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(後編)ディストピアに眠る②

美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~

 私たちは、地上50cmほど浮いて走る乗り物に乗り込んだ。

「それでは、皆さん、この街の名所をご案内させていただきます。出発前に、この街の概要だけお話しておきます。この星は、10のエリアに分かれております。この街は、第一エリア、星の中心部になります。人口は、約1000万人。20代から50代が多く暮らす街でございます。私もこの街に暮らして、30年になりました。それでは、出発します」

 運転手は、市内観光がとても好きな仕事のようで、最初の印象とは打って変わり、とても陽気に、体でリズムをとりながら運転している。

「左手をご覧ください。こちらが、議会堂でございます。この星の議員は、330名、10の地域から33名ずつの選出で、この星の法律などを決めております。続いて、左手、こちらは、各省庁の建物が並んでおります」

 コンクリート造りだろうか、10階建てくらいのがっしりしたグレーの建物が並んでいた。

「続いて、左手奥に見えるのが、この星一番の自然公園でございます。公園の周りを一周いたしますのでご覧ください」

 公園には、多くの人々が、ベンチに座って話をしたり、遊歩道を歩いたりしている。

「寒いのに、こんなに人が公園にいるのですね」

「はい、寒いのが日常です。医師から、一日二時間は陽に当たることを推奨されているので、外に出る人が多いです」

「なるほどね。あれは、噴水ですか? 凍りませんか?」

「大丈夫です。凍らないようになっています。あれは、この公園自慢の噴水です。時間になると色とりどりに光り、音楽も流れてきます。その奥には、人口の滝も作られています。次に見えてきたのは、スポーツサイトです」

 テニスコート、バスケットコートと思われるもの、ロッククライミングのような人工の壁もある。

 確かに公園内だけを見ると、自然を楽しめる設備が整っているのだが、公園を囲む道の反対側には、屑鉄の山、赤い蔦が絡みついた廃屋、妙な色の電飾が付けられた人工の木々、謎のイラストが描かれた看板。なんとも落ち着かない景色だった。

 私たちは、公園内を一周して、元の道に戻った。

「今度は、皆さん、正面をご覧ください」

 統一感のない看板が立ちならんだショッピングモールが見えた。駐車場には、色とりどりの乗り物が何百台と駐車されている。

「ここは、この星一番の大型ショッピングセンターでございます。ここに来れば、ありとあらゆるものを手に入れることができます」

「この星は、お金というものがあるのですか?」

「お金ですか?」

「はい、働いた代わりにお金というものをもらって、好きなものと交換する仕組みです」

「そういうものは、この星にはありません。働くことは必要ですが、必要なものは、与えられます」

 この星も、お金は無いのか……

 私たちは、この大型ショッピングモールを見学することにした。

「かわいいアクセサリーがあるわ。これ、頂けるのかしら?」

「どうぞ、どうぞ」

「先生も、お孫さんにお土産を選ばれただどうですか?」

 浅間さんに進められて、私も子ども向けの土産を探してみることにした。

「先生、この手袋、暖かそうですよ」

「いいね。これも頂いても構わないのですか?」

「どうぞ、どうぞ」

 案内してくれた彼がそう言ったが、なんだか申し訳ない気がしてきた。

「何か、お返しをした方がいいんじゃないかな?」

「いえいえ、気になさらなくても大丈夫です。この星は、資源が豊かですし、こうやって人のために何かを作るということが好きな人たちが多いんですよ。まあ、ただ、個性的な人が多いから、万人受けしないものも多いんですけどね」

 私が選んだ手袋のすぐ横には、奇抜な色合いの手袋が並んでいた。

 私たちは、ショッピングモールの一番奥までたどり着いた。そこには大きな本屋があった。浅間さんが駆け足になり、本屋の中に消えていった。

「本屋が人だかりになっていますね」

「この星の人は、本が大好きです」

「デジタル化して、本屋がなくなっているかと思ったら、そんなことはないんですね」

「はい、一度はなくなりましたよ」

「えっ? よく復活できましたね」

「飛び出す絵本のお陰です」

「飛び出す絵本か……、私も子どもの頃に大好きでしたよ」

 私は、子どもの頃に、飛び出す絵本を何度も読んで、動かして遊んでついには壊してしまったことを思い出していた。

「子どものために、五感で感じるものを作ろうという運動が起こりまして、本屋が復活しました」

 浅間さんが、本を抱えてこちらに戻ってきた。

「この本、見て下さい」

 これは、大人が見ても美しい表紙の絵本だった。

「これ、中身もすごくきれいなんです。この星にしては珍しいと思いませんか?」

 私は、そっと彼女に知らせようと思って咳ばらいをした。

「気にしなくていいですよ。私もこの星のセンスは、疑っていますから」

 案内してくれた彼が笑いながら言った。

「ごめんなさい…… この本、頂いてもいいのかしら?」

「どうぞ、どうぞ。でもこの本は、見本なので、カウンターへ行って、新しい本をもらってください」

「あっ、そういうシステムなんですね。すごくいいわ。本の内容も確認できるし、新しいきれいな本を持って帰ることができるし。いい星ね」

「それは、どうもありがとうございます」

 彼女は、先ほどの失礼な言葉を帳消しにできるかのように、この星の良さを彼に伝えていた。

 私たちは、ショッピングを満喫して、観光へ戻った。

「さて、それでは、左手をご覧ください。ビルの間から高い建物が見えてまいります」

 左手には、スカイツリーのような巨大な塔が見えてきた。

「これは、昔使っていた電波塔です。今は、全く違う技術を使っているので、もう使っていないのですが、この巨塔をこよなく愛している者が多数おりまして、その人たちのためだけに、そのまま残されています」

