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魂の使命①

魂の使命


「おはよう守人、今日もかわいいわね」

「おはよう、ライラ、昨日の話の続きをしようか。どこまで話したかな?」

「私たちの関係の話を少し」

「ああ、そうだった、私たちの話をもう少ししよう。私たちの星もこの地球と同じような見た目の人間が暮らしているんだ。日本人のような黒髪の人がほとんどで、身長も同じくらいか、少し小さいくらいだ。多くの人は、夫婦と子どもが一緒に同じ家で暮らしていて、仕事もしている。子どもたちは、学校のようなところに行き、自分がやりたいことを習えるんだ」

「愛歌は、何を習っていたの?」

「ケイリーのことだね。ケイリーは、歌が大好きで、歌を習っていたよ」

 今の愛歌と同じだ。愛歌のびっくりしている顔が目に浮かぶ。

「あなたは、何の仕事をしていたの?」

「私は、君と同じ仕事で、星を守る仕事をしていたんだ」

「星を守る仕事?」

「私たちは、魂の違いによって仕事が決まっているんだ。私たちの魂は、星を守る魂なんだ。その魂は、五百人ほどいて、各地域に配属されている。他の地域の情報や宇宙の情報をいち早くキャッチできるように、特別な能力があるんだ。地球の言葉で言えば、テレパシーだ。今もそのテレパシーで会話をしているわけだよ。もちろん、声に出さずに、心の中だけで私たちは会話できるのだが、それでは、ケイリーに聞かせてあげられないだろ?」

「ふふっ」と鼻から漏れる母の息がかすかに録音されている。

「宇宙防衛軍といったところかしら? 今の私からは全く想像できないわ」

「息子はその星で何をしていたか聞いてもいいかしら?」

「ラマナは、大切な仕事を任されているんだ。それは、今もだよ」

「へー」

 愛歌の少し小ばかにしたような声が入っている。

「ラマナは、星で起きた出来事全てを記録する仕事をしている。アカシックレコードという言葉を聞いたことがあるかい?」

「聞いたことはあるけど……」

「簡単に言えば、宇宙の全てが記録されているものだ。その記録をしているのが、ラマナなんだ。ラマナは、そのために今ここにきている」

「お父さん、ニートじゃなくて、仕事しているの?」とビックリした声で愛歌が聞いている。

 私が、この場にいないことをいいことに、愛歌め、私のことをニートだと思っていたんだな。まあ、まんざらウソではないが、小ばかにしやがって、明日は、ちょっと懲らしめてやろう。俺だって、少しは仕事しているんだよ。

「ラマナの仕事は、全宇宙の中でも優秀な者にしかできない重要な仕事なんだ。少しでも間違った情報や偏った情報を記録すれば、全ての宇宙が歪んでしまう。最悪、宇宙が崩壊に至る可能性もあるんだ」

「へー、優―秀―なんだー」

 くそっ、愛歌のやつ、まだ小ばかにしているな。

「優秀だって言っているだろっ」

 思わず、ボイスレコーダーに向かって独り言を言ってしまった。

「ラマナは、そのグループの中でも特に優秀で、外部から閉ざされた地球に入ることは、難しかったのだが、一旦魂の記憶をなくすことで、地球に入ることができる能力を身に着けたんだ。自分が記録者であるという記憶は、もしかするとまだ完全に戻っていないだろうが、ライラと出会ったことで、記録者としての能力を成長させてきているはずだ。記録者の魂は、必ず星を守る者の魂のところに生まれる仕組みに設計されているんだ。それがお互いの魂の記憶を取り戻す唯一の方法だからだ」

 守人の小さなあくびの声が聞こえたような気がした。

「ライラ、なんだか眠たくなってきたよ、この続きは明日にしないか」


 翌朝、文字おこしが済んで愛歌にボイスレコーダーを手渡ししたときに、愛歌がニヤニヤしながら、私の顔を覗き込んで

「優秀らしいね」とクスクス笑った。

 昨日までは、ちょっと懲らしめてやろうと思っていたが、ボイスレコーダーを最後まで聞いた時に、少しだけ、いや、少しもわかっていないのだが、わかった気がした瞬間があった。私は、幼い頃から、図鑑や本を読むことが大好きだった。そして、色々なものを観察したり、それを記録するのも好きだった。母もそんな私の能力を延ばすために、惜しみもなく本を与えてくれたし、鳥を好きになった時は、寒い冬でも幼い私を連れて、野鳥観察によく連れて行ってくれたものだ。今、この瞬間もこうやって記録を付けているが、私は、やはり書くことが好きなのだ。愛歌が、この話を始めて聞いた時に『わかるような気がする』と言っていたように、私もその言葉の意味が少し分かった気がしていたのだ。

