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(後編)父の記録①

美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~

 第二章


 父の記録


 私も美しき星へ行きたい気持ちはあった。愛歌に何度でも会いたいと思っているが、私にはやらなければならない仕事が見つかったのだ。

 浅間さくら氏が、ここへ来る直前、オリジン装置の再稼働で見た私の過去は、父との別れの時だった。

 父は、地球へ行き、オリジン装置を見つけ、記録者の使命を果たすと言った。もし戻れなくても必ず記録を残す。その印は桜にすると言った。ラマナが地球に来ることができたならば、私の記録を探して欲しい。何度生まれ変わっても、必ず記録を残すと。

 私は、父の記録を探すことにした。そして、もしまだ父の魂がこの地球にいるのであれば、浅間さくら氏のように、魂同士が引き寄せられるのではないかと感じていた。

 さあ、残り時間は少なくなった。私は魂の声に全力で従っていく。

 おそらく、今地球で、魂にアクセスできている人であれば、私と同じように思っているだろう。


 私はインターネットで、桜と文学関係者を検索することにした。

 最初に気になったのは、本居宣長だった。

 何となく教科書で習ったことがあり、記憶にある名前だったが、何をした人なのかは、すっかり忘れていた。

 江戸時代の国学者、医師か……

『古事記を三十年以上かけて解読し、『古事記伝』44巻を著した』

 ほう、これは記録者らしい仕事ぶりだよな。

『また、日本独自の美意識として「もののあわれ」を提唱した。本居宣長は、若い頃から桜を愛し、生涯にわたって桜を題材とした和歌を数多く詠んでいます』

 古事記伝と桜か。

 古事記といえば神話。私の中がざわついていた。もし、私が記録者だったとしたら、神話の部分を記録として残しただろうかということだ。記録者の仕事は、事実を記録することだ。

 私の父は、本居宣長ではないのか……

 いや、もしかすると、私と同じように生まれ変わったために、事実だけでなく、ファンタジーも書けるようになったのかもしれない。

 これ以上は、確かめることは不可能なのか……

 私は、一旦、本居宣長から離れることにした。何度か転生をしているならば、江戸時代よりも前にも転生しているはずだし、近年でも転生している可能性がある。

 もう一度、インターネットで調べることにした。

 桜紋にも色々あるな。あれと同じのは、見つからない。桜の花びらの中に、漢字

 の『大』を少し変形させた形が入っているんだが……

「はあ、全く見当もつかない」

 私は、両手を上にあげて、仰向けになった。

 そこに、ライラが来て私を覗き込んだ。驚いて、すぐに起き上がった。

「えっ、早いじゃないか。どうしたんだ? 浅間さくらさんはどうした?」

「彼女、もしかして本物かもよ」

「本物って、私の母ってことか?」

「そう。ラマナのお母さんの家に連れて行ったら、何も言わないのに、自分で書いた本だけが並んでいる本棚の前に行って、ページをペラペラとめくって内容を言い始めたの。読んでみたらその通りだったのよ。楔文字なんて彼女読めないでしょう。だから、本物じゃないかって」

