表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/48

隠された軌跡②

 私は、玄関の扉のノブを回した。

「前回もそうだったんだけど、家の鍵ってないのか?」

「美しき星では、鍵をかけないのが習慣になっています。お金というものもないし、食べ物もない。盗まれて困るようなものがないんですよ」

「でも、この前は、勝手に我が家に入って、変な写真を入れていた女性がいたんだぞ」

「そうだったんですか! それは、珍しいことがあるもんですね。まあ、そういうことは、滅多におこらないですよ」

「ふーん、そうなんだ。えっーと、早速、手紙の話をしますか。皆さん、ベッドにでも腰かけてください」

「あっ、ラマナ代表、その前に、ラマナ代表にだけ内容を簡単にお話します。それを聞いてから、彼に話すかどうかを決められた方が良いかと思いますが‥‥‥」

「えっ、そうなのか?」

「一応、念のため」

 清田さんは、いつもになく慎重になっていた。私を実家に案内してくれた彼に、外に出てもらうようにお願いをした。

「この手紙には、美しき星と私たちのルーツ、地球との関係が書かれています。そして、ラマナ代表のお父様が挑んだミッションのこと、おそらくそのミッションをラマナ代表が引き継がれるだろうと思われます‥‥‥。そして一番内密にしたいのは、ラマナ代表のおじいさまが、ご自分の規則違反を告白されている部分です。このことは、記録者として、重大な規則違反ですから、他の記録者に知らせない方が良いのではないかと思います。なので、ここは、やはり、私たちだけで対応すべきかと思います」

「そうか、わかった。彼には、このままオフィスに帰ってもらうことにしよう」

 私は、そう言って、玄関を開け、外で待っていた彼に伝えた。

「申し訳ないが、私の祖父からの個人的な内容が含まれた手紙なので、清田さんに翻訳してもらうだけにするよ。今日は、本当にありがとう。君のお陰で助かったよ」

 彼は少しがっかりした表情を浮かべたが、オフィスの方へ向かって行った。

「なんか、彼には悪いことしたな。何十年も前から、この内容が気になっていただろうに……」

「そうですね、でも内容を聞けば、この判断が正しかったと思いますよ」

「そうか、じゃあ、読んでもらっていいかな」

「はい、では、翻訳して読みます」

 清田さんは、手紙を封から出して読み始めた。

「私の孫、ラマナヘ

 この手紙を読む頃には、私はもうこの世には存在しないだろう。本来なら直接伝えるべき内容だが、ラマナの顔を見て、きちんと話す勇気が私にはないのだ。本当に心の弱い私をどうか許しておくれ。こうやって、手紙を残すことすら、何度もためらってきたのだが、どうしても伝えなければならないだろうと最後の力を振り絞って、今、手紙を書いている。

 さて、どこから話すべきだろうか? 伝えなければならないことが沢山あるが、まずは私たちのルーツから話すとしよう。

 私の祖父から聞いた話になるが、私たちは、元々、天の川銀河の中にある星に住んでいたのだが、その星は寿命を迎え、人々が住むことが出来なくなってきていた。その頃、私の祖父は、記録者として、太陽系の星に調査に入っていて、その中に、色々な星から人々が移り住んでいる美しい星があるので、そこへ移住してはどうかという話になったそうだ。その星へ移住することが決まり、大型の宇宙船数百隻に乗り込んで、約五万人が移住した」

「星の移住にしては、少なくないか?」

「高度に成長した星では、人口は非常に少ないですから、そんなもんでしょう」

「ふーん‥‥‥。あっ、ゴメン、続きをお願いします」

「では、続けます。移住した場所は、海に囲まれた温暖な土地だった。高度な技術を駆使し、五万人の居住区は、あっという間に家や交通網などが建設され、新しい環境にも慣れて、他の宇宙人とも友好的な関係を築いていた。そして、私はこの星で生まれ育ったのだ。