「あらっ、お父さん、今日はやけに真面目な顔をしているわね? 熱でもあるの?」

 いつもなら、愛歌の茶化した態度に、ふざけたジェスチャーをしてみせるのだが、この時は、真剣に答えた。

「私の仕事を思い出した気がするんだ」

 愛歌も察したのか、すっと真面目な顔になった。

「今日もばっちゃん、十時に来るよね? 父さんも一緒に来る? ホットサンド作ろうか?」

「いや、またにするよ。それより、ボイスレコーダーが、一つじゃ足りないよな。今日、もう一つ買ってきておくよ」

「そうよね、毎日必ず文字おこしするのは、さすがにニートの父さんでも大変よね」

 顔の中心に力を入れて口をつぼませて、愛歌を睨んでやった。

 愛歌は、ふふっと笑って、いつものように洗濯物を干し始めた。


「おはよう、守人、今日もかわいいわね」

「おはようライラ、昨日の話の続きをしようか」

「ラマナがとても優秀で、重要な仕事をしているという話だったわね、あと、気になっているのは、私とラマナが出会うことで、二人の記憶が戻るって言っていたわね」

「そうなんだ、ラマナの魂の使命は、アカシックレコードを書き続けること。中でもこの地球の記録を他の星に伝えることなんだ。」

「それから、ライラ、君の場合は、ちょっと違うんだ……」

「どう違うの? 私も記憶が戻って、私の魂の使命を果たすことでしょ?」

「うん、そうなんだが、君の魂の仕事の話を初めにしたのは覚えているかい?」

「宇宙防衛軍だったかしら?」

「私たちが住んでいた星を守る仕事だ。ライラ、ここはどこだい?」

「地球……だとすると、私は記憶を取り戻したとしても使命を全うできないということなの?」

「そういうことになる」

「あなたは? 私のところへ来たら、あなたの仕事はどうなっているの?」

「今は、他の者に託して特別に地球に来ているんだ。いや、正確にはどうしてもライラに会う必要があって……。いや、これも違うな。何としてでもすぐに君に会いたかったんだ」

 母の鼻をすする音がかすかに録音されていた。

「ライラ、私は、どうしても君を私たちの星に連れて帰りたいんだ。帰る時が来たんだよ」

 母の鳴き声に、私も胸が熱くなって、涙がにじんできた。

「帰りたい、帰りたいの、私ずっと帰りたかったの」

「わかっていたよ、もう何年も前から、私のところに君の叫びが届いていたんだ。初めて君を見つけた時は、そう、ケイリー、あの時、私たちがどれだけ喜んで、二人抱き合って、飛び跳ねて大騒ぎしたのを覚えているかい?」

「お母さん、お父さんがね、すごい大きな声で叫んだんだ。ライラが生きていた、ライラが生きているって。二人で飛び跳ねたのを覚えている」

 愛歌が、もう全てを思い出したかのように、はっきりとした口調で答えていた。

「私の魂の故郷が地球ではないことは、もう何年も前から気付いていたの。何度帰りたいと泣いたことか……。それでもここにいるのは、私の使命があるんだと思って今まで暮らしてきたの。でも私の使命がないなんて、私はどうしたらいいの……」

「ライラ、君の魂の使命を詳しく話す前に、私たちの星で起きた事件の話を先にしなければならないようだね」

「事件?」

「そう、君が地球に来ることになったことについてだ。ライラ、なんだか眠たくなってきたよ。この続きは明日にしないか」

 

 夕方、今日の会話を録音したボイスレコーダーを愛歌のところへ取りに行った。

珍しく、愛歌の夫が仕事で早く帰宅していた。

「やあ、久しぶりだね。相変わらず仕事が忙しそうだけど」

「そうなんですよ。子どもが生まれたばかりだというのに、全く育児休暇も取れず、ばっちゃんにお世話になりっぱなしで申し訳ないです。もう少ししたら、三か月ほど休暇が取れそうなので、すみません」

「いやいや、いいんだよ、ばっちゃんも喜んでいるんだから。年寄りはね、何もすることがないより、することがある方が、体にも心にもいいんだから」

「そう言ってもらえると助かります」

「愛歌はいる?」

「ちょっと待ってくださいね、母乳の時間だったみたいですから」

 しばらくすると、愛歌がスウェットシャツを直しながら玄関に来た。

「もう少し早く来ればよかったかな?」と小さな声で愛歌に尋ねた。

 実は、この奇妙な会話のことを、愛歌は、夫の優希君にはまだ話していないと言っていたので、小さい声で話した方が良いだろうと思ったのだ。確かに今の状態で話したところで、理解してもらえるはずはないだろう。もし話していたら、ばっちゃんが出禁になってしまうかもしれない。愛歌の判断は、とても賢明だと私も思う。

「今日は、たまたま早かったみたい」

「そうか……。で、今日の内容はどうだった?」

「うん、何かね、私、色々と考えていて、頭の中がごちゃごちゃしている。わかった気がしたんだけど、左脳が邪魔をしてきたというか、なんか、急に悲しくなってきたというか、ふと我に返って自分自身に疑いの念が生じてきたというか……」

 愛歌の夫が廊下を横切ったのが見えた。

 愛歌は、少し慌てて

「とにかく、父さんもこの録音を聞いてみて。明日また感想を聞かせて欲しいの」

 そう言って、録音済みのボイスレコーダーを家の中から見えないように体で隠し、私の手に持たせた。



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