第三章 謎解きの旅①
第三章
謎解きの旅
ピンポーン
私は、朝食後の食器を机の端に寄せたまま、ノートパソコンを出して、コミカルな短編小説を書いていた。パソコンの時計を確認すると8時23分。誰か来るには少し早い時間だが、手で髪の毛の乱れを軽く整えながら玄関に向かった。玄関の型板ガラスには、一人の男性らしき人影が映っていた。
玄関を開けると、るりどり出版の清田さんが、スーツにネクタイをして立っていた。
「おはようございます。ラマナ代表」
「あっ、おはようございます。えっと、朝早くから何かあったんですか?」
私は、彼の頭の先から、つま先までさりげなく観察した。
「そう思いますか?」
「嫌な予感しかしませんね。発刊中止とか?」
清田さんは、含み笑いを浮かべ、こちらを見ている。
「いいから、さっさと言ってくださいよ」
「はい、次の企画を持ってきたので、打ち合わせをと思いまして」
「えっ、もう次の企画? この前のは発刊中止じゃないんですか?」
「ええ、明日ちゃんと発刊されますよ」
「だったら、いつもみたいにウェブで打ち合わせを済ませたらいいのに、こんな田舎まで。しかもスーツにネクタイで来られるとは、いったいどういうことですか?」
「たまには、直接お会いして打ち合わせをしてこいと、編集長が言うものですから」
「ふーん、まあ、いいけど。散らかっているけど、どうぞ入って」
「それでは、失礼します」
私は慌てて食器を流しに下げ、ノートパソコンを閉じて机を片付けた。
清田さんは、珍しいものを見るようにキョロキョロと部屋を見回している。
「すみませんね。男の一人暮らしなもので」
「いえいえ、こんなもんですよ」
それは、遠回しに汚いと言っているようなものだが、まあ、事実なので受け止めておこう……。
「えっと、清田さん、珈琲でいいですか?」
「ええ」
「適当に座っていてください」と声をかけて台所へ行った。
やかんに水を入れ、コンロに火をかけた。買ってきたばかりの珈琲の袋を開けた。途端にいい香りがして、鼻から息をたっぷりと吸った。珈琲の香りをかぐと頭が冴えてきて、やる気が増してくる。飲む量を少し控えないといけないと思うこともあるが、なかなか手放せない嗜好品だ。お湯を注いだ時に、また珈琲の香りが広がって部屋中に充満していく。
このゆっくりとした時間だけが、まるで都会の洗練されたカフェにいるかのように、私に唯一の優雅なひとときをもたらしてくれるのだ。
「いい香りですね」
「そちらまで届きましたか?」
「ええ、普段は食べ物を口にしないので、美味しい香りとか、私にはわからないんですけど、この珈琲の香りはとてもいい香りですね」
「あーっ、またうっかり忘れていました。清田さんも食べ物を摂らないんですよね。珈琲は、飲めるんですか?」
「最近、珈琲は少し飲んでいるんです。仕事柄、作家さんの家での待ち時間があって、毎回珈琲を勧められるので、ことわるのもあれなんで、飲んでみることにしたんですよ」
「体調が悪くなったりしませんか?」
「ええ、一日一杯くらいは、大丈夫ですね」
「それなら、よかった。でも、無理して全部飲まなくてもいいですからね」
そう言って、彼の前に珈琲を出した。彼は、一口飲んでから、
「この珈琲は、とても美味しいです。雑味がないというか、コクもちゃんとあるんだけど、マイルドで飲みやすいです」
「この町のカフェの珈琲なんですけど、マスターがこだわっていて、焙煎からブレンドまでしているんですよ」
「この町にもそんなお店があるんですね」
「大手のチェーン店は、一つもないですが、本物の美味しいお店は、結構あるんですよ。あっ、清田さんは食べないから紹介してあげられないのが残念ですけどね」
「確かに、そういう点では、私たちは、一つ楽しみがないのかもしれないですね」
二人は、この美味しい珈琲をしばらく味わった。
