捜索②
「清田さん! どうして……」
彼が私の前に飛び出してきて、目の前で倒れた。私をかばって撃たれたのだ。私は、必死で、彼の腹部の傷口を手で押さえた。
「ラマナ代表、すみませんでした……」
「だめだ! 清田さん、しっかりするんだ!」
誰か助けてくれ! 誰か! アディル、ライラ! 頼む、助けてくれ! 清田さんを助けてくれ!
ダメだ、死んじゃだめだ! 頼む、助けてくれ。
私は、心の中で、何度も何度も必死に助けを求めた。
警察のヘリコプターは、あの男が乗ったヘリコプターを追いかけて行ってしまった。パトカーのサイレンの音が、だんだんと遠ざかっていく。
私たちに気づいている者は、もうここには誰もいない……。
私は彼の洋服がどんどん赤く染まるのを手で必死に押さえた。
頼む、誰か!
私が天を仰いだ時、大型宇宙船の中に吸い込まれていった。
「清田さん、どうした、何があったんだ?」
アディルが慌てて駆け寄ってきた。
「頼む、清田さんを助けてくれ。撃たれたんだ」
「えっ、撃たれただと?」
「二人とも、離れてくれ。私たちが治療するから」
二人の医師がストレッチャーに彼を乗せて、宇宙船の一室に入っていった。
私は、その部屋を見つめて、呆然と立ち尽くしていた。
ライラが、濡れタオルを持ってきて、血まみれの私の手を黙って拭いてくれた。
「ラマナ、とりあえず、ここに座って。まずは、お水を一杯飲んで、落ち着こう」
アディルは、私を椅子に座らせた。
「一体何があったんだ?」
「わからない。何か恐ろしいことが起きていたんだ。清田さんは、このことを知っていて……」
「要領を得ないな。とりあえず、どうして、オーストラリアにいたのかを聞かせてもらおうか」
「あぁ、そうだ、オーストラリア……。これは、私のミッションなんだよ」
「えっ、ミッション? さらにわからなくなったな。あの山の上で、何をしていたんだ?」
「探していたんだ」
「何を?」
「ある装置を。そしたら、奴らが来たんだ」
「奴らとは?」
「この星は、自分たちの星だと言っていた。私の本が出版されては困る。それで、私を殺すと」
「なんだって!」
「本当は、清田さんが私を殺すことになっていたんだ」
「えっ、彼は奴らの仲間なのか?」
「いや、違う。彼は、私を助けて撃たれたんだ。そうだ、彼の息子の命がないって言っていたから、脅されていたんじゃないかな……。彼の息子が、もしかすると拉致されているのかもしれない。今日は、やけに急いていたんだ」
「彼は、息子がいたのか? 初めて聞いたな。急いで、その息子を探そう」
アディルとライラは、目で合図をすると、二人とも目を閉じた。数分間の沈黙の時間が流れた。ライラがおもむろにディスプレイの前に移動して、日本地図を拡大し始めた。
アディルもそれを眺めて、一点を指さした。二人は、確信したかのように頷いた。
「これから、私たちとレスキュー隊で、彼の息子の救出に行ってくる。ラマナは、ここで待機してくれ」
「皆さん、どうか、よろしくお願いします」
私は、椅子から立ち上がって、深く頭を下げた。その後、すぐに崩れるように椅子にもたれかかった。
ほどなくして、医師が、部屋から出てきた。
あまりにも早いので、助からなかったのだろう。
「先生……」
「意識が戻れば、もう大丈夫だと思いますよ。どうぞ、中へ入って下さい」
私は、大きく息を吸った。もう駄目かと思ったが、彼は助かったのだ。
透明のカプセルの中に入った彼を見た。腹部にあった銃創部分が、縫ったような跡もなく修復されてきていた。
「傷口が、こんなにきれいになるなんて、すごい技術ですね」
「この星の医療は、初めてですか?」
「ええ」
「私たち医師は、このカプセルを使うだけですよ。切ったり貼ったりすることは、滅多にありません」
「カプセルが治すのですか?」
