーの魂が地球に来た経緯とこれからのことについて話しておきたいんだ」
私と愛歌は、お互いに目を合わせた。
「まずラマナから話そう。以前少し話したと思うが、ラマナは、四次元の地球に、魂の記憶を持ったまま入り込み無事に美しき星へ帰還する方法を探すために、宇宙の記録を集め、幾日も文献を読み漁っていた。1900年の終わりごろ、ついにその方法を見つけ出した。
その方法は、ライラと同じ魂を持つ者の子どもとして生まれ、お互いの響きでそれぞれが魂の記憶を思い出すというのが一つ」
「魂の記憶?」
「使命のことだ」
「使命を思い出すことか……えっと、ライラと同じ魂を持つ者の子どもじゃないとダメな理由はなんだ?」
「ライラたちには、テレパシーという能力がある。ラマナが幼いころは、まだ魂の記憶を持っていたはずだ。それをライラが読み取り、成長したラマナに返していくというものだ」
「えっと……返してもらった記憶がないですけど」
ばっちゃんが、急に私を睨んだが、すぐに話を戻した。
「おそらく、何度となく、観察することや文章を書くことを勧めていたはずだ」
「そうだったかも知れないな。それで、ばっちゃんは、どうやって記憶を取り戻したんだ?」
ばっちゃんが答えるまで、少し間があいた。
「そうね……、子育てしていくうちに、この子は、地球に初めてやって来た子どもかもって思ったことがあったわ。不器用で、みんなと同じようにできない子でね」
愛歌が私に向かって何度も指さしてくるので、睨み返してやった。
「子どもを通して、今まで出会わなかったような人たちに出会って、いつの間にか、メッセージを受け取れるようになっていったということかな。いつも大切なことは、子どもから教わったって今でも思っているわよ」
愛歌が、急に指をさすのをやめて
「いつも大切なことは、子どもから教わった。か……」
「そういうことだ、ラマナ」
「なるほど、一応わかりました」
「そして、もう一つあるんだ。それは、地球内で転生を繰り返さず、帰還する方法として、死ぬ間際に魂に刻んだ暗号を唱えるというものだ」
「ええっ、暗号?」
「そうだ、美しき星で魂に暗号を刻んでいるんだ。それを思い出して欲しい、何としてでもだ」
私は目を閉じ、腕を組んで頭を傾けた。暗号のことなど、さっぱり思い出せなかった。
「ラマナ、君は、記憶がなくなることをわかっていたはずだ。頭のいいラマナなら、それでも思い出すであろう暗号を魂に刻んだだろう。今思い出せなくとも、必ず思い出して、私たちの星に帰還してくれ」
「次にケイリー。2011年、多くの愛の魂が、地球に来ることを志願してくれた。もちろんケイリーもその一人だった。しかし、長老から出発することに決定したので、ケイリーは、星に残ることになったんだ。ライラの帰還を今か今かと待ちわびるケイリーにとって一年は本当に長かっただろう。ある日突然、ケイリーが姿を消した。書置きにはこう書いてあった。
『私は、お父さんの言うように、ここでお母さんが帰ってくるのを待つなんて無理だわ。今お母さんに会いたいの。会えるのに会えない理由を探す必要はないわ』
ケイリーは、ラマナに子どもができたことを知っていたんだ。その子の魂として地球に降りて行った。 本来ならラマナが使った方法を使わなければ、特定のところに魂を送り込むことは難しい。しかし、ケイリーはそれをやってのけたんだ。
ケイリー、私はね、君がいなくなってとても寂しい気持ちになった。でも私には、私の魂の仕事があって、それを投げ出して地球に行くことはできなかった。だけれども、日を追うごとにケイリーの言葉が、私の魂に大きく響いてきたんだ。
『会えるのに会えない理由を探す必要はない』
ケイリーの言うとおりだったよ……。以上が、二人が地球へ来た経緯だ」
「ちょっと聞いてもいいですか?」
私は自分の魂に刻んだと言う暗号が気になって、愛歌の話は全く耳に入っていなかった。
「暗号を解読しないと、このまま地球で輪廻転生を繰り返すということですか?」
「そういうことになる」
「私は、暗号が無くても帰られるの?」愛歌はすぐに聞いてきた。
「ケイリーは、帰られるはずだ」
愛歌は、両手の親指をたてて『やったね!』という顔をして、私の方を見た。
どうして私だけが……と内心で呟いた。
「でも、記憶が戻らなければ、地球でこのまま暮らしても何の問題もなさそうですけど」
「そうだな、記憶が戻らなければな。ライラの話を君も聞いていただろう?」
「ええ」
「ライラは、自分の魂が別の星からきたことを思い出して、いつも帰りたいと思って苦しんでいたんだぞ。ラマナもそうなる可能性が高いはずだ」
今は、まったくピンとこなかった。
「ラマナ、君なら必ず暗号を思い出せるはずだ。星の皆が君の帰りを待っているんだ」
「ねぇ、お父さん、ばっちゃんに聞いてみたら? いつもいい線まで思い出せるんだから?」
愛歌がそういうと、母は、守人から目線を外して、少し考えてから
「あー…… 暗号ねー。暗号…… 無理よ、さすがにわかるわけないわ」
「そりゃ、そうだよ。ばっちゃんも知らない時の話だし」そういって、愛歌を睨んだ。
「さて、続きの話をしよう。2023年頃から、地球に降り立った多くの魂は、愛の響きを幾度も幾度も響かせた。地球の次元上昇を援助する宇宙の魂もそれに合わせて響かせ、共鳴しあった音は、大きなバイブレーションとなって宇宙全体に波動が広がっていった。2024年が終ろうかという頃に、ついに地球は五次元に上昇した。拡大した光が、宇宙全体を映し出したんだ。私たちの星でも大歓声で、大地が震えているようだったよ。
