隠された軌跡③
「ラマナ代表、以上です。一緒に、地図も入っています」
「地図?」
「オリジン装置の位置のようですね」
「見せてくれ……。これは、オーストラリアか……」
「山の頂上ですかね」
「そうだな」
「早速、行きますか?」
「えっ、もう行くのか?」
「行かないんですか?」
「行くけど……」
「では、二時間、自由時間にしましょう。その間、私は、オフィスで仕事を済ませるので」
「自由時間二時間……。中学の修学旅行並みの時間だな」
「嫌ですか?」
「いいけど」
「では、二時間後にオフィスに来てください」
「わかったよ」
本当に、この星の人は、せっかちだ。清田さんに言わせれば、仕事が早いだけだというけど、なかなかこのペースについていけないよ。二時間か……、あっ、時計! この部屋にもないし、持って来なかったよ。どうやって二時間を計るんだよ。
私は、がっくりとうなだれた。
まあ、いいか、少し頭の整理をするのにちょうどいい時間だ。
私たちの祖先は、天の川銀河の星に住んでいたが、星の寿命で地球へ移住した。そこへ別の宇宙人がやってきて、捕らえられたが、祖父が他の星の助けを借りて皆をこの美しき星へ移住させた。しかし、祖父は、一番の使命であるオリジン装置を紛失してしまった。そして、私のミッションは、オリジン装置を探し出して持ち帰り、その中に紋章が書かれた書を入れること、そう言うことだな。
私は、もう一度地図を眺めていた。
さて、このオーストラリアの山は、何という山なんだ? ここじゃ、調べられないな。家に着いたら、まずこの山を調べて、海外だからパスポートがいるか。ミッションクリアまで、ちょっと時間がかかるな……。
えっと、こっちは、紋章が書かれている書か……。開けてみてもいいよな? 封がされていないので、そっと中を覗いてみたが、やはりよく見えない。
私は、中身を出してみた。
「桜紋か……」
描かれている紋章は、中心から五つの花びらの先に向かって、太く力強い線が書かれているだけのとてもシンプルな桜紋だ。
「あっ、これ、この家の玄関にも書かれているやつだ。じっちゃん、頑張って色んなところに書いて回ったんだな。それにしてもこの紋章にそんな力があるのか?」
私は、独り言を言いながら、この桜紋をしばらく眺めていた。
さて、まだ自由時間もあることだし、シャワーでも浴びるか。
相変わらず、シャワーはぬるめのお湯しかでないが、私は少しリラックスできた。
タオルで、髪の毛を乾かしながら、机の上のノートに手を伸ばした。
「そう言えば、ここに来た理由は、あの小説の続編を書くのに、このノートに書かれた暗号の謎を解くためだったような気がするが……。まあ、続編を書くのだったら、今回のミッションでも十分か」
私は、髪の毛を手櫛で直して、出発の準備を整えた。
時計がないので、二時間経過したかどうかがわからないが、私は、清田さんが待つ、オフィスに向かった。
私が扉を開けると、スタッフの一人が私の方へやってきた。
「ラマナ代表、清田さんですが、急用ができたとのことで、お一人で地球へ戻られました。いつこちらに戻られるかわからないと言われていました。もし、地球へ戻られるなら、私がお連れしますが、いかがいたしましょうか?」
「えー、そうなのか。どうしようかな……。パスポートの申請もあるし、早く地球に戻った方がいいよな。じゃあ、お願いしようかな」
「わかりました。では、少々お待ち下さい。宇宙船の使用許可を申請しますので」
私は、代表席に腰を掛けて待つことにした。
皆、いろいろな資料をみて、真剣に仕事をしている様子だった。
急に、スタッフの一人が、大声で笑い始めた。私を含めて、皆びっくりしたが、その彼が、自分のデスクに皆を呼ぶので、行ってみると見ていたのは、日本のコント番組だった。
「これ、最高ですよ!」
「日本人と我々は、見た目が一緒なので、違和感がないんです。日本のものは、みんな大好きなんですよ」
「へー、そうなんだ」
「毎回清田さんが持ってきてくれるので、いつも見ているんです。アニメやマンガ本も凄く面白いですね」
「君たちは、一生懸命仕事をしているんじゃなかったんだ」
「えっ? これも仕事のうちですよ」
「地球人の記録ですから」
「ほー、いいね。私もそんな仕事がしたかったな」
「地球の仕事は、つまらない仕事ですか?」
「考え方次第かな」
「といいますと?」
「自分の好きな仕事ができる人は、ほんの一握り。たいていお金のために好きでもない仕事を毎日やっているわけだよ。まあ、主体的に取り組めば、そんな中でも、楽しく働けることはあるけどね」
「お金のためですか」
「そう、地球人は、食べないと生きていけないからね。働いたお金で、食べ物や服を買ったり、家を借りたりするんだ」
「大変ですね……」
「そう、大変なんだよ。君たちは、仕事が大変だと思ったことはないのかい?」
「好きな事ですし、魂がそれを欲してしまうので、大変だけどやめられませんね」
他のスタッフもこの言葉に一同同意して、頷いている。
「私たちが大変だなと思うことは、何だろう……。長生き過ぎるのと、永遠の記憶ですかね」
「えー、地球人にとっては、どちらも羨ましいことだけどな」
「ラマナ代表、そんなことないですよ。死ねるということ、一切合切の記憶が無くなることは、ありがたいことでもありますよ」
他のスタッフもまた一同同意して、頷いている。
「想像してみてください。四千年も五千年も生き続けるわけですよ。もしもラマナ代表のように小説家だったとします。どうです? さすがにネタも尽きるでしょう?」
「確かに……」
別のスタッフも続けて言った。
「永遠の記憶もやっかいですよ。過去に書いたもの、読んだものの記憶が全てあったら、どうです? 小説も書きづらくないですか?」
「確かに……。いや、でも、何千年も生きるとわかっているなら、やりたいことをいろいろやれるし、記憶があれば、同じ繰り返しをせずに済むじゃないですか!」
「この星では、魂の導きで仕事をしているので、やりたいことをいろいろするってことにはならないんです。地球では、生きるためにずっとお金を稼がないといけないんですよね? 好きでもない仕事を何千年も続けられますか?」
「確かに……。そうか、死ねること、生まれ変わったときに、記憶が一切合切無くなっているのは、いいことかもしれないな……」
「そういうことです。まあ、だからと言って、私は地球人になりたいとは思いませんけどね」
スタッフ一同、思いっきり頷く。
「そうだよな……」
「ラマナ代表、宇宙船の手続きが済みましたので、出発しましょう」
「おっ、ありがとう。では、皆さん、行ってきます」
「ラマナ代表、お帰りをお待ちしております」
私は、苦笑いをしてしまった。私がまた再びここへ戻ってくる確証などないのに、行ってきますと言った自分が軽薄だったこと、そんな私にスタッフは『お帰りをお待ちしております』と言ってくれるとは、なんということだ。私は、だんだんとこちらの世界が好きになってきていた。
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