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人々の意識②

「ねえ、守人が聞いていてもいいのかしら?」

「守人に聞いてみろよ」

 愛歌がむっとした顔をしたように見えた。

「守人、この前の守人とばっちゃんの話を聞かせてもらってもいいかな?」

 すると守人は

「あー」と喃語で答え、笑顔を見せた。

「いいみたいよ」

「ほんまか?」と私も守人に

「本当に読んで聞かせても構わないんですね?」と聞いてみると

「あー」と答え、かわいい笑顔を見せてくれた。

「大丈夫らしいぞ」

「ほんまか?」と今度は、愛歌が言ったので、二人して笑った。

「さて、読み始めるとするか」


「おはよう守人、今日もかわいいわね」

「おはようライラ、昨日の話の続きをしよう。今日は、静かだね、ケイリーはいないのかい?」


「あっ、この日は、飛ばそう」

「えっ? どうして? 私が散髪に行っている間の会話でしょう? 私も聞きたい」

「いやー、この日の会話はだな……。何というか、ばっちゃんと守人のラブロマンスなんだよな」

「えーっ、余計に聞きたいじゃん、早く読んでよ」

「守人はどうかな?」と守人の方を見た。

「守人も読んでいいって言ったから、いいの早く読んで」と愛歌が、私の右手を掴んで揺さぶった。

「わかった、わかった。じゃあ、読むよ」

 愛歌は、真剣な面持ちで、一言一句聞き逃さないように聞いていた。

「ばっちゃん、登山、頑張ったんだね。二千七百二メートルってすごくない? 父さん登れる?」

「登る気は全くないな」

 どんどん読み続けて、冥王星の話に入った。

「えっ、ケ? ケロケロ?」

 愛歌……。ばっちゃんではなく、お前の方が間違ってるじゃないか……

「ケルベロス星だ」

「そんな星が実在するの?」

「冥王星の衛星の一つらしいな」

「これ、ばっちゃんから出た言葉よね?」

「そうなんだよ」

「ばっちゃんがそんな衛星の名前を知っているとは思えないよね」

「そうだろ? ばっちゃん、基本的に名称を覚えないか、間違って覚えているかのどっちかじゃないか」

「それは、さすがに言いすぎだけどさ」

「いや、ちょっと昔の話だけどさ、愛歌は知らないと思うけど、当時、有名なユーチューバーがいたんだけど、その名前が思い出せなくて『有名なユーチューバーの名前なんだっけ?』って聞いたら、なんと答えたと思う? 自信満々に親指と人差し指をたてて、あごの前でポーズまでつけて『カテキン!』って言ったんだぞ。即効で『お茶じゃねーよ』ってツッコミを入れたさ」

「アハハハハッ、その人の名前聞いたことある。さすが、ばっちゃん。記憶力はあるんだけど、記憶の引き出し方が間違っているのかな? 毎回惜しいところまではいけるんだけどね。そういえば、この前のお正月、お雑煮を食べている時にもあったよね。年々お雑煮が昔と変わってきたことをボヤいていてさ『十六島うっぷるい海苔は、高くて買えなくなった、ハマグリは外国産で買えなくなった、かまぼこは添加物が入っているから買えない、ブリは、脂がのってない、今年はついに、野菜も入らなくなったわ。あの野菜何だっけ?』って聞いてきたわよね?」

「そうそう、俺は、あの野菜が苦手だから入ってない方が好きなんだよな」

「それで、ばっちゃんが一生懸命思い出そうとして『ほら、うちの田んぼにも生えているのよ、何だったかしら? だけど毒ゼリと間違えちゃいけないから怖くて採れないの』って」

「それだよ!って言ってもしばらくきょとんとしていたよな」

「そうそう、自分で『毒ゼリ』は思い出せるけど『セリ』は思い出せないなんてね」

「で、そのばっちゃんがだよ、こんなにスラスラ難しい星の名前を言えるって、信じられるかい?」

「信じられない」

「そうなると、やっぱり本当に守人が話していると思わざるを得なくなるわけだよ」

「そうね……。私も頭がこんがらがっていたけど、やっぱり本当のことなのよ」

 続きの話を読み始めた。全て読み終わってから、愛歌が

「瞑想か……。ねぇ、お父さん、ヨガを始めたら? ダイエットにもなるし、瞑想もできるし、一石二鳥じゃない?」

 うっ、愛歌も同じことを考えている……。

「そうだな、俺もヨガを始めようと思ったところだよ」

 玄関があいて母の声が聞こえて来た。

「おはよう、愛歌いる?」

「もう、そんな時間か」

「ばっちゃん、いるよ、上がって」

「よし、俺は帰るとするか」と立ち上がって、ホットサンドが入っていたお皿と珈琲カップを手に持ち台所へ移動した。

「あらっ、ここにいたのね?」

「愛歌の美味しいホットサンドを頂いていたんだ」

「いないから家の鍵を閉めてきたわよ」

「こんな田舎に泥棒なんて来ないだろう」

「熊が入っていると怖いでしょう。鍵持って行って」と鍵を手渡された。

 確かに、熊の方が怖いかもな。近いうち、熊の頭数が、この町の人口を上回るかも知れないな……。


 愛歌の家のほとりに小さな川が流れている。その川を遡るように空飛ぶ宝石が一直線に飛んでいった。  エメラルド色のカワセミだ。いつ見ても目を奪われる美しい鳥だ。この辺りに住み着いている留鳥なので、いつでも会えそうなものだが、案外出会えない鳥だ。カワセミに出会えた時は、おみくじで大吉を引いたように、今日はいい日だと思う癖がついている。