 この星は、皆から「美しき星」と呼ばれていた。海、空、森、風、あらゆる生き物が、自然と調和して美しかった。私が成人したころ、私たちの叡智と技術の集大成と言っても良い『アカシックレコード』の保管庫も完成した。私は、祖父や父と同じ記録者の道に進んで、宇宙の星々を巡っていた。あれは、私が記録者になってから数年たった頃だった。私たちの星に戻ったら、大変な事態が起こっていたのだ。私たちの居住区は、他の宇宙からやってきた者たちに占領され、人々は牢獄に閉じ込められていたのだ。私は、宇宙人の目を盗んで、牢獄の中の両親に会いに行った。そこで告げられたのが「アカシックレコードの保管庫の破壊」だったのだ。このまま、アカシックレコードの保管庫を乗っ取られ、誤った情報を記録されては、全宇宙が崩壊する。過去の歴史をすべて無しとしてでもやりとげなければならないと。しかし、これは、記録者としてはやってはならないことであった。アカシックレコードを守ることこそが、私たちの使命だからだ。さらに、もう一つ重要な使命があった。オリジン装置を取り出して、次の星に持っていくことだ。オリジン装置は、私たちの過去であり、未来への道標なのだ。これさえあれば、もう一度立て直すことも可能なのだ。私は、オリジン装置の場所を父から聞き出し、アカシックレコード破壊の方法と脱出通路を確認した。少しの間、この星を離れ、一旦他の星へ行き、大型の宇宙船をできるだけ多く用意して戻ってきた。そして、牢獄の上空で宇宙船を待機させ、私は、アカシックレコードの保管庫に忍び込んだ。オリジン装置は、保管庫の中央に設置されていた。この扉を開くと警戒音が鳴り響く、オリジン装置を取り出した後、そこに爆弾をセットし、スイッチを押すと3分で爆破される仕組みだ。その間に私は、地下通路へもぐりこまなければならない。そして、警戒音が鳴ると同時に、手薄になった牢獄から、宇宙船にいる仲間が皆を誘導し、助け出す手筈になっていた。

 ウーウーウーウーウー

 警戒音がけたたましく保管庫内に鳴り響いた。

 正面の入り口から、奴らが保管庫に入ってきる足音が聞こえた。

 私は、急いでオリジン装置をもって地下通路へ逃げた。このルートは、奴らはまだ知らないようだった。数分後、私が地上に出たとき、大型宇宙船は、多くの人を乗せて上空へ移動しているところだった。ホッとしたのもつかの間、暗闇を照らすいくつもの投光器によって、私の姿がはっきりと映し出された。やつらに見つかってしまったのだ。私は、山の方へとにかく逃げた。滑り落ちそうになりながらも、オリジン装置だけは、落とさないようにと必死に登ったのだ。何時間かかっただろうか、頂上に着いた時、われわれの宇宙船が上空へ来た。私は、それに乗り込むところで、奴らの攻撃に合い、オリジン装置を落としてしまったのだ。落ちた衝撃で装置の中の書物がバラバラになり散らばってしまった。私は、必死で中身とオリジン装置を回収しようとしたが、間に合わなかった。なんとか拾えたのは、封書一つだけだった。大型宇宙船に助けられた私は、今の星へ皆と共に移住することができたのだ。

 新しい星では、すぐに安定した暮らしができた。過去に何もなかったかのように、穏やかな暮らしが広がっていた。

 しかし、私の両親、そして祖父との関係は、すっかり冷え切ってしまった。私のミスを責めたりすることはなかったが、そのことに触れないようにしているのが、私はとても耐えがたいことだった。ある時、祖父と父が、オリジン装置の話をしているのを聞いてしまったのだ。

「父さん、オリジン装置がないと私たちはどうなってしまうのですか?」

「正確なことは、私にもわからんが、過去と未来が刻まれている装置だと聞いている。それがないということは、私たちの未来がどうなるか……」

「大切なものを息子が失くしてしまい申し訳なかったです。これからどうしたらいいのでしょうか?」

「あの子は、良くやってくれたじゃないか。あの子を絶対にせめてはいかんぞ。あの子がいなければ、私たち全員の命がなかったところだ。オリジン装置がなくとも、私たちは、過去を残すこともできるし、未来を作ることができるはずだ。私たちと未来の子どもたちの力を信じようじゃないか」

