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(後編)古代文字の謎を解け②

美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~

 宇宙船は、日本の上空に停止して、ミーティングルームの机には、松田編集長の本が広げられた。

「この本は、中古で十万円で買ったので、私は読み終えましたよ」

「じゅ、十万円?」

 浅間さんは目を丸くして、私を見ている。

「いい本でしたよ。この本を読めば、古事記に書かれている神話は、実は実際の当時の権力者が、日本をより良い方向に導くために努力したことがわかりますよ。これは、読む価値があります。例の『あいのボーズ』が書かれている本ですからね」

 私は負け惜しみのように、この本の素晴らしさを語った。

「そっ、そうですか……」

「では、どうやって、確認作業をしていきますか?」

 清田さんが、私に聞いてきた。

「私は、以前から不思議に思っていたことがあるんですよ」

「それは、何ですか?」

「アカシックレコードには、事実しか残せないですよね?」

「もちろんです」

「事実って、どうやって確認するんですか?」

「まず、多角的に記録された内容を確認します。機械による年代確認もします。そして、これらを数人で評価し、事実であろうというものをアカシックレコードに収めます。もし、事実でなければ、崩壊の兆しがありますから、わかるようになっています」

「なるほどね。崩壊の兆しは、すぐわかるのですか?」

「いえ、一年、二年かかることもあるので慎重になります」

「そうか、やはり慎重に選ばないといけないわけだな」

「そういうことです。ただ、現在の記録であれば、よっぽど取材ミスや記載ミスがない限りは簡単にアカシックレコードに収めることが可能です」

 やはり、過去の記録は、簡単に事実かどうかなんて見分けることはできないのか……。私は、机に広げられた本の中から、一冊を選んだ。

「あっ、ちなみにラマナ代表だったら、すぐに見分けられていましたよ?」

「えっ、どういうことなんだ?」

「直感ですかね」

「直感? そんな曖昧なものでいいのか?」

「曖昧ではありませんよ。何千年も記録者を続けていると、本物と偽物を何万回も見てきているんです。これはもうエビデンスとしか言えませんよ」

「非科学的な気がするんだが……」

「エビデンスは、必ずしも科学的なことだけに使われる言葉ではないですからね」

「へえ、そうなんだ」

「で、その直感は、今は働きませんか?」

 私は、テーブルの上に並べられた本に何か感じるものがあるか見ていた。

「さすがに、見るだけでは無理じゃないでしょうか?」

 私は、清田さんを見て、お茶目な格好をしてごまかした。

「読まなくてもわかるんだったら、一番楽かなと思ったんだけどな……」

「それは、無理です」

「清田さんも実は、もう見分けられるんじゃないですか?」

「まあ、多少はわかりますけどね」

「じゃあ、清田さんに任せるかな」

「二人とも、余計な話をせずに、さっさと本を読んでください!」

 一番若い浅間さんに怒られて、私と清田さんは、小さな声で「すみません」と言って、本を手に取り読み始めた。


 珈琲は、三杯目が入っていた。皆が無言で本を読み進めていた。

 浅間さんは急に本を置いて、パソコンを操作し始めた。

 静かな部屋にキーボードを叩く音が響いた。

「やっぱり! 先生、ちょっと自信がなくて、今調べていたのですが」

 彼女は、清田さんが真剣に本を読んでいるので、邪魔をしないように、小さな声で私に話しかけてきた。

「先生は気づいていらっしゃいましたか?」

「えっと、何をですか?」

「ホノコの存在です?」

「母、ホノコの存在ですか?」

「違いますよ。この『真之理まことのことわり』に出てくる瀬織津姫穂乃子セオリツヒメホノコ。古事記には登場しない神様なんです」

「えっ、古事記に登場しない神が書かれているのか?」

「はい、その名前がホノコなんです」

「えっ、ホノコ? それって、愛する妻の名を父が遺したというのか?」

「彼が書いたのであれば、そうかもしれないですよ……」

「これで、ますますこの本を書いたのが、父だという可能性が高くなりましたね。浅間さん、さすがです! ちょっと、このあたりで少し休憩しますか」

「そうですね、お腹もすきましたし、食事にしましょうか」