「あっ、本題に入らないといけませんね。実は、先日書かれた小説の続編を書かれてはどうかと思っているんです」
「ん? あれの続きを書くのか?」
「はい」
「いやー、簡単に言ってくれますねー」
「難しいですか?」
「そりゃあ、簡単ではないですよ」
私は、珈琲を一口飲んで、カップを置いた。
「そうですか……。 ラマナ代表は、あの時発見した暗号をご自分が何故書いたか気になりませんか? 暗号で書く必要があったと思いますか?」
「それは、ずっと気になっているよ」
「だったら、行きましょう!」
「どこへ?」
「美しき星ですよ」
「えーっ、また行くの?」
「はい、謎を解きに行って、それをまた書きましょう!」
「そんな上手くいくのか? 単に暗号化するのが趣味だったというだけかもしれないぞ」
「それだったら、それでもいいんですよ。美しき星を探検して、それを書いてみてもいいですし、他の星へ行ってみますか?」
「はぁ、まあ、いいですよ。で、いつから行きますか?」
私は、珈琲を飲みながら、スケジュールノートをめくった。
「今から行きましょう」
「えっ、今から?」
私は、思わず、口から珈琲を吹き出しそうになった。
「アディルもそうだったが、美しき星の人は、せっかちなのか?」
「せっかちではないですよ。仕事が早いだけです」
「なるほどね、仕事が早いか……」
いつも締め切りギリギリにならないと原稿を上げない私に対して、しれっと嫌味を言っているのか? と思ったが、まあ、口には出すまい。仕事が早くないのは、確かだからな。
「えっと、珈琲を飲み終えるくらいの時間は、待ってもらえるかな?」
「もちろん、そのくらいは大丈夫です」
私は、少し冷めた珈琲を一気に飲むべきか、ちびちび飲むべきか、頭の中で考えながら無言のまま飲み終えた。清田さんは、私が飲み終えるのを確認して、
「さあ、出発しますか!」と腰を上げた。
「まずは、着替えるよ。私もスーツにしようか?」
「実は、私の両親が年を取りまして、家にいることが増えたようで、今回久しぶりに会いに行こうと思っているんです。それで、スーツ姿を見せてあげようかと思って」
「じゃあ、二人でカッコイイ姿をみんなに見せるか!」
私は、隣の部屋へ行き、クローゼットの中から、濃紺のスーツと薄い水色のワイシャツを出した。
久しぶりのスーツだが、ちゃんとはまるだろうかと思いながらズボンをはいた。なんとか、ホックはとまった。ネクタイは、選ぶほどないが、紺地に白と紫のラインが入ったものを選んだ。
「清田さん、お待たせしました」
「ラマナ代表、スーツが良くお似合いですね。若返った感じですよ」
「そうか?」
お世辞だと思いつつも、少し照れてみた。
「さあ、出発しましょうか」
「あっ、愛歌にメールしておくから、ちょっと待っていて」
「わかりました。宇宙船を準備しておきます」
私は、また愛歌に美しき星へ行くことをメールした。
『今日、るりどり出版の清田さんが家へ来て、これから美しき星へ行くことになった。しばらく留守にするから、よろしく!』
玄関を出ると円盤型で中型の宇宙船が上空に止まっていた。
「ラマナ代表、さあ、行きましょう」
清田さんは、そう言うと、私を宇宙船の真下へ連れて行った。
自動的に二人は、宇宙船へ吸い込まれて行った。
「うゎぁ‥‥‥。なんか、変な気分だ」
「そうですよね。宙に浮く感覚は、地球ではあまり味わえないですからね」
二人が宇宙船の中に入ると入り口が自動で閉まった。清田さんは、正面の席の左側に座った。
「ラマナ代表、こっちに来て、私の隣に座ってください」
そう言われて、私は清田さんの隣の席に座って、キョロキョロと周りを見渡した。
「この宇宙船は、初めてですか?」
「ええ、いつも二人乗りの狭いやつだったから……。これは、広くていいですね」
「六人乗りで、後方には、寝室が2つとバス、トイレ付なんですよ。私はