表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/48

(後編)父の記録②

美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~

「ドライブ、楽しかったわ」

 家に到着すると、ライラは軽トラから降りてそう言った。

「ライラ、すぐに帰るのか?」

「そうね、用事は済んだから」

「ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」

「いいわよ。私でわかることかしら?」

「桜紋のことなんだけど」

「桜紋って、オリジン装置に入れた紋章のこと?」

「そう。あの時、ライラと一緒にオリジン装置を再起動しただろ、その時に見た映像があるんだ。それを今探しているんだよ」

「どんな映像を見たの?」

 私は、あの時見た映像のことをライラに話して、その後にインターネットでいろいろと検索して、本居宣長にたどり着いたことを話した。

「もとおりのりなが?」

 ライラは、しばらく左上を見つめていたが、私の目をまっすぐに見て、

「誰だっけ?」と言った。

「そうだよな。覚えてないよな……。学校の歴史で多分習っているとは思うんだけどな」

「ごめんね、歴史は得意じゃないのよ。で、その、もとおりのりながが、どうしたの?」

「この人さ、江戸時代の国学者なんだけど、あの古事記を三十年以上かけて解読して『古事記伝』を書いた人なんだよ。それに、桜をこよなく愛した人なんだ」

「この人が、ラマナのお父さんかもしれないということなのね」

「そうなんだけど、ただ、気がかりなのは、記録者が神話を記録することがあるのかということなんだ」

「そうよね。アカシックレコードには、事実しか納められないって聞いているわ」

「そうなんだよ。ただ、父が地球に来たのちに一度死んで、その後生まれ変わったとしたらどうだろうか? ライラもそうだけど、記憶を失っている可能性もあるだろ?」

「確かにその可能性は高いわね。地球で転生するときは、皆記憶をなくすからね」

「だとすると、江戸時代よりも前の時代を調べないといけないかと思うけど、そもそも記録が残されていないだよ。なんたって、日本最古の書物が古事記だからな」

「日本最古が古事記……」

 ライラは、そう言いながら、私の本棚の方を見つめている。

「あの本、どこにやったかしら?」

「何の本のことだ?」

「ほらっ『あいのひびきのポーズ』のやつよ。古文書に書かれていたって言ったでしょ。あの本よ」

「知らないな、この棚にあるのか?」

「あったと思うんだけどな……」

 ライラは、本棚の上から順番に確認している。

「なんか、アカシックレコードの保管庫を思い出すよ。あの時は、大変だったな」

「そうね、私も土砂の下敷きになるかと思ったわ。もうあんな目には遭いたくないわ」

「俺も」

「えーっと、無いわね、どこだったかしら……。ラマナ、あの本ね、古事記に内容がよく似ているのよ。古事記より前に書かれていた本じゃないかって話だったのよ」

「もしそうだとすると、日本最古の書物になるじゃないか!」

「そうなのよ。でもね、それは偽物なんだって。私は、そっちの方が本物に感じたんだけどね。あっ、そうそう、その本が見つかった場所は、確か、四国だったと思う」

「四国? もしかして、あの地図を見た父が、四国に行ったんじゃないか?」

「可能性はあるわよね。もしかしたら、そこで記録を書いたかもしれないわね」

「今、全身に鳥肌が立ったよ」

 私は、肩を何度か上下させて、鳥肌を抑えていた。

「あっ、あった! あー、でもこれじゃないのよ」

 ライラが、さっと私にその本を渡した。

「これじゃないなら、これは、なんなんだ?」

「これは、あの本の一部だけ。ここには、詳しく書いてないわ」

「あっ、でもこれで調べられるよ」

 私は、パソコンを立ち上げて調べてみた。

 ライラも、私の横に座って、画面を見つめていた。

「あっ、この人の本よ!」

「かなり古いな。『真之理』(まことのことわり)というタイトルか……図書館にあるか調べてみるよ」

「どう? あった?」

「いや、三か所調べてみたけど、どこにもないな」

「古本は?」

「あったけど、十万円だってさ」

「十万円! あの時買っておくんだったわ」

「ライラ……」

 私は、目を細めて、良からぬことを考えただろうという目で、ライラを見た。

「高く売ろうとしようと思ったわけじゃないわ。あの時買っておけば、安く買えたのにって思っただけよ」

「ほんまか?」

「だって今お金がいらない世界に住んでいるんですもの」

「そうだな、ライラには、お金は必要ないか」

 私は、インターネットを使ってわかる範囲で、この本のことを調べてみた。著者は、雑誌の編集者で、古本屋でその古代史の一部を見つけ、後に四国で全巻を発見した。桜を愛し、桜の絵を好んで書いていた。

「桜の一致もあるし、古代文字を解読して本にした、これは、実に記録者らしい仕事ぶりだと思わないか?」

「お父様が、あの時代に自分でこの文書を書いて、昭和になって生まれ変わって、解読したのもお父様。もし、これが本当ならすごくない?」

「すごすぎるけど、本人ならできるかもしれないよな。浅間さくらさんのように」

「そうね。彼女のように全く知らない楔文字を見ながら、日本語にスラスラ書いていけるんですもの」

 私は、また鳥肌が立っていた。

「本居宣長は、どう解釈すればいいんだ?」

「彼も、お父様かもしれないわね。古事記がキーワードだったのかも」

「そうだな。桜も一致しているし、二人とも父かも。可能性が高くなってきたな」

 私は、台所へ行って、珈琲を入れる準備をした。

「ライラ、まだ時間は大丈夫か?」

 私は、台所から居間にいるライラに声をかけた。

「そうね、あと一時間くらいならいいけど、それ以上だと、アディルが心配して地球へやってくるかもしれないわ」

「アディルのやつ、心配性だな……」

「ねえ、気になっているんだけど、例の古文書には『あいのひびきのポーズ』の教えがあるけど、古事記にはないのよ。やっぱり、隠さないといけないことだったんじゃないかしら?」

「なるほど、そうだな」

 私は、濃く淹れた珈琲を一口飲んで、考えを巡らせた。

「元々は、ラマナのお母様が、地球に住んでいた時に、授かったものよね」

「そうなんだ。確か、知られてはいけない教えのはず」

「だけど、それをラマナのお父様が物語の中に紛れ込ませて、世に広めようとした」

「でも、広められては困る誰かが、それを隠すために、似た内容のものをわざわざ書いて、古事記を市民に広めたとか?」

「そして、本物の書は、四国でひっそりと受け継がれていった……」

「それから、千年の時を経て、生まれ変わった作者が、自分の過去の作品に出合って解読した」

「それもまた、偽書だと言われて、公に世に出ることはなかった」

「面白いわね!」

「いやいや、面白いわねじゃないんだよ。真剣に探しているんだから」

「ところで、お父様の痕跡をたどるのが目的なの? それともお父様を探すのが目的なの?」

「両方だよ。父は、記録者だったから、大切なことを記録しているに違いないんだ。父が残した文章には、必ずアカシックレコードに保管すべきものがあるはずなんだ。それに、もし、今父が生きているなら、会えるような気がする」

「会えるような気がする?」

「ああ、浅間さくらさんが、こうやって私のところに訪ねてきたように、父も訪ねてくるのではないかと思うんだ」

「なるほどね。確かに、魂同士呼び合うかもしれないわ。あっ、そろそろ時間だわ。今日は、楽しかった。また来るわ」

「みんなによろしく」

「あっ、十万円払って、あの本買ってみたら」

 そう言って、ライラは、にっこり微笑んで空へ消えていった。


 十万円か……



毎日更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