 今日は、いい天気だ、よし仕事するか。


「おはよう守人、今日もかわいいわね」

「ばっちゃん、このモビール、どう?」

「面白い形ね」

「八面体モビール、モンテッソーリのよ」

「そんなに小さい頃からの教具もあるのね」

「守人、喜んでいるかな?」

「『まあ、他に見るものもないし、キラキラして見やすいよ』って言っているわ」

「ふふっ、よかった、ばっちゃんがいて」

「さあ、ライラ、昨日の話の続きをしようか」

「1900年代の地球は、多くの星の噂の中心になっていたんだ。

『また始まったってさ』

『まだ終わらないらしいよ』

『ついに使ってしまったらしいよ』

『地球人は、バカなのか?』

『これ以上はダメだ。全宇宙で介入した方がいいんじゃないか?』

そんな声が毎日のように聞こえてきたんだ。地球は確かに科学的には進歩していた。ライラたちが連れ去られた頃は、鉄製品もまだあまり作れない時代だったからね。それが、三千年も経つと、私たちでも手を出さないウランやプルトニウムから原子爆弾を作ることに成功したんだからな」

「美しき星では、原子力は使わないの?」と愛歌が聞いた。

「もちろんだよ。私たちの星は、優秀な科学者ばかりで、放射能についてもよく理解している。原子力を使おうと思えば、すぐにでもできるだろう。でも、誰も使おうとは思わないんだ。それは皆、倫理をもっているからだよ。人として守るべき道、善悪の判断がきちんとできるんだ。地球の人たちは、めちゃくちゃじゃないか。

『原爆が戦争を終わらせた』だと?

『原子力の平和利用』だと? 

 こんな言い分を信じ込まされている人たちにあきれ返るよ。

 チェルノブイリ原発や日本の原発が爆発してもまだ素晴らしい技術だと信じているんだろう? 地球人は、いったい何を信じて生きているんだ?

 科学者か? 政治家か? テレビに出る専門家か? それとも神か?」

「そうだよね、なんて答えたらいいかわからないわ」と愛歌が答えた。

「2011年、地球のバイブレーションが全宇宙に広がったんだ。おそらく日本の大地震と原発の爆発の影響だろう。それをきっかけに、ついに、宇宙の大介入が始まったんだ」

「大介入?」

母と愛歌が同時に言った。

「通常、他の星の成長の手助けをすることがあっても、人間の行動に介入することはまずない。しかし、今回のことは、宇宙全体の脅威となることから、私たちは他の星と協力して大規模な介入を行うことになったのだ」

「どういうことをしたの?」

「愛の魂を持つ者、地球では、レインボーチルドレンと呼ばれている魂を何十万人も一気に送り込んだんだ」

「ちょっと、待ってね。レインボーチルドレンを検索するわ。『地球全体に愛と調和をもたらし、より高い次元へと上昇させること』って書いてあるわ」

「人々の意識を変容させるとともに、ここで、一気に地球を五次元に上昇させることにしたんだ」

「すぐに五次元に上昇したの?」

「いや、五次元に上昇するまで、それから十数年かかったよ。なぜなら、その魂を持って生まれた子どもが成長するまでにそのくらいの期間が必要だったからだ」

「ついに、その時が来たのね」

「そうだ、長いこと待ちわびた、その時が来たんだ」

「ケイリー、続きを今すぐにでも話したいのだが、もう瞼が開かなくなってきた。話の続きは明日に……」

『しないか』まで言えなかった。相当眠かったんだろう。守人、小さいながらによく頑張っているよ。じっちゃんは、お前を誇りに思うよ。


「おはよう守人、今日もかわいいわね」

「おはようライラ、昨日の話の続きをしようか」

「ついに地球が五次元に上昇するという話だったわね。でもどうやって、子どもたちが戦ったの?」

「次元の高い星では、戦いというものは一切しないんだ。愛の力で平和が保たれている。童話で例えるなら『北風と太陽』といったところだろうか」

「北風と太陽が旅人のコートを脱がせる勝負をした話ね。北風は強風を吹かせると言う乱暴なやり方でコートを脱がせようとしたけど失敗したの。それに対して太陽は、暖かい日差しを送って、暑くなった旅人が自らコートを脱いだのよ。守人のために絵本を買ってあそこに置いてあるわ」

「戦争という強引な力を使うことなく、地球人自らが意識を変容させていき、平和を築いていく方法なんだ」

「愛って結局何なのかしら?」

「ライラ、愛って本当に難しいだろう?」

「ええ。多くの人は『愛が全てだ』『愛さえあれば』『愛を信じる』って簡単に使うわ。この地球は愛の安売り状態よ。なのに、この年になっても私は愛についてよく知らないの」

「ライラ、君は良く理解しているよ」

「えっ、私はよくわからない、理解してないと言っているのよ」

「それで正解なんだ。この地球にいて、本当の愛を知っている者がいたら、それは皆間違った愛だ。愛は、この地球上には存在していなかったんだから。愛を知っている人は、誰もいない。あのキリストでさえもだ」

「じゃあ、本当の愛とはどういうものなの?」と愛歌が聞いた。

「ケイリー、その答えは、君の魂の中にある」

「えっ?」

「君の魂の使命は、愛を表すことだ。君が魂にアクセスすることができたなら、愛とは何かが、君なら理解できるはずだ」

「私なら……」

「今日の話の続きは、ラマナと四人で集まれるときにしたい。ラマナに伝えてくれるかい?」

「ええ、わかったわ。伝えるわね」

今日の会話は、ここで終わっていた。私にも聞かせたい話とは何だろう? ちょっと怖い気がしていた。


毎日更新予定

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