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謎解きの旅②

「暑いけど、スーツ着てきてよかったな」

 私は、彼の肩をポンと叩いた。彼は、私を見て微笑んで頷いた。

 彼は少しの間、彼の両親と話をしていたが、

「さて、行くとしますか!」そう言って、私の方を見た。

「えっ、どこへ?」

「ラマナ代表の実家ですよ」

「えっと、どこか知らないんだけど……」

「探しに行きましょう!」

 そう言うと、私の背後に廻り、背中を押してきた。私は、彼の両親に軽く会釈をして、来た道を歩き始めた。

「私の実家をどうやって探すんだ?」

「アカシックレコードのオフィスに行ってみましょう。従業員の個人情報があるはずですから」

「なるほどね。じゃ、行きますか!」

 私たちは、また宇宙船に乗って移動をした。

 到着した場所は、小さめの飛行場だった。

「ここから、またカプセルチューブで移動するのかい?」

「いいえ、目の前がアカシックレコードの保管庫ですよ」

「えっ? 前回とは違うようだけど……」

「あっ、こっちは、裏側なんですよ。こっちからだと直接オフィスに入ることができるんです」

 そう言いながら、彼は、オフィスの扉を開けて、私を先に通してくれた。

 オフィスにいた数人が私の方を見て、何かしゃべっている。そのうちの一人が、スマートフォンほどの大きさの機械を手に持って、それを指さして嬉しそうな顔をしている。

「何かしゃべって下さい」と機械から日本語の声がした。

「えっー、まさか、日本語の翻訳機ができたのか?」

「そうなんです。ラマナ代表と話すために急いで作りました」

「なんとありがたいことで」

 私は彼の手を握って、大きく上下させて握手をした。

「今回は、どのような任務で来られたのですか?」

「任務というほどではないのだが、前回の暗号のことが気になって調べに来たんだよ。まずは、私の実家に行ってみようと思うんだが、私の人事記録がここに残ってないだろうか?」

「それなら、このデータベースの中にありますよ」

 彼は、パネルを操作をした時、ビビーっという音がした。

「あっ、そうでした、人事記録だけは、ラマナ代表のパスワードがないと開けないんでした……」

「はぁ、パスワードか‥‥‥。こっちも難題だな…‥‥」

 何かヒントがないかと思い、机の上や、引き出しを開けてみた。俺だったら、パソコンにパスワードを張り付けておくのに、何一つそれらしきものが見当たらない。机の下や、椅子の裏も覗き込んでみた。

「ラマナ代表、暑いのでスーツを脱いでこれに着替えましょう。ん? ラマナ代表、何しているんですか?」

 清田さんが、着替えを持って立っていた。

「パスワードだよ。人事記録を見るのに、私のパスワードが必要なんだってさ」

「覚えてないですよね……」

 私は、『そりゃぁ、そうだろうよ』という感じで目を細めて、彼を見た。

 彼も私を見て、しまったという顔をした。

「人事記録以外で、何かないのかな? 例えば、住民票に転入元の記載があるとか、戸籍謄本がとれるとか?」

「残念ながら、この星では、住民票も戸籍というものも存在しないんですよ」

「運転免許証は!」

「ありますけど、現住所ですよ」

「そうだよな‥‥‥」

 私は、腕を組んで、目を瞑ってしばらく考えていた。

「あっ、パスワードを忘れた時に、ヒントが出るんじゃないか? 例えば、昔飼っていたペットの名前とか?」

「ラマナ代表、この星には、人間以外の生き物は存在しないので、そのヒントもないですし、そもそもヒントは出ません」

「パスワード以外で、指紋認証できるとか?」

「だったとしても、今のラマナ代表では無理ですよね」

「はぁー、なすすべ無しか……」

 私は、再び、目を瞑り考え込んだ。

 三分くらいたっただろうか、

「あー」と私は大声を上げて、椅子を思いっきり後ろに下げて立ち上がった。これしかないという根本的な解決方法を見つけたからだ。

「ラマナ代表、いい方法が見つかったのですか?」

「はい、はい、はい」

 私は、右手の人差し指を一本たてて「はい」に合わせながら指を振った。

「これでしょう!」と清田さんを指さした。

「システム開発担当者に連絡すればいいんですよ!」

「なるほどね」

 清田さんは、スタッフを見渡して

「誰か、システム担当者に連絡できるか?」と聞いた。

「はい、私が外部の専門組織にシステム全般を依頼をしているので、早速、連絡をしてみます」

 スタッフの一人が椅子から立ち上がってそう言った。

 私は、解決まで時間の問題だなと思い、後ろに下がった椅子を前に直して、ゆったりと座り、ネクタイを緩めた。

「ラマナ代表、連絡がとれました」

「できるって?」

「いえ、パスワードを教えることはできないと言われました」

「なんだとぉ~~~、できないだと?」

「あっ、い、いえ、できないんですけど、新しく別の人を登録してはどうかとのことです」

「なるほどね、誰を登録する? 副代表とか、いないのか?」

「副代表は、現在長期出張中で不在です」

「誰か適任者は、ここにいないのか?」

「ラマナ代表が任命されてはどうですか?」

 と清田さんがアドバイスをくれた。

「じゃあ、清田さんで」

「えっ、私ですか?」

 彼は、目を丸くして私を見た。

「一番長く私と一緒にいるわけだし、ちょうどいいよ。というわけだから、清田さんを登録してもらって」

「わかりました」

 登録が完了して、新たなパスワードが発行されるまでの時間は三分ほどだった。

「ラマナ代表、データベースに接続できました。これから検索します。ラマナ代表の人事記録がありました。えっと、実家の住所は‥‥‥、空白です」

「えー、ほんとに? 何も書いてないのか?」

「はい、ここの部分です」

「はぁ、終わったな‥‥‥」

「終わりましたね‥‥‥」

 清田さんも肩を落とした。

 私は、椅子の背もたれに体重をかけてのけぞった。

 ちょうど、そこへ記録者の一人が外からオフィスに入ってきて、私の背後から、顔を覗き込んだ。

「うわぁ、びっくりした!」

 私は、慌てて姿勢を正した。

「もしかして、ラマナ代表ですか?」

 私は、椅子から立ち上がって振り向いた。

「はい、そうですが……」

「お会いできて嬉しいです。私は、ラマナ代表が直接指導して下さった最後の記録者です」

 彼は、私の手を握り、上下にブンブン動かした。私は、あっけにとられていたが、彼ならもしかすると私の実家を知っているかもしれないと思った。

「もしかして、最後に私の実家を一緒に尋ねたりしていないかな?」

「ええ、一緒に行きましたよ」

 私は、彼の手を引き寄せて、力強く抱擁した。

『天よ、私の願いを叶えてくれてありがとう』と心の中で叫んだ。

 ゆっくりと抱擁を解いて、彼の目を見つめながら

「今でも、家の場所を覚えているかい?」

「ええ、もちろんです。私の実家のすぐ近くでしたから」

「今から、案内してもらうのは可能だろうか?」

「はい、もちろんです。私は、何十年もの間、この時を待っていました。ラマナ代表の最後の伝言なんです」

「それは、どういうことだ?」

「ラマナ代表は、私にこう言いました。『私は、何十年か後に、新しい肉体を持って、この星に来るはずだ。その時には、再び、私の実家に行って、この時の話を聞かせ、あの書を受け取るように伝えて欲しい』とのことでした。」

 私は、清田さんの方を見た。そして清田さんも私の方を見返していたが、彼も私と同じく、何のことかわかっていない顔つきをしていた。

「えっと、とにかく私の実家に行きましょう」

「あっ、ラマナ代表、その前に着替えませんか?」

 私たちは、オフィスの隣の物置で、着替えを済ませた。

「やっぱり、こっちの服が楽でいいですね。あー、涼しくなった。さてと、この日本語翻訳器は、借りて行ってもいいかな?」

「ええ、是非持って行ってください」

「これがあれば、アディルやライラを呼ばなくても安心だよな」

 私たちは、今度は表の入り口から出て、カプセルチューブの駅へ向かって歩いた。

 前回、二日ほど泊まった私の家が見えた。ほんのちょっと前の出来事だが、すごく懐かしい気持ちになっていた。地球に帰る前には、一度寄れるだろうか……

「ラマナ代表の実家は、何区にあるんだ?」

「十七区です」

「ここから、四十駅くらいか‥‥‥」

「そうですね、そんなもんです」

「駅名は?」

「十七区十二番です」

 前を歩いていた清田さんが、後ろを振り向いて私に向かって

「ラマナ代表、十七区十二番ですよ。覚えておいてください」と言った。

「えっ、何? 実家の住所?」

「カプセルチューブの駅名です。でもこの駅名がわかれば、だいたい住所がわかるんですよ。あとは、家番号をつければその家の住所になりますから」

「へー、わかりやすくていいね」

「さあ、駅に着きましたよ。もう乗り方はわかりますか?」

「ええ、一度乗りましたから、おそらく大丈夫です」

「じゃあ、ラマナ代表から先に乗ってください」

「了解!」

 私は、人生二回目のカプセルチューブに乗った。この乗り物も宇宙船同様に相変わらずスピードが速い。全く何も見えない暗闇の中をヒューンという微かな音と共に移動しているのだ。そして、あっという間に上部のドアとシートベルトが自動で開いて、駅に到着しているのに気付くのだ。

「ラマナ代表、到着していますよ。さあ、行きましょう」

 後から到着した清田さんに先を越されてしまった。私は、よっこらしょと、深く入り込んだ腰を起こして立ち上がった。

「駅を出たら、すぐに家が見えますよ」

 私は、少しドキドキしてきていた。もしかすると、何か思い出すかもしれないし、逆に何も思わないかもしれない。両方の気持ちが入り混じっていた。

「あっ、ほらっ、あそこに見える水色の家が、ラマナ代表の実家ですよ」と指差した方を見ると、一軒だけ水色の家が見えた。

 私は、あたりを見渡してみたが、懐かしい何かを感じることはできなかった。やはり、記憶はないのかと残念な気持ちになっていた。

「ラマナ代表、何か思い出されましたか?」

「残念ながら、何一つ思い出せないよ」

「そうですよね……。先に少し話しておきますが、ここは、ラマナ代表のおじい様の家で、途中から、お父様とラマナ代表が一緒に住まわれたようですが、早くにお父様も家を出られ、ラマナ代表も仕事に就かれていたので、おじい様だけが、お一人で住まわれていたようです」

 私は、この後の話が不安でたまらなくなっていた。私は、てっきり自分の両親と暮らした家に行くつもりだったのに、祖父の家ということで、何か私の両親に良くないこと、例えば離婚とか、そういうことが起こっていたのではないかという思いが脳裏を横切った。


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