(後編)蘇る記憶①
美しき星(後編)~あなたは、魂の声を信じられるか?~
蘇る記憶
「ラマナ、いるか?」
玄関から、アディルの声が聞こえてきた。私は、また何か宇宙で起こったのではないかと嫌な予感がした。
「ラマナ、例のあれ、やってみたか?」
「例のあれって、何だ?」
「まだやってないなら、ライラが一緒にやりたいっていうから、地球まで来たんだよ」
「一緒にやりたい?」
「オリジン装置の再起動をするのよ」
ライラが、目を輝かせて言った。
「あー、あれね。まだやってなかったよ」
「そうだろうと思ったよ」
アディルは、そう言うと、勝手に家の中に入ってきた。
「君たちは、相変わらずだな。ここは俺んちだぞ。勝手に入ってきて、親のしつけがなっとらんな」
「それさぁ、複雑な話になるからやめとこうぜ。俺の親は、ラマナの娘の愛歌で、ライラは、もともとここの主、君の母親だからな」
そうだった。親子関係の話を持ち出すと、ややこしくなるだけだった。私は、彼らの後ろをついて居間に入った。
ライラは、居間をキョロキョロと見回している。
「ねえ、オリジン装置はどこ?」
「えっと、どこにやったかな?」
棚の上の書類をどけて探してみたが、この上ではないようだ。
「あっ、そうだ、床の間に置いたんだった」
私が、そう言うと、ライラは、すたすたと奥の間に行って、オリジン装置を持ってきた。
「再起動って、中にある桜紋を取り出して、もう一度入れて蓋を閉めればいいのかしら?」
「たぶん……」
アディルは、オリジン装置の底や側面を念入りに確認した。
「何も書かれていないな」
「あの時は、とにかく起動させたから、中がどうなっていたのか、全く見る余裕がなかったからな。開けてみるしかないか」
「開けたら、また元のような世界に戻ったりしないかしら?」
「煙が出て、みんな一瞬で老人になったりして。ハハハハッ」
「それ、浦島太郎の玉手箱だから。つまんないこと言わないでよ」
「アディル、この話についてこられないだろう?」
ポカンとしているアディルに向かって言った。
「はい、つまんないこと言ってないで、まじめに話そう」
アディルは、私の話に全く付き合ってくれなかった。
「はいはい、そうします。それで、どうする? とりあえず開けてみるか?」
「それしか、方法はないだろうな」
「開けるぞ」
三人とも、オリジン装置をじっと見つめて息を飲んだ。
私は、オリジン装置に手をかけて、十秒ほど間を開けた
「開けろよ!」
アディルが、そう叫ぶ姿を見て、私はにやついた。
「よし、次は本番」
そう言って、肩をぐるぐる回し、オリジン装置の上蓋を開けた。
三人とも特別変化を感じなかったので、何も起こらなかったのだろう。
桜紋を取り出し、中を確認したが、これと言って何も書かれていないし、怪しげなものはなかった。
「では、再起動してみますかね。皆さん、準備はいいかな? 行きますよ!」
私は、桜紋をオリジン装置に入れて蓋を閉めた。
二秒たった頃、あの時と同じように、放射線状に光が放たれた。私たちは、その眩しさに目を閉じた。
『「あー」か。これだ! この言葉を魂に刻もう。この言葉で、私は再び美しき星へ帰ってくる。もう一度この地で、宇宙の全ての記録を体系化するんだ』
映像が薄らいだころ、私はゆっくりと目を開けた。アディルとライラは、まだ目を閉じたままだ。二人が目を開けるまで私は静かに待っていた。
アディルが先に目を開けた。私は、アディルにライラがまだだと目で合図を送った。
ライラが少し遅れて、目を開けると同時に大きく息を吸って話し始めた。
「笑わないで聞いてね! 私、ヨーロッパの王女だったの!」
私とアディルは、目を大きく見開いた。
「笑わないけど、ちょっと嘘っぽいな」
私は、彼女の頭の先からつま先まで確認して言った。
「もう、失礼ね。今だって十分お嬢様でしょ?」
私とアディルは、同時に手を横に振って、違うというポーズをした。
「その時は、そうだったの。すごいフリフリのドレスを着て、召使が何人もいるのよ」
「名前は?」
「名前では呼ばれなかったわ」
「ふーん……。ネットで、検索しようと思ったのに残念だな」
「ラマナは何を見たの?」
「俺は、例の暗号さ。やっぱり「あー」で正解だったよ」
「それは、良かった。これで確実に美しき星へ戻れるな」
「アディルは?」
「初恋の人」
「えーっ」ライラと私は、思わず大きな声を上げた。
「初恋の人って、覚えているもんでしょう? なんでわざわざ見させるの?」
「さぁ? 何か意図があるのかな?」
「もしかして、焼け木杭に火かもな」
「もう、変な事言わないで!」
ライラが、ムッとして私を睨んだ。
「何千年も前のことだから、確かに忘れていたんだよな。もし、何かの意図があるなら、ライラの王女も意図があるのか?」
「そうね、今のところ、全くわからないわ」
「変な過去だったら、言わないことにするか」
私も言いたくない過去を見るかもしれないので提案してみた。
「それって、逆に気になるわ」
「ライラもアディルよりも好きな人がいたかもしれないんだぞ。もしそれを見たら、どうするんだ?」
「……」
「ライラ、黙るなよ」
アディルが、ライラの手を握って顔を覗き込んだ。ライラは、ニヤッと微笑んで
「今はアディルだけよ」
私は、二人のやり取りを見て、馬鹿々々しくなっていた。
「さぁて、どうするかな? まだ続けるか、もうやめておくか?」
「まだ、続けて。私は、地球に来る前の記憶が知りたいの」
「アディル、ライラがそう言っているけど、本当に大丈夫か?」
「私にやましいところは一ミリもない」
「ほほう、なかなかの自信ですな。では、いいんですね? もう一度再起動し・ま・す・よ」
私は、二人の目を交互に見ながら、ゆっくりとオリジン装置の蓋を開けて再起動した。
私たちが再び瞼を開けたとき、ライラが、今にも泣きそうな顔をしていた。
「ライラ、どうしたんだ?」
アディルが、心配そうに、彼女の手を握った。
「あの時のことが、鮮明に見えたわ。美しき星から連れ去られた時のこと。仲間百人は、宇宙船に乗せられて地球に降り立った。私たちが思っているよりも近代的な街並みだったわ。みんな色とりどりの服装をしていて穏やかにみえた。私たちがどうして拉致されたか、ようやくわかったの。通訳が欲しかったのよ。この星の人々は、言葉や習慣が違いすぎて、対話による解決ができなかったみたい。私たちは、相手の心を読んで通訳していたのよ」
「通訳のために拉致されたのか……」
アディルは、今までの仮説が全て外れていたことに落胆していた。
「ライラ、どうする? もう一度再起動するかい?」
私は、オリジン装置を持ち上げながら確認した。
その時、玄関で何かがぶつかって倒れるような大きな音が聞こえてきた。
ライラが、私の質問に答える前に玄関に駆けて行った。
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