 私たちは、立ち上がって食事の準備を始めようとしたところ、清田さんは、一人でぶつぶつ言いながら、何か熱心にメモを取っていたので、二人で彼を眺めていた。

「わー、びっくりした! 二人ともどうかしましたか?」

 清田さんが、突っ立っている私たちを見て驚いた。

「それは、こっちのセリフだよ。さっきの私たちの話も全然聞いていないし、少し休憩しないかと言ったのに」

「えっ、そうだったんですか? すみません、集中していたもので」

「それで、清田さんの方は、何か見つかったのかい?」

「ええ、気になることがあるんです」

「皆さん、この本は、もう読まれましたよね」

「古代文字の本だな。一番最初に読んだよ」

「私も、さっき読んで、清田さんに渡した本だわ」

「その本がどうしたんだ?」

「この文字なんですけど、全く同じ文字を使っている星があるんですよ」

「えー、全く同じ?」

「はい、これから詳細を確認しようと思うのですが……」

「その星へ行ってみましょうよ」

「ええっ?」

 私は、目を丸くして彼女を見た。

「だって、その方が早いじゃない?」

 彼女もせっかちな部類の魂か……。

「いやいや、ちょっと仮説を立ててみるとか一応してみないか?」

 私は、彼女を落ち着かせるために言った。

「そうね、まずは仮説ね。確か、その当時の地球は、いろいろな星からの移住者で作られていたって言っていたわよね。原住民だと思っていた人たちも実は宇宙から来ていて、同じ文字を使っていたとか」

「こういうことも考えられないかな? この古代文字は、楔文字に比べて、非常に書きやすく、わかりやすい文字だと思わないか?」

「そうね。ひらがなよりもわかりやすいかもね」

「文字は、基本的に時代経過で、だんだんとわかりやすくなるのが一般的な気がするんだよ。そうすると、わかりやすかったはずのこの古代文字が、なぜか日本からなくなってしまったんだ」

「そうね。漢字が入ってきたからかしら?」

「そうだな、強制的に使用できなくされたのかもしれないな……」

「そう考えると、何だか辛いわね」

「使う人たちが、いなくなったと言うことも考えられますよ」

 清田さんが、パソコンの画面を見ながら、そう言った。

「いなくなった……」

「あっ、ありました。ケプラーですね」

「ケプラー?」

「この古代文字と同じ文字を使っている星の名前です」

「この星に、清田さんは行ったことがあるのかい?」

「いえ、私はありませんが、アカシックレコードに、この星の情報は沢山保管されていますよ」

「この宇宙船から、その情報にアクセスすることは可能ですか?」

「この宇宙船からはできませんね。美しき星へ行きますか?」

「いえ、もう少し、整理してからにしましょう」

 私は、視線を感じて、浅間さんを見ると私を睨んでいた。

「あ、浅間さん? 本を全部読んでからもいいですかね?」

「……」

「あっ、そうだ。夜ご飯にしましょう」

「そうですね。さっき買ったお弁当を食べましょう。私は、フルーツを準備しますね」

 私は、少しほっとした。まだ彼女のことをあまり理解していないのだが、何となく母の魂だということで、親に反抗している気分にちょっとなっていた。


 本読みを再開して、二時間経過した。さすがに疲労がたまってきていた。

 机の上を見ると、十冊の本がまだ読まれないまま置かれていた。

 どの本から読むかは、タイトルや中身をパラパラとめくってから読み始め、他の人も呼んだ方がいい本は、隣の人に回していくという方法をとったため、読まなくてもよさそうな本が十冊程度残っていたのだ。

「だいたい読めたよな」

「皆さん、流石に本を読むのが早いわね」

「清田さんが一番早かったな」

「そうですか、浅間さんも相当なスピードですよ」

「まあ、この役目が、俺たちで何よりだな」

 私は、疲労感の中に達成感を感じていた。

「さて、これからが本題ですな」

「そうですね」

「私の父が、残そうとした記録がこの中にあるのか、ないのか。松田編集長が、私の父の魂なのかどうかということですよね」

「この情報だけでは、やはり断定はできませんね。浅間さん、どうですか? あなたの夫のような気がしますか?」

「さすがに、それは無理ですね。でも、古代文字についてはもう少し調べたいですね。それと、古代文字で書かれた『真之理』(まことのことわり)の内容については、非常に興味深いですね」