「そうですね……」

「この話は、絶対に他の人に話してはダメだぞ。オリジン装置を知っている者は、私たち以外では、記録者を引退した者で、私の知る限り二人だけだ。近いうちに、オリジン装置のことを知る者もいなくなるだろう」

「わかりました。誰にも言いません。ところで、オリジン装置を奴らが悪用することはないのでしょうか?」

「悪用!」

「ええ」

「悪用するということを考えたことがなかったが……」

 祖父は、しばらく無言で考え込んでいるようだった。

「オリジン装置の中には、私たちの起源と進むべき道が書かれた書物が入っていた。進むべき道を間違えれば、神様のお告げがあったかのように、修正される仕組みになっているのだ。支配者がそれを利用して、思い通りのことを書き記せば、そのようになるということだ」

「悪用も可能なのですね」

「そうだな」

 私は、二人の会話を聞いて、ぞっとした。生まれ育った、あの美しい星が、私のミスで取り返しのつかないことになってしまうのではないかと。

 私は、居てもたってもいられず、宇宙船に乗って、もう一度あの星に行くことに決めたのだ。

 何度も何度も宇宙船を飛ばして、探し回ったが、あの星を見つけることができなかった。

 そうこうしているうちに時は過ぎ、祖父も両親も亡くなり、オリジン装置のことを知る者は、私だけになった。

 美しき星の日常は、穏やかに過ぎていた。そう、あの日までは。

 私の息子が、呼び鈴も鳴らさず、家のドアを開け、息を切らして私にこう言った。

「父さん、住民が拉致された事件を聞きましたか?」

「ああ、聞いたよ。百人も拉致されたそうじゃないか」

「拉致された先が、父さんが生まれ育った星じゃないかと思うんです」

「なんだと!」

 私は、恐れたことが起きたと、びっくりして床に座り込んだ。

「父さん、大丈夫ですか? しっかりしてください」

 息子は私の手を引っ張り、私を椅子に座らせた。

 私は、一呼吸してから、話し始めた。

「息子よ、私は、ずっと隠してきたことがある。私は、自分の責任を取る時が来たんだ。いや、遅すぎるくらいだが、私の責任において、やり遂げなければならない」

 そう言って、過去の話を息子に聞かせたのだ。

「父さん、俺も手伝うよ」

「いや、これは私の仕事だ」

「でも、今の父さんの体では、無理だよ」

「それでもやらなければならないんだ」

 私は、あの星へ行く準備を始めていた。

 ところが、息子が置手紙を残して、あの星へ行ってしまったのだ。私は、息子の後をすぐに追うつもりだった。しかし、ちょうどラマナたちの会議の様子をニュースで見て、あの星へ行くことができても帰ることはできないということを知ったのだ。これでは、オリジン装置を回収することはできない。私は、どうしていいのかわからなくなった。絶望の淵に立っていた。ミスでは片づけられない、大事な息子を、ラマナの大事な父親を失わせてしまったのだ。

 ラマナよ、本当に申し訳なかった。私は、一度ならず、二度も大きな過ちを犯してしまった。

 この手紙を読む頃は、技術も進化して、あの星へ行って帰ってくることもできるようになっているかもしれない。もし、そんな時代が来ることがあれば、あのオリジン装置を回収し、ここにある書をその中に入れてほしい。そうすることで、この地は、大宇宙とつながり、すべての記憶が再び取り戻され、宇宙の意識と共に、未来をより良い方向に導いてくれる標となるのだ。この書に書かれている図形は、大宇宙の紋章であり、叡智(光)を集めるものだ。オリジン装置に入れることで増幅され、星全体を覆うほどの力となる。

 この星には、オリジン装置はないが、この紋章をいたるところに配置しておいた。多少の効果はあるはずだ。

 ラマナよ、お前に会って、このことを伝えることができず、本当に申し訳なかった。私が、愚かでなければ、多くの人をこんなに苦しめることはなかったはずだ。本当に、本当にすまない。



毎日更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