捜索③
「清田さんが意識を取り戻して、本当に良かったよ。私のせいでこんなことになるとは思ってもみなかった」
「ラマナも落ち着いたようだな」
「さっきはうまく説明できなかったけど、これからのこともあるので、詳細を話しておきます」
「そうだな、一体何があったんだ」
部屋の扉が開いて、珈琲のいい香りがしてきた。
「さっき、あの子を助けるときに、珈琲があったから頂いてきたの」
「頂いた?」
「うん、悪い奴らがね、何でも持って行っていいから、命だけは助けてくれって言うもんだから、珈琲セットを頂いてきたの」
「それって、脅しだと思うんだが……」
「えっ、そうなの? ごめんなさい、私、言葉の通り素直に受け止めたわ」
「まあ、いいよ。無性に珈琲が飲みたかったから頂くよ」
「そうだと思った。はい、どうぞ」
「さあ、話を聞かせてくれ」
私は、珈琲を一口飲んで、話し始めた。
「実は、今朝方、清田さんがうちに訪ねてきて、美しき星の続編を書いてほしいというので、ネタ探しのために、美しき星へ行っていたんだ」
「えっ、今日、来ていたの? 私たちには、連絡してこなかったのね」
「ごめん、ごめん。何しろ、仕事の早い清田さんが急かすものだから、ライラたちに会う時間がなかったんだ」
「そうだったのね」
「それで、美しき星で何があったんだ?」
「二人は、例の暗号が書かれたノートを覚えているか?」
「ええ、もちろん。あいを三回響かせるやつね」
「そう。その暗号のことが気になって、私の実家を訪ねてみることにしたんだ」
「ラマナの実家か……」
「私の部下が、知っているということで、案内してもらったところ、とんでもないことが分かったんだ」
「とんでもないこと?」
アディルとライラが同時に言った。
「美しき星と地球の秘密なんだ」
「どんな内容なんだ?」
「実は、美しき星の住人は、もともとは天の川銀河の星で暮らしていたが、星の寿命で、別の星に移住したんです。移住した先が地球だったんですよ。そこで、平安な暮らしをしていたところに、他の星の奴らがきて、皆を牢獄に閉じ込めたんです。それを救ったのが、私の祖父なんです。あっ、これから先の話は、内密にしてください。もしかすると、祖父の罪を公表することになるかもしれないので」
「わかった。秘密にするよ」
「祖父は、記録者の仕事をしていて、たまたまその時、他の星に行っていたので、牢獄にとらわれることがなかったのですが、指示を受けて、アカシックレコードの保管庫にあるオリジン装置を取り出し、保管庫を爆破したのです。その間に、皆は宇宙船に乗り込み、地球から脱出したということなんです。しかし、私の祖父は、オリジン装置をもって逃げたのですが、ある山の上で奴らの攻撃に合い、そこに置いてきてしまったということなんです」
「オリジン装置か、初めて聞くな……」
「オリジン装置を知る者は、その当時でも五人だったようです。オリジン装置は、とても重要な役割を果たしていたようで、美しき星の過去と未来への道標なのだそうです」
「へー、そういうことか」
「えっ、どういうこと?」
「どうりで、私たちには、過去がないと思っていたんだよ」
「過去がない?」
「そう、過去が見当たらないと思っていたんだ。記憶もない、記録もない、アカシックレコードを持っている我々の過去がないことに気づいていたんだ」
「他の人たちも知っているのか?」
「さあ、どうだろう。記録者の一部は気づいていたんじゃないか?」
「そうですか……」
「もう一つ、未来の道しるべとは、どういう意味だ?」
「これです」
私は、預かった書をアディルたちに見せた。
「桜紋ね。日本には似ている紋章がたくさんあるわ」
ライラが覗き込んで、そう言った。
「この桜紋は、大宇宙の紋章で、叡智、光を集めるもの。オリジン装置に入れることで増幅されて、星全体を覆うほどの力となるらしい」
「なるほどね。この紋章だけでも叡智を集められるから、星のいたるところに書かれていたということか」
「祖父が、書いてまわったみたいだ。その、置いてきてしまったオリジン装置を見つけ出して、美しき星へ持って帰って、この桜紋を入れるというのが、私のミッションなんだ」
「それで、オリジン装置の場所は?」