「この文字を使っている星の過去を調べて、地球と関係があるなら、地球の歴史も明らかになるかもしれないですね」

「では、行ってみますか? 美しき星へ」

「えっ、ケプラーじゃないんですか?」

「美しき星のアカシックレコードにまずは行きましょう」

 清田さんは、彼女にそう言った。

 彼女は、ちょっと残念そうにしていたが、まずは、確実な情報を確認するため、私たちは美しき星へ行くことになった。


 美しき星、アカシックレコード保管庫

 私たちは、二階にあるミーティングルームに案内された。

「ちょっと待っていてくださいね。持ってきますから」

 さっきは、疲労感の中にも達成感を感じたが、もう一度同じことをするのかと思ったら、急に眠気が襲ってきた。

「まさか、また本を読むってことはないですよね?」

 彼女も同じ心配をしていた。

「お待たせしました」

 清田さんが手にしていたのは、タブレット三台だった。

「日本語入力可能なタブレットを準備しました。これでAIに答えてもらいましょう」

 浅間さんは私を見て、右手の親指を立てて、嬉しそうにした。私も少しやる気が出てきた。

「各自、ケプラーと地球との接点について検索してみて下さい。気になった情報がありましたら、このボタンを押すと、後ろの大画面に共有できますので、よろしくお願いします」

 タブレットのキーボードの位置が、少し違うというだけで私は戸惑ってしまったが、浅間さんは、何日も美しき星でタブレットを操作していただけあって、検索スピードが格段に速い、あっという間に見つけ出した。

「あっ、これ! 大画面に映します。これ見て下さい。『私たちは、太陽系の星からこの星へ移住してきた』と書いてありますよ」

「これは、間違いないんじゃないか、太陽系で、地球以外に人類がいる星は無いだろう?」

 清田さんも頷いた。

「すぐにでも行きましょう!」

 浅間さんは、そう言って、目を輝かせ、私たちを急かせた。

「もう少し、ケプラーの歴史と現状を確認してからにしませんか? 危険な星だったら困るから」

 私は、慎重に進めることを提案した。

 彼女は、ちょっとがっかりしていたが、すぐにタブレットを操作し始めた。

「私は、ケプラー担当の記録から、この星の現状を聞いてきます。皆さんは、歴史を中心に確認しておいてください。ラマナ先生、浅間さんに任せないで、ちゃんと調べて下さいよ」

「はい、清田代表、わかりました」

 私は、笑いながら、手を挙げて彼を見送った。


 どのくらい、検索をしていただろうか、私はいつの間にか眠ってしまったようだ。目を覚ました時には、私の肩にコートが掛けられていた。

 浅間さんのタブレットは、開かれたままだが、彼女の姿が見当たらない。私は、部屋を出て、彼女たちを探した。


 真夜中だと言うのに、スタッフルームからは、話し声が廊下まで響いていた。

 私は、そっとドアを開けて中の様子を伺った。

「あっ、先生、ようやくお目覚めですか?」

 清田さんが私をみて、ニヤニヤして言った。

「すみませんね、つい眠ってしまったようで。今は、皆さんで何を?」

「ケプラーの翻訳機と日本語翻訳機を接続していたんです」

「もし、日本からケプラーに移住したなら、日本語が通じるんじゃないかと思ったんですけど、日本語の古語っていうんですかね、今の言葉とは違う言葉が多いんですよ」

「こんにちは、とかも通じないの?」

「そうです。けふはまことに良い日なり」

「けふ? 古風すぎないか? 日本語が進化したように、進化しているんじゃないのか?」

「外国語というものが存在しなかったので、あまり進化していないようですよ」

「そうか……」

 私の頭の中は、源氏物語の原文みたいな感じなのかと考えていた。

「えっと、それで、この作業をしているということは、ケプラーに行くってことかな?」

「はい、ケプラーの現状は、平和で友好的な星だということが確認できました。アディルたちを一旦、地球からこちらへ連れてきてから、出発することにしましょう」

「わかった、そうしよう」


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