捜索①
捜索
家に到着すると、前回と同じように、数時間しか経過していなかった。
「今回も、浦島太郎じゃなくて、良かったよ」
私は、そう呟いて、居間のパソコンを立ち上げた。
早速パスポートの申請をするためだ。近年、デジタル化も進み、パスポートも即日発行されるのだ。ただし、受け取りだけは、市役所へ行かなければならないのだが、随分楽になった。
午後、私は、市役所へ出向き、パスポートを受け取った。一階のロビーを歩いていると、仕事中の愛歌と出くわした。
「お父さん、ここで何しているの? 美しき星へ行ったんじゃないの?」
「しーっ! 声がでかいんだよ」
私は、周りを見渡して、不審がられていないか確認した。
「あっ、ごめんなさい。それで、行かなかったの?」
「いや、行ったさ」
「もう、戻ってきたわけ? で、ここで何しているの?」
「パスポートを申請して、受け取ったところ」
「パスポート? 今度は、どこへ行くつもり?」
「オーストラリア」
「は? オーストラリア? 何しに?」
「俺のミッションなんだ」
「はぁ? まあ、いいや、また家で話しましょう。それじゃ、仕事に戻るから」
「ああ、また後で」
私は、寄り道もせずに家に戻った。
この位置だと……エアーズロックか?
パソコンの地図と美しき星から持ち帰った地図を見比べていた。
えっと、エアーズロックは、現在は、ウルルと呼ばれている。
「へー、そうなんだ。それから……」
「えっ!2019年、登山禁止となった。なんだって、登れないのか!」
これは、困ったことになったぞ。
登れないとなると、どうやってオリジン装置を回収したらいいんだ?
困ったな……。
「大丈夫ですよ。宇宙船で行きますから」
「わー、びっくりした! こっそりと入ってくるなよな!」
「玄関が開けっ放しになっていましたよ。不用心ですね」
「あっ、急いでいて、閉めるのを忘れていたんだ。ところで、清田さん、用事は済んだんですか?」
「ええ、すみません、先に戻ってきてしまって」
「いえ、いいんですよ」
「じゃ、行きますか!」
「えっ、どこへ」
「ウルルですよ」
「今から?」
「そうですよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。急ぎすぎじゃないか?」
「急いで……。いえ、仕事は早くなくっちゃ」
彼は、私に圧をかけるために、両手でこぶしを握って胸の前で一度振った。
「はいはい、わかりました。今から行きましょう。急いでパスポートを取っておいてよかったよ」
「えっ、パスポートを取ったんですか」
「そりゃ、海外に行くからね」
「パスポートを見せるところはないですよ」
「えっ?」
「宇宙船で行くんですから」
「えっ、そうなの?」
「さあ、乗ってください」
「えっと、オーストラリアは、今、何時なんだ? あっ、季節は冬? 春? この服で大丈夫かな?」
「心配しなくても大丈夫です。この宇宙船に冬物も全部ありますから」
「へー、そうなんだ」
「では、出発します」
数秒後、ウルル上空。
巨大な岩山がスクリーンに映し出された。
「誰もいませんね。もう少ししたら、日が沈むので、捜索しやすくなると思います」
「明るい方がいいんじゃないのか?」
「いえ、登山禁止の山ですから、目立たないようにしないといけません」
「そっか……。ところで、どうやって探すんだ?」
「えっ? それは、前回と同じように、ラマナ代表だったら、簡単に探し出せるはずですよね?」
「は? あれは、たまたまヨガをしたとき、瞑想中にビジョンを見たんだよ」
「え? 瞑想で見たビジョンなんですか?」
「そう。その後は、一度も見てないんだ」
「それは、困ります……」
「困ると言われても、私も困るよ」
「では、これから瞑想してください」
「えっ、ここで?」
「はい。ベッドを貸しましょうか?」
「まあ、借りるか……」
私は、ベッドの上で、シャバーサナのポーズをとって、目をつむった。
三分くらい経過しただろうか、全くビジョンが見える気配はない。私は、上半身を起こして「やっぱり無理」と呟いた。そして、操縦席にいる清田さんのところへ、トボトボと向かった。
「見えましたか?」
「無理だな」
「ダメです。頑張ってください」
「ダメですって言われてもな。何か、誘導瞑想の動画がないかな?」
「スマホを貸してください。……はい、これを聞いて、早くビジョンを見てください!」
「なんか、今日は、いつも以上に急かすよな……」
私は、再びベッドに戻り横になった。
「手のひらを上に向けて、全身の力を抜いてください。深い、呼吸をしていきましょう。体と床が一体となっていきます。ゆっくりと息を吸って、吐いて。深く深く大地まで溶け込んでいきます……」
このまま、眠ってしまいそうだ……。
ん? これは何だ? ロープか? 積み石がロープで囲われている。でもオリジン装置らしきものは見当たらないな……。この下にあるというのか?