「ああ、この地図に印が書かれているんだ」
私は、地図を広げて、二人に見せた。
ライラが、地図をじっと見つめていた。
「これって、四国の地図ね。ここは、剣山よ」
「えっ、ライラ、これが四国だと言うのか? オーストラリアだろ?」
「四国よ」
「でも、ここの北側の間が狭いし、実際の四国より、陸の幅が広いじゃないか?」
「そうぉ?」
ライラは、納得していない様子で、首を横にかしげていた。
「この地図をみて、オーストラリアのウルルと言う山に行くことにしたんだ」
「ウルルの頂上に着いた時に、どこを探していいかまるで見当がつかなかったんだが、前回のアカシックレコードの保管庫崩壊事件の時は、瞑想の時に見たビジョンが役に立ったから、今回も瞑想をしてみたんだ」
「それで、見えたの?」
「ああ、見えた。山の頂上には、積み石があって、ロープが周りに巻かれていたんだ。ウルルの頂上には、そういったものは、まったく見当たらなかった。その時、あいつらがやってきた。そして、清田さんに向かってこう言ったんだ『なぜ、作者を殺さないんだ』ってね。それから、あの本が出版されると困ると言っていた。あの本は、ファンタジーではないと。この星は、私たちの星で、地球人は奴隷だから、目覚められては困ると」
「あの本に何を書いたんだ?」
「えっと、ライラとアディルの会話だろ。それから、アカシックレコードの保管庫での格闘だろ。あとは、あの暗号のことかな」
「そうか、恐らく、奴らにとって都合が悪いのは、あの暗号に書かれていた内容だろうな。あの暗号のことは、その手紙には書かれていなかったのか?」
「そうなんだよ」
「ラマナの本は、いつ発売になるんだ」
「えっと、もう早いところでは、店頭に並んでいる時間ですね」
「そうか……。また何か仕掛けてくるんじゃないか?」
「そうだよな……」
「父さん、父さん!」
清田さんの息子の大きな声が響いた。
「清田さんが目覚めたのかも!」
私たちは、話の途中で、彼の様子を見に行った。
彼の息子が、カプセルに覆いかぶさっていた。
「お父さんは、起きたのか?」
「はい」
「あっ、先生」
医師がカプセルを開けると、二人は抱き合った。
「こんな目にあわせて、本当にすまなかった。大丈夫だったか?」
「うん、僕は大丈夫。でも、お母さんが……」
彼は、こらえきれず涙を流しながら
「お母さんが、死んでしまったかもしれないんだ」
「えっ?」
「僕がさらわれた時に、お母さんと一緒だったんだけど、お母さんは、頭を殴られて血を流して倒れたんだ」
「どこでだ」
「家」
「家の住所を言うんだ」
「東京都足立区〇〇 305号」
「操縦士、聞こえたか? このまま、彼の家の上空へ移動して下さい!」
医師が操縦士に大声で叫んだ。
「了解しました!」
宇宙船は、東京上空へ移動した。
「もしかすると奴らが待ち伏せしているかもしれないな……。私が、彼の友だちの振りをして家を訪ねてみるよ」
アディルは、そう言ってマンションに入っていった。
アディルからの報告は、ライラが、テレパシーを使って、受け取っていた。
「部屋の周りには誰もいない。ドアのカギが開いている。中に入るぞ。あっ、女性が血を流して倒れている……。脈はある。レスキュー隊員、至急来てくれ。ストレッチャーは目立つので、抱きかかえていくぞ!」
レスキュー隊員が二人、マンションへ向かった。
「清田さん、すみませんが、カプセルから出てもらえますか? 今度は、あなたの奥さんの治療を開始しますので」
そう言うと同時に、母親が抱きかかえられて部屋に入ってきた。
「母さん、母さん、しっかりして!」
清田さんの息子は、垂れ下がった母親の手を掴んで叫んだ。
「これは、かなり傷が深いな」
二人の医師も深刻な顔つきをしている。
「先生、助かりますか?」
「少し、時間がかかるかもしれませんな」
「先生、お母さんを助けてください」
「しばらく、カプセルに入ってもらって、様子をみることにしましょう」
清田さんと息子は、母親が入ったカプセルの横に立って、様子を見守っていた。
「清田さん、はい、これ」
ライラが、清田さんに新しい服を手渡した。
「わー、私としたことが!」
裸の彼は慌てて、服で前を隠してしゃがみこんだ。
「はいはい、皆さん、部屋の外へ出て下さいね。清田さん、ゆっくりここで着替えて。私たちは、向かいの部屋にいますから」
私は、先ほどの部屋に戻った。
「それにしても、奥さんまでこんな目に遭わせるなんて、ひどすぎるわ」
ライラは、いつもになく怒っていた。
「やつらは、本気だぞ」
アディルも眉間にしわを寄せている。
「ラマナ、話の続きを頼む」
「えっと、どこまで話したかな? あの本が出版されては困るといって、奴らは俺を狙ってきたところまでだったかな?」
清田さんが、部屋へ入ってきた。
「私が、そのことについて話します」
「もう大丈夫なのか?」
「ええ、すっかり元気になりましたので」
「奴らは、いったい何者なんだ?」
「私もはっきりとはわからないのですが、ラマナ代表の「美しき星」の出版差し止めを求めてきたのは、実は3週間ほど前なんです。
「えっ、そんな前の話だったんですか? 知らなかったよ」
「まあ、時々、そんなクレームのようなメールとか電話とかは入るので、私たちは気にしていなかったのですが、出版日が近づくにつれて、爆破予告や殺害予告が来るようになって、警察にも相談していたんです。そして、発売前日、ラマナ代表と美しき星へ出かけた日に、私が先に地球に戻ったのは、息子を誘拐したという連絡があったからです」
「そうだったのか……」
「息子を解放する代わりに、ラマナ代表を殺害し、出版を止めろと言ってきたんです。私は、そうすると言いながら、実は、次の手を考えていたんです。あのオリジン装置を地球で起動させることです」
「えっ、あれは、美しき星へ持って帰って起動させるんじゃ……」
「ラマナ代表のおじい様の手紙を読んで、これは、地球で使えるのではないかと。そうすると奴らは、もう完全にこの地球を牛耳ることができなくなると思ったんです」
「なるほど。その可能性は高い」
「だから、まずはオリジン装置を探したかったんです」
「それで、あの時焦っていたのか」
「すみません」
「いや、いいんだよ。となると、オリジン装置を探さないといけないな……」
「ねぇ、さっき、ビジョンを見たって言ったわよね? 積み石がどうのって」
ライラが聞いてきた。
「そうなんだ。私の見たビジョンが正しければ、オリジン装置は、頂上に積み石があって、ロープで囲まれている山だと思う」
「積み石にロープ。どこかで見たような気がするのよね……」
ライラは、斜め上を見ながら考え込んでいた。
おっ、ばっちゃんのいつものやつだ。頼む! 思い出してくれ。
「……あっ、やっぱり剣山だわ! ねえ、すぐに剣山頂上の写真を検索してみて!」
私は、スマホを出して、剣山頂上と入力した。
「わー、こっ、これだよ。ここだ」
ライラが、スマホを覗き込んだ。
「これってさぁ、ロープじゃなくて、しめ縄っていうのよ」
「俺には、ロープに見えたんだよ。で、剣山ってどこだよ」
「四国よ」
「えっ? あの地図って、本当に四国だったのか?」
「だから、言ったでしょう、四国だって」
「どう見てもオーストラリアにしか見えなかったけどな……。それにしても、ライラは、あれが、剣山頂上だってよくわかったな?」
「昔ね、剣山に登れってメッセージがあったの?」
「アディル、またライラに会いたくて、メッセージを送ったのか?」
「私ではない」
「じゃあ、誰だよ?」
「2500メートルない山だから、アディルじゃないわ。もしかすると、ラマナのおじい様かもね」
「えっ?」
「だって、ただ登っただけなら、頂上に積み石があって、しめ縄がしてあるなんて、きっと覚えてないわ。でも、この私が覚えていられたのは、登頂した日に、ご神事があって、私に大しめ縄を持つのを手伝って欲しいって言われて手伝ったの。何かの導きだと感じたわ。きっとあの場所に大切なものがあって、しめ縄で結界を張って守っていたのよ」
ドン!
宇宙船は、強い衝撃を受けた。ライラとアディルは、壁まで飛ばされた。
「ライラ、アディル、大丈夫か?」
「ええ、私たちは大丈夫よ。清田さん、早く奥さんとお子さんを見てきてあげて」
「わかった」
すぐに館内放送が流れた。
「何者かの攻撃あり、一旦星に退避します。至急シートベルトを着用して下さい」
私たちは、シートベルトをすぐに締めた。
毎日更新予定