「続いて、左手をご覧ください。こちらは、百年前に建てられた、超高層ビル群です。当時は、それは、それは、賑わっておりましたが、今やゴーストタウン。何度も取り壊そうとしましたが、この景色が美しいという者が現れて、取り壊すことができずに、このままになっています。危険なので、この地域は立ち入り禁止になっております」

 確かに、地球も古い建物を残しているので、ある意味この星と一緒だと言えば、一緒なのか……

 しかし、残す基準というものがあるのではないかと思うのだ。30棟もある高層ビルは、窓ガラスは割れ、一部崩壊しているビルもある。これが美しいと思う人の美的感覚は、私にはわからなかった。

「先生、東京も既にこんな感じになっていますね。あまりにも経済発展とか、多様性を大切にしすぎた結果ではないですか?」

「そうかもしれないな……」

「本当に必要なのは、多様性ではなく、最適解だと思うの」

「最適解か……」

 廃ビル群を後にして、しばらく進んだ。

 街の景色はなくなり、山間の道に変わった。

「次にご案内する場所は、隣街になりますので、少しお時間がかかります。何か音楽でも聴かれますか?」

「はい、お願いします!」

 私と清田さんの間の席に挟まれて座っていた浅間さんが、身を乗り出して答えた。

 音楽は、日本語のようで心地よく聞くことができた。時々、古い言葉が、なまめかしく聞こえ耳に残った。

「運転手さん、ヘビメタとかないのですか?」

 身を乗り出して音楽を聞いていた彼女は、何を思ったか、そもそもそういう趣味だったのか運転手にヘビメタのリクエストをした。

「えっと、それはどんな感じですか?」

「ジャンスカ、ジャンスカ、ウワァーと言う感じです」

「あー、ありますよ。若者が好きなやつですね」

 ジャンスカジャンスカ、ウワァーって、どういう例えなんだ? 私は、いやな予感しかしなかった……

 彼女は、身を乗り出したまま、頭でリズムをとっていた。もう若者でもないだろうにと思ってみていると、心の声が聞こえたかのように、彼女が、こちらを見て、一瞬眉間にしわを寄せた。

 スピーカーから大音量で流れてきたヘビメタは、私と清田さんには、ディストピアのテーマ曲にしか聞こえなかった。

 周りの景色が変わってきて、民家が少しずつ増えてきた。

 隣の町は、先ほどの街よりも落ち着いた雰囲気だ。

 大きな川に架かる橋は、きれいなアーチを描いていた。眼下には、コバルトブルーの川が流れていた。

「あっ、右手をご覧ください」

 ヘビメタは、ここで終了となり、ホッとして私は息を吐いた。

 右手を見ると、何か明るい光が見えてきた。

「わあ、何だこれは?」

 先ほどの廃ビルの超高層ビル群とは打って変わって、こちらは、眩しくて凝視できないほど光輝いていた。

「これは、三千年前、この星が五次元上昇したのを記念して建てられたコロシアムでございます。壁面には、クリスタルを中心に、ルビー、サファイアなどをちりばめております。定期的に修繕をしておりますので、当時の美しさを現代でも保っております」

 東京ドームの二倍はありそうな大きなコロシアムは、陽の光を受けて、宝石が反射し、異常なほどの光を放っていた。

 そう、残す物は定期的に修繕を繰り返して、ちゃんと残さないといけないんだ。こういうところの違いなんだよ。私は、一人頷いていた。

 それにしてもだよ、この宝石が日本だといくらになるのかな? 私はお金に換算しようとしていた。

「それでは、このコロシアムの内部へご案内いたします」

 乗り物は、建物の上空へ移動し、コロシアムの中央付近で私たちを降ろした。

 コロシアムの中央には、巨大なクリスタルのクラスターが設置されていた。

「三千年前、この場所で五次元上昇を祝い、宇宙から光を授かった者たちが、自らの光を宇宙に向けて発したのです。それは、それは、見事な光の柱だったと記録に残っております」

「えっと、人が光を発したのですか?」

「そうです。今でもその力を与えられた者はおりますが、私は、その光を見たことは一度もありません」

「五次元になって、この星は変わったのですか?」

「他の星との行き来ができるようになりましたので、多くの技術を授かることができるようになって、相当なスピードで進化しました。しかし、この結果です」

「といいますと?」

「皆さんもお気づきと思いますが、カオスといいますか、街も自然も人もごちゃごちゃで、美しさがなくなってしまいました」

「昔は、美しかったということですか?」

「はい、昔の写真は、とても美しい景色のものばかりです」

「どうして、このようなことになったのですか?」

「正確には、ダイモン所長にお聞きになるとよろしいかと思いますが、技術の進歩に魂の進歩が追い付かなかったのかもしれませんね」

 そう言うと、彼は乗り物のドアを開けて、私たちに乗るように誘導した。



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