「さあ、大きく息を吸って、ゆっくりと目を開けましょう」
「あー、あと一息だったのに……」
「ラマナ代表、どうでしたか? 何か見えましたか?」
「見るには、見たよ」
「では、降りてみましょう」
「そうだな」
私は、ウルルの頂上を歩きながら周りを見渡した。積み石らしきものもロープらしきものも全く見当たらない。何もないただの平たい岩だ。
「ここでは、ないようだな……」
「じゃあ、どこですか、早くそこへ行きましょう」
「そう言っても、どこかわからないよ。見えたのは、積み石とロープだけだから……」
「積み石とロープ……。検索してみます」
清田さんは、何だか今日は本当に焦っているみたいだな。
「これですか?」
「いや、こんな三角に積んでなかったから、これじゃないな」
「じゃあ、これですか?」
「いや、ロープもないし、違うよ」
「本当に、ビジョンを見たんですか?」
「見たよ。証明できないけどさ」
「もっと、このウルルを探しましょうよ」
「探しても無駄だよ。頂上には何もないじゃないか」
「もしかしたら、谷に転がっているかもしれないじゃないですか?」
「それ、どうやって探すのさ? 谷を一本一本降りていくのか?」
「そうしましょう」
「馬鹿言うなよ。清田さんらしくないな。今日はどうかしているぞ」
「とにかく、あれがないと困るんです」
「清田さんが、困る?」
「あっ、いえ……」
その時、目の前に、一機のヘリコプターが現れた。
「やばい、ヘリに見つかったぞ」
私は、警察のヘリコプターが私たちを捕まえに来たと思った。
ヘリコプターから、こちらに銃口が向けられているのが見えた。
垂れたロープから、兵士のようながたいのいい男たちが、次から次へと降りてきて、私たちを取り囲んだ。彼らの英語は、ところどころ理解できたので、私たちは、両手を上にあげた。
ヘリコプターから最後に降りてきた黒いスーツを着た男は、清田さんに向かってこう言った。
「清田さん、話が違うんじゃないですか? 私があなたにお願いしたのは、作者を殺すことですよ。何を呑気に、オーストラリアまで来ているんですか?」
「ええ?」
私は、びっくりして、清田さんの方を見た。
「ラマナ代表、すみません」
「あなたができないなら、私が手を貸しますよ。どうしますか?」
「……」
清田さんは、無言でうつむいている。
「何が、どうなっているんだ。私を殺すだと?」
「あなたは、知りすぎてしまったんです。この地球上で一番やっかいな人物ということです」
「はぁ?」
「あの本が出版されたら、私たちは困るんですよ」
「あれは、ただのファンタジーじゃないですか」
「本当に、ファンタジーなのか? あなたは、実際に見て聞いて書いたんじゃないのか?」
「……」
「この星は、私たちの星だ。他の者の自由にはさせられない。あなた方は、単なるエキストラ。いや、私たちの奴隷なんだよ。奴隷が、自分勝手なことをされては困るんだ。だから、あなたが生きていると迷惑なんだよ」
男は、拳銃の銃口を私に向けた。
「清田さんには、失望したよ。早く処理しなければ、息子の命がないというのに、のんびりとオーストラリアまできて、何をやっているんだか……。私が、ここに来たからには、あっという間に終わりますよ」
ウーウーウー
パトカーのけたたましい音が響いてきた。遠くから別のヘリコプターもこちらへ向かっている。拡声器から英語で何か言っているが、聞き取れない。
「急いでください。ここは、進入禁止の山なので、捕まったら大変なことになります」
パイロットが、黒服の男に声をかけた。
男は、ヘリコプターに飛び乗った。
「じゃあな、そこの作家さんよ」
私に向けた銃口からうっすらと煙が上がった。
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