(後編)蘇る記憶②
美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~
「ラマナ、女の人が、倒れているわ!」
「えっ?」
私とアディルも玄関に向かった。
「浅間さんじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「ええ、すみません。急に、眼が開けられなくなって、そうしたら、またビジョンを見てしまって、玄関の段差で転んでしまいました」
「ケガは、ないですか?」
「ええ、大丈夫そうです」
彼女は、膝についた土を払いながらそう言った。
「あの……、先ほど、ラマナと呼ばれましたよね?」
彼女は、ライラに向かってそう聞いた。
「はい」
とライラが答えてしまったので、慌ててライラの手を引っ張って私の後ろへ隠した。
「気のせいですよ、あはははははっ。ところで、今日は何か御用で?」
「あの、帯を書いていただいたお礼と、先日のお詫びをと思いまして、地元のおいしいりんごをお持ちしました。よかったら、お孫さんと一緒にお召し上がりください」
「残念、食べ物か」
「りんご美味しいのにね」
「しっ!」
私は、振り向いて二人に向かって、そう言ったが、彼女はしっかりとそれを聞いていて、すかさず聞き返した。
「えっ、二人とも食べ物はダメなの?」
「いやいや、りんごアレルギーなんだよ」
「りんごアレルギーって初めて聞いたわ」
「そっ、そうですか? けっこうあるんだよ。これは私がいただきます」
りんごを受け取って、帰ってもらおうと思った矢先、ライラが余計な一言を言ってしまった。
「ねえ、上がってもらわないの?」
「えっ?」
私は、上がってくださいと言える状況ではないので困っていた。
「お孫さんがいらっしゃるので、ご迷惑でしょうから、私はこれで失礼します」
「孫じゃないから、気にしないでください」
アディルが続けて余計な一言をいってしまった。
「えっ、お孫さんじゃないんですか?」
「はい、遊びに来ただけですから、私たちに気にせず上がって下さい」
おいおい、俺の家だぞ。なんでアディルが仕切っているんだよと心の中で思いつつも彼女に、上がってもらうことにした。
「珈琲でいいですか?」
「ええ、いつもすみません」
「いい香りですね」
「今日は、珈琲庵のブレンド珈琲です」
そう言って、彼女の前に花柄のカップに入れた珈琲を出した。
「珈琲庵って、郵便局の近くのですか?」
「ええ、そうです」
「気になっていたのですが、まだ行ったことがないんですよ」
「そうですか、とても気さくなマスターですから、是非行ってみて下さい。ケーキも美味しいですし、ゆっくり本も読めますよ」
彼女は、珈琲を一口飲んで、
「ブレンド、美味しいですね。今度行ってみることにします」
彼女の向かい側にアディルとライラが、ちょこんと座って、珈琲を飲んでいる彼女をじっと眺めていた。何となく、嫌な予感がした。
「ねえ、二人は、どんな関係なの?」
とアディルが、彼女に尋ねた。
「彼女も小説家なんだよ」私が答えると
「彼女に聞いたのに!」
アディルは、私を睨んだ。
「浅間さくらと言います。ミステリー小説を書いているの。先日、その帯の執筆を先生にお願いして書いてもらったところなんです」
「先生? ラマナが?」
「ラマナ? 今、ラマナって言いましたよね?」
アディルは、口を押えて、しまったという顔をした。
「ニックネームなんですよ」
「そうなの?」
彼女は、口を押えているアディルに尋ねた。
アディルは、六回くらい頷いたが、彼女は信じていない顔をしている。
「ねえ、お名前は?」
「アディル……」
「あなたは?」
「ライラ」
「アディルと、ライラ……」
彼女は、私をじっと見つめている。
私は、蛇に睨まれているカエル状態だ。
もうこの際、正直に話して、アディルとライラに助言を求めることにした。
「あなたがおっしゃったとおり「美しき星」は実話です。ここにいる二人は、アディルとライラ。今日美しき星から来て、先ほどまでオリジン装置を再起動して、それぞれの過去を見ていたところです」
「オリジン装置を再起動……、だから私、またビジョンを見たのね」
「どんなビジョンでしたか?」
「友達と遊んでいた場面だったのですが、友達のことを「さくら」って呼んでいて、混乱して、さっきよろけて転んでしまったんですよ」
「さくらって、呼んだんですか?」
「ええ、何か、ありましたか?」
私は、本棚から、母の自叙伝を取ってきて、最後の方のページを開いて彼女に渡した。
「これは、私の母、ホノコの自叙伝です。このページを読んでみて下さい」
彼女は、真剣な眼差しで読み始めた。
「もし私が、本当にホノコであったなら、先ほど見たビジョンと、この内容はとても類似しています」
「えっと、ラマナ、これはどういうことだ? 彼女が、ミステリー作家のホノコだというのか?」
アディルが、驚いた表情で聞いてきた。
「ああ、その可能性が一段と高まったようだ」
「そんなことがあるのか? あの時代に、地球で転生するのは……、そうか、二千十一年か! さくらさん、何年生まれですか?」
「二千十二年です」
「なるほど、可能性は十分あるな」
「私も驚いているんだ。母が書いた「探偵は十六歳」をあの時、走馬灯で見て、すべて書いたと言うんだ。しかも、その中身が母の「探偵は十六歳」とほとんど同じだったんだ。あの短い間に、一冊の本を見て書けるなんて、書いた本人でなければ、あそこまで同じには書けないだろう」
「先生、どうして、そう思っていらっしゃったのに、私が先生の母だと言ってくださらなかったのですか?」
「私もそうなんだが、それを言ったところで、あなたは何ができるのですか? どうしたいのですか?」
「私は、私は……」
「変わらないよ、自分の魂が、他の星から来たことを知ったとしても、ここでの暮らしは、何一つ変わらない。それどころか、郷愁の思いにふけって、今が辛くなるだけかもしれないし、もし死んだあと、星へ帰ることができなかったらと思うと余計に怖くなるかもしれない。知ったところで、いいことなんて一つもない」
しばらくの間、誰も何も言わず、無言の時間が過ぎていた。
「さて、珈琲もなくなったことだし、今日は、このへんでお開きにしますか」
そう言って、腰を上げたところで、ライラが話し始めた。
「そんなことないわ。私は違った。私は、ずっと長い間、私の魂は宇宙の別の星から来たことを知っていたけど、誰もそれを認めてくれる人がいなくて、とても寂しい思いをしたの。でも、アディルが来て、確信したとき、本当にうれしかったのよ。私は、やっぱり間違っていなかったし、これで帰ることができるって思った。何も思わない人にとっては、どうでもいい話かもしれないけど、そう思った人にとっては重要なことよ」
「ライラさん、ありがとう。そうなの、先生の言われるように、知ったところで、今世では、何も変わらないかもしれないけど、ライラさんのように、私も自分の体験を確信したかったの。星へ帰りたいとか、強い思いはまだないけど、私が何者なのか知りたかったの」
「さくらさん、私たちと一緒に美しき星へ行ってみますか?」
「えっ? 行けるんですか?」
「今からでしたら、お連れしますよ」
「ええ、是非、お願いします」
「ちょっと待てよ、本気か?」
「彼女が、美しき星へ行くのに、何か問題があるの?」
「いや、これと言って…… あっ、そうだ、また小さい宇宙船だろう?」
「中型免許を取得したから、六人までは乗れるぞ」
アディルは自慢げにそう言った。
「えっ、そうなのか?」
「ラマナも一緒に行くか?」
「いや…… 俺は、しばらく地球にいるよ」
「そうか。では、また会いに来るよ」
三人は宇宙船に乗り込み、空の彼方へ消えていった。
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