「それで、彼女は?」

「まだ、美しき星にいるわ。清田さんがパソコンを貸してあげて、そこで小説を書いているの」

「そうか……。それで、ライラは、なんでここにいるんだ?」

「浅間さくらさんが、家の管理をお願いしたいって、住所と鍵を預かってきたわ。それと編集者に家のパソコンからメールを送って欲しいって」

「え、そこまでするのか? 怪しまれそうだよな」

「そう言うと思ったから、私も一緒に行くわ。子どもが一緒だと違うでしょ」

「男一人で行くよりは、まあ、いいよな」

「さっ、行きましょう」

「住所を見せてくれ」

「はい、どうぞ」

「あー、ここなら10分もかからないな。軽トラ出すよ」

「久しぶりに軽トラに乗るわね」

「新しい軽トラだぞ。乗り心地も良くなって、スピードも出るんだ。あっ、アディルはどうした?」

「今回は、私一人で来たの」

「ライラも宇宙船の免許を取ったのか?」

「そうよ。まだ小型だけどね」

「アディルが中型免許を持っているから、まあ、不便はないだろ?」

「そうね」

 ライラは、軽トラの助手席にちょこんと座り、シートベルトをつけた。

「愛歌の家の前を通って行くか?」

「そうね、どんな様子かを見て、愛歌に伝えるわ」

 庭で、孫の守人と真人がサッカーボールを蹴って遊んでいた。

 私は、クラクションをピッと鳴らし、窓を開けて

「ちょっと出かけてくるよ」と声をかけた。

「二人とも元気そうね」

「ああ、サッカーに夢中みたいでね」

 しばらく道を走ったところで、ライラが言った。

「町の雰囲気がずいぶんと変わったわね」

「ポップな感じだろ?」

「ポップ?」

「明るくて元気な感じかな」

「私がいたころは、昔ながらの雰囲気を引きずっていたものね」

「ザ・田舎って感じだったよな」

「そうそう、ド・田舎ね」

「今は、田舎の方が、住みやすいんだ」

「都会は、どうなったの?」

「かなりの場所で廃墟だよ。ゴーストタウンだ」

「そうなのね。まだそこに住んでいる人はいるの?」

「不思議なことに、まだいるんだ」

「その人たちは、魂にアクセスできなかったのかしら?」

「そうかもしれないな……」

「あっ、あのお店、まだやっているんだ」

「あのお好み焼き屋か、二代目に引き継がれたんだ。先代と同じ味でうまいぞ。食べていくか?」

「思い出すと食べてみたくなるわね。でも、やっぱり食べないわ、体調を崩したら嫌だもの」

「そっか、残念」

「ねえ、あのあたりじゃない? 浅間さんち」

「あと200メートルだから、あの一軒家か」

 私は、軽トラを駐車場に止めて、あたりを見回した。

「誰もいないな。よし、家に入ろう」

「泥棒じゃないだから、誰かいても大丈夫よ」

「なんか、他人の家に鍵を開けて入るのって、気が引けるだろ?」

「……」

「あっ、そういえば、ライラたちは勝手に俺の家に入っていたよな」

「そうね、あの星では、あまり意識したことがないわね。だけど、それは、空き家になっている家だけよ。人が住んでいる家には、勝手に入らないわ」

「へえ、そういう違いがあったんだな」

「それより、ガスの元栓とか確認して。あと、冷蔵庫の中身を処分して、電源を切っておいてって言っていたわ」

「どれだけ長くあっちにいるつもりなんだ? 向こうの二日は、こっちでは二時間だぞ」

「自分の作品を写し終えるまで帰らなそうな感じだったわ」

「一冊写し終えるのに、早くても五日はかかるだろう?」

「食事をしなくていいから、効率がいいって言っていたわよ」

「なるほどな……」

「それに、楽しいって」

 私は、急に羨ましくなった。先ほどまで、桜紋を探していたが、すぐに行き詰って、楽しさなど微塵も感じなかった。

「メールもしておいたし、これで、全部オッケーかな?」

「あっ、待って、洗濯物しておく?」

「今からだと、また数時間かかるから、やめておけよ。あっ、美しき星へ持っていったらどうだ?」

「そうね。そうするわ」

 ライラは、ランドリーバスケットから洗濯物を取り出して袋に詰めた。


 私は、来た道とは別の道を通って帰ることにした。ライラに、もう少しこの町を見せてやりたいと思ったからだ。

「わあ、このお家、かわいいわね。美しき星みたい」

「今は、小さい家が人気なんだ」

「うわあ、牛が放牧されてるわー」

「今は、放牧ばかりだよ」

「でも、やっぱり食べるんでしょ?」

「まあな、地球人だからな」

 ライラは、ちょっと不服そうだった。

「わあ、こっちは、ヤギだあ。まさか、ヤギも食べるの?」

「ヤギは、ここではペットだから食べないよ」

「良かったあ」

 ライラは、ヤギを見て嬉しそうにしていた。

 昔ヤギを飼っていたから、懐かしいんだろうな。

「うわぁ、この池は、水どりがたくさん来ているわね」

「ああ、あれはオオバンだな。真っ黒で華がないよな」

「オシドリとか白鳥だったら見応えがありそうね」

「まあな。でも、小さいけどオオバン。黒くてかわいいやつだよ」



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