「そうです。これは、細胞再生装置といって、外傷を素早く治す機械です。この中に入るだけで、傷ついた細胞や血管が、自動的に修復されるという装置です」
「へー、医者いらずですね」
二人の医師は、咳払いをして少し微笑んだ。
「彼の意識は、いつ戻りますか?」
「それは、いつとは言えませんが、恐らく、そんなに時間はかからないでしょう」
「そうですか……」
「私たちは、隣の部屋にいますので、何かあったらすぐに呼んでください」
「わかりました」
私は、彼の側に椅子を移動させ、顔をじっと見つめていた。
私のせいでこんなことになってしまって申し訳ない。今、アディルたちが君の息子を探してくれているからな。早く目を覚ましてくれ。
私は、何度も心の中で、彼が早く意識を取り戻すことを祈っていた。
「代表……ラマナ代表……」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえたような気がして、ハッと目を覚ました。カプセルにもたれかかって、私は眠ってしまっていた。
彼は、カプセルの中で目を開け、私を呼んでいた。
「清田さん、大丈夫か!」
「ラマナ代表の顔が、カプセルで押しつぶされて怖かったです」
透明なカプセルに私の鼻や口が押し付けられて歪んでいたのが、すごい形相だったようだ。
「は? まったく心配して損した」
私は、彼の顔の前で、カプセルをポンと叩いた。
「先生を呼んでくるよ」
私は、隣の部屋にいる医師のところへ行った。
医師は、すぐに駆け付けて、彼の状態を確認した。
カプセルの外から見えた彼の銃創後は、先ほどまで確認できたが、今は、もうすっかりきれいになって、何もなかったかのようにきれいな肌に戻っていた。
「もう大丈夫ですが、二、三日はゆっくりされた方がいいですね。失った血液が十分回復するまでは、用心ですよ」
「先生、私は、カプセルから、いつ出られますか?」
「もう、出ても構わないけど、あと数時間いると、他の部位もいろいろ修復してくれるからまだ入っていてもいいよ」
「清田さん、良かったな。他の悪い部分も治るってよ」
私は、悪いを付け加えて言ってやった。
彼は、睨むように目を細めて私を見ていた。
私は、二人の医師の後ろにそっと隠れた。
「ラマナ代表、それより、お願いが……」
「えっ、あぁ、それなら大丈夫、心配いらないよ。アディルたちが今息子さんを探しているから。安心してもう少し眠っていろ」
彼は、再び目を閉じた。
私は、客室に戻った。目の前のスクリーンには、映画が映し出されていた。前回は、まったく何をしゃべっているかわからなかったが、翻訳機のおかげで、俳優たちが話しているのが聞きとれた。今は、静かな所より、何でもいいから聞こえてきた方が落ち着ける。私は、ソファーに深く腰をかけて映画を見ていた。
ウイーン、ガシャン。
「お父さん、お父さんは、どこ?」
いきなり男の子の大きな声が響いた。
「ねえ、お父さんは、僕のお父さんは?」
「君は、清田さんの息子さんか?」
「はい、お父さんを知っていますか?」
「ああ、こっちへおいで」
私は、彼の息子の手を引いて部屋へ案内した。
カプセルの中に入って眠っている父親を見て、その子は少しうろたえた声で、
「お父さんは、死んでしまったのですか?」
「いいや、眠っているだけだよ」
「ほんとに? 本当ですか?」
彼は心配そうに聞いてきた。
「本当だとも。さっき意識が戻って、もう一度休むように言っただけだから」
「良かった……」
「さあ、ここに腰かけて、お父さんが起きるのを待ってようか」
「はい」
私は、後から部屋に入ってきた、アディルとライラに目で合図して、一緒に部屋を出た。
私たちは、宇宙船の一室を借り、三人で詳しい話をすることにした。
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