(後編)あいの響き③
美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~
「皆さん、信じてないでしょう? それは、そうだと思います。火星にだって行けない時代に、私が宇宙の他の銀河の星に行ったと言っても誰も信じないですよね。でも皆さんの中には、この本に書かれている『走馬灯』を見た人がいるのではないでしょうか?」
会場がざわついている。
「やはり、半数近い方が、走馬灯を見られたわけですね。私も走馬灯を何度か見ました。それは、すべて美しき星にかかわるものだったのです。さあ、50%、信じられるようになりましたか? えっ? 全然信じてない? そうですか、仕方ないですね。後半で挽回します。後半は『あいの響き』のワークショップを行います。十五分休憩した後に開催します」
宇宙へ行った話は、流石に信じられないだろうと思ったが、あの時走馬灯を見た人がそんなに多くいたのは知らなかった。参加者は、やはりその現象を不思議に感じていたんだろう。
「皆さん、それでは、再開します。まずは、あいについて説明させていただきます。愛が全て、愛が一番、そんな言葉をよく耳にしましたよね。愛って、本当に素晴らしいですよね。
でも違うんです。私たちは、愛が一番だと思い込まされていたんです。あいの本当の意味は、古文書によると『あ』は、天、宇宙ですね。そして『い』は、意志。本当に大切で必要なのは、宇宙の意志です。
宇宙の意志を受け取ることが、自らの魂にアクセスするということなのです。
今日は、宇宙の意志を受け取れる体の状態を作っていきたいと思います。
それでは、あいの響かせ方の練習をしますね。大きな声で『あ~』と何度か発声してください。次は、響きを入れていきましょう。お腹から、頭に向かって音が移動していく感じです。頭のてっぺんから音が出て行くように頑張りましょう」
「いいですね。良くなりましたよ。続いて、『い~』の音も同じようにやってみましょう」
「それでは、隣の人と向き合って『あ~い~』を響かせてみて下さい。もし、相手の胸に穴が開いて空が見えたら、手を挙げて下さいね。疲れたら、休みながらやって下さい」
会場は、あいの響きで包まれていた。二十分近くたった頃だった。
「あっ、手が上がりました。皆さん、あちらを見て下さい」
「うわぁ」「えー、ほんとに?」「嘘だろ?」
やっぱり、皆、びっくりするよな。こんなことが起こるなんて、信じられないよな。
録音は、この後五分ほど続いていた。
この録音を受け取ったのは、私が地球に戻ってからのことだ。私の自宅の机の上には、彼女からの小包と手紙が届いていた。
小包の中には、先ほど書いた講演会の内容が入ったUSBと、彼女の新刊と私の再刊、そして手紙が一枚入っていた。
『先生、お帰りなさい。
先生が帰られたころ、まだ私は、全国を飛び回っているかしら?
先生、今までのように、また記録を書かれますよね?
これは、先生が日本にいない間に、私が、頑張って『美しき星』の再刊を果たした記録と『あいの響き』を講演して歩いた記録です。
講演会が、二百五十回を超えたころ、公安が来たので取り急ぎ録音した内容と手紙を先生の留守宅に送ることにしました。気を付けながら頑張りますね』
私は再刊の『美しき星』を手に取った。希望通りの表紙だった。彼女に表紙の話などしたことはないはずなのに、どうしてわかったのだろうか。白地に、エンボッシングされた星は、緑色を中心に、黄色やピンク、白、青のマーブル模様で仕上がっていた。
私は、手を服で拭いたのち、表紙を二、三回撫でた。
盛り上がっている星の部分を手のひらで触りながら、とても愛おしく感じていた。
ふと帯が手に触れた。
『この本は、ファンタジーで終わらない。
作者が命をかけて、地球を、宇宙を守る。
あなたは、魂にアクセスできているのか? 浅間さくら』
えっ? 作者が?
私は、驚いて二度見した。
浅間さん、やってくれましたね……
主人公ではなく、作者になっているじゃないですか。もう、本当に、しょうがない人だ……
彼女の新刊は『ディストピアに眠る』。
表紙の写真は、よく見ると私と清田さんが映っているケプラーのあのディストピアの街の写真じゃないか。
これをまさか、AIで作ったとでも言ったのだろうか?
浅間さんらしいな、ほんと彼女は怖いもの知らずだ。
二通目には
『先生、無事に日本に戻られましたか?
私の講演会は、三百回を超えました。一日に四講演することもあったんですよ。頑張っているでしょう、私。
『あいの響き』で、胸に穴が開く人の割合がどんどん増えていますよ。
オリジン装置に頼らなくても、自らの力で魂にアクセスできるって、やっぱりいいことだわ。
そうだ、先生は、3.5%ルールをご存じかしら?
「人口の3.5%が非暴力で積極的に行動すれば、社会変革が成功する」 という仮説があるんです。もう少しで達成できそうなんですよ。
もう一度、あいの世界をこの地球に顕しましょう。
それから、先生の本も順調に売れていますので、帰ってこられた時にも生活に困らないと思います。
SNSを見て下さいね。私の活動を沢山アップしていますから』
私は、彼女のこの希望に満ちた手紙を読んで、悔し涙があふれてきた。
彼女は、情報安全法に触れ、私が地球に戻る一週間前に逮捕されていた。
情報安全法は、2053年に施行された新しい法律で、SNSなどで、AIで作成された情報が、本物と間違ってしまうことで、生活の安全が脅かされることを防ぐために制定されたものだった。彼女の話は、本当の話に間違いはないが、信じられない人がやはり大半のため、このような結果となってしまった。
法治国家か……
一見、素晴らしい国のように思える。
しかし、本当に守られているのは「法」であって、人でも、動物でも、環境でもないのではないか。
私が、オリジン装置に頼ったばっかりに、すまないことをした。
いや、私の本が、最初にもっと売れて、皆が魂にアクセスできるようになっていれば、こんなことにはならなかったはずだ。私は、内なるこぶしをどう抑えていいのか、どこに向けていいのか分からずに悶々としていた。
「じっちゃん」
孫の守人がやってきた。
「元気だったか? 心配かけてわるかったな」
「ライラが、時々遊びに来てくれて、じっちゃんが元気にしているって聞いていたから安心だったよ」
「そっか」
「じっちゃん……」
「どうした守人」
「僕も美しき星の魂なんでしょ?」
「えっ?」
「あの本、僕も読んだんだ。僕も魂にアクセスできるようになりたいんだ」
私は、守人を抱き寄せた。
彼の魂も何かの使命を持ってここにきているに違いない。その使命に気づいた時、彼が辛い思いをするのではないかと私は心配になっていた。
愛歌も浅間さんも……
いや、地球だからこその苦しみに過ぎないのかもしれない。
美しき星の人々のように、ただ魂の声に従う方が、辛い大変な事であったとしても、そこには『充実感』がある。これこそが魂の『幸せ』なのではないだろうか。
「守人、家まで送るよ。久しぶりに一緒に散歩しよう」
初夏の風が、私を通り過ぎていく。
青々とした稲の葉が、風になびいている。田んぼの稲は、もうすぐたくさんの穂をつけるだろう。
「じっちゃん、一緒にあいを響かせよう」
「おう、いいぞ」
「じっちゃん、ここでちょっと待っていて」
守人は、一人駆け出して二十メートル先で振り返った。
「じっちゃん、いくよ」
守人は、両手を天に向けて、あいを響かせた。
「あ~い~、あ~い~、あ~い~」
私も、それに合わせ、愛を響かせると、山にこだまして、二人の響きは地球を覆うほどに拡張しているのではないかと感じるほどだった。
私は、少しずつ歩き始めて守人に近づいていた。
守人は、目を閉じて、響きに集中していた。こんな小さな子が魂にアクセスしたいと思うなんて……
私は、ハッとした。
守人の胸に穴が開いて、そこから見えたのは、光の色が幾重にも織りなしていた。そして、光は混ざり合い白く輝いた。
私は、確信した。 もう地球にオリジン装置は必要ない。
ツキヒホシ、ホイホイホイ
ツキヒホシ、ホイホイホイ
向かいの山の中で、サンコウチョウが鳴いている。
長い尾と、青い色の目の縁取りが特徴的な渡り鳥だ。
その鳴き声は、私に語りかけるメッセージのように聞こえた。
サンコウチョウは、月、日、星、ホイホイホイと鳴き声が聞こえるので、三つの光で、三光鳥と名付けられたそうだ。
今、地球は、浅間さんのまいた種で、光を持った魂が現れ始めた。
それぞれの光が幾重にも織り重なり、この地球を鮮やかな光で満たしていくだろう。
月のような青白い光、太陽のような鮮やかな光、そして多様な色を発する星々の光。
光の力を使う。
これが、宇宙の新しい仕組み。
私は、再び筆をとった。
人々が二度と魂の声を見失わないために。
おわり
最後までお付き合いくださって、ありがとうございます。
この物語は、ある日、アディルが心の中で語りはじめたものを記録したものです。
私はただ、主人公のラマナのように、彼の声を聞きながら筆をとっただけでした。
私は「書いている」というよりも、登場人物たちの人生を見せてもらっているような感覚でした。
彼らが自分の意思で動き、語り、笑い、時に沈黙する。
実は、前編で終了しようと思っていたのですが、どうしてもラマナやライラ、アディルのその後が気になって仕方がなかった。
すると、彼らがまた私にその後を見せてくれました。
不思議なことに、タイトルにも強い導きがありました。
「美しき星」というタイトルは最初にありましたが、三島由紀夫の『美しい星』、映画『美しき緑の星』
どれも有名で、同じようなタイトルを使うことに迷いもありました。
他のタイトルにしようといろいろと考えましたが、ほかのどんなタイトルもこの物語には合わなかったのです。
今では、このタイトルが同じ言葉の中に、新しい光をともしたかったのかもしれません。
この作品を書いて、私は初めて「書くことがこんなにも楽しいものだ」と知りました。
誰かの声に導かれながら、物語が自分の手を離れて進んでいく。
それは不思議で、そしてとてもあたたかい体験でした。
もしこの物語が、どこかで誰かの心に小さな光をともすことができたなら、それはきっと、登場人物たちが伝えたかった想いが、共鳴して届いたということなのだと思います。