早い者は、五次元に上昇した直後から、私たちの星に戻ってきた。数カ月、数年をかけて多くの魂が戻ってきている」
「みんなは、どうやって帰っていったの?」愛歌が聞いた。
「魂だけになれば、特別な乗り物は必要ない。元居た場所に引き寄せられて戻るだけだ。連れ去られた多くの魂は、既に肉体を持っていない者が多かったので、すぐに戻って来たよ。そして、新しく送り込まれた魂で役目を終えたものは、自ら肉体を離れて戻ってきた」
「その魂って、まだ十歳くらいの子どもでしょう? 自ら肉体を離れるって? もしかして、私が今心の中で思っている怖いこと?」
「そうだ」
「……」
愛歌は、次の言葉が出てこなかった。
「君の気持はよくわかるよ。君自身、子どもを授かった母親だからな」
愛歌の目がうっすらと涙で潤んでいるようだった
少し間があいて、愛歌は、目を指で拭って、こう言った。
「私も同じ選択をするの?」
「君の魂の選択に委ねることにするよ。君はもう立派な大人だからね」
「守人は、どうなるの?」
「私は、覚悟を決めてここに来ている。それに従うだけだよ」
「待って。守人がいなくなるなら、私も生きていけない」
「ケイリー、安心して欲しい。私が誰よりも遅れてここに来た理由がもう一つあるんだ。それは、一つの肉体に二つの魂を入れる方法を見つけることだったんだ」
「えっ、守人には、二つの魂が入っているってことなの?」
「そういうことだ。私の魂が消えると同時に、その魂が生きることになる。君が自分の魂の使命を思い出すために、愛の魂と一緒に私はここへ来たんだ」
「私、もう頭がいっぱいになってしまったわ。少し考えさせて」
「わかった。今日の話は、ここまでにしないか、私も少し眠ることにするよ」
私も愛歌と同じ心境だ。私も、もし魂の記憶が戻り、魂の暗号が解けたとしても、妻や子ども、孫を残して自分だけ去るという選択をすべきかどうか、判断ができない。
もし、愛歌が、去ると選択した場合、素直に送りだすことができるのだろうか? 私は、頭を抱えて、パソコンの前でうなだれていた。
「おはよう守人、今日もかわいいわね」
「おはようライラ、ケイリーとラマナの具合はどうだい?」
「ええ二人とも深く考え込んでいるみたい」
「そうか……。今日は、何の話をしたらよいだろうか?」
「それだったら、私が疑問に思っていることに答えてもらえるかしら?」
「ああ、そうしよう。何が疑問なんだい?」
「あなたが、毎日のように私にメッセージを送ってくれたわよね。それを読み返していたの。その中で気になったことがあるの。私へのメッセージでは、2023年の夏に次元が上昇したとあった後、年末に大きな戦いがあって、私も力の限り念を使って加勢したことを思い出したわ。この戦いは、成功したとメッセージであったけど、翌日には、日本で地震が起こって大きな災害が起きたの。私は、自分の力が及ばなかったんだと、とても後悔したのを思い出したの。実際は、何が起こっていたの?」
「あの時のことだね。本来なら、2023年の十二月に次元上昇を完了させるはずだったんだ。夏までに四・五次元まで上昇した時に例のケルベロス星人が邪魔をしてきた。五次元に上昇してしまうと、彼らが簡単に地球を牛耳ることが難しくなるから必死だったんだよ。三次元だった時の地球のように、暗い膜で地球を覆いつくそうとしたんだ。そんな彼らの抵抗にあって、私たちの計画は一年後に延びてしまったんだ。それと地震のことは、全く関係ないことだから、ライラが気に病むことはないんだ」
「そうなのね、少し安心したわ。もう一つ聞いてもいいかしら?」
「なんだい?」
「私たちの魂が、美しき星へ帰った後の話を聞きたいの。私たちの肉体は、既にそこにはないのよね? どうなるの?」
少し間があった。
「ライラ、私たちは、再び肉体を持つまでは、魂のままでいなければならない。二人が同じタイミングで肉体に入ることもあるが、どちらかが先に肉体に入り、残された魂は、何年も魂のままかもしれない。肉体に入ると通常の人は、魂との会話はできなくなるが、私たちはテレパシーの能力があるので、いつでも会話はできるんだ。その点だけは安心して欲しい」
「やはり、そうなのね……私たちが再び、パートナーになることは難しいことなのかしら?」
「私たちは長命の人間だ。いつまでも待つと私は決めている。でも君を待たせることはできない。君は新しい人生を歩んでいいんだ」
「私もあなたをいつまでも待つわ。そしてケイリーのことも」
「ありがとう、ライラ。そうだ、今度生まれ変わったら、前にケイリーが言っていた、旅行をしないか? 二人で宇宙旅行をしよう」
「初めての旅行が、宇宙旅行だなんて、楽しみだわ」
「他に聞きたいことはあるかな? なければ、話の続きは明日にしようか」
私は、母と守人のことは、美しき星に帰還すれば、元通りの幸せな暮らしができるものだと思い込んでいた。もしかすると、今ここに、こうして皆で暮らしていることが、一番の幸せなんじゃないかと思った。私自身も美しき星へ帰るための暗号なんか気にすることなく、今を楽しめば、それでいいんじゃないか? そう、魂に話しかけてみたが、返事はなかった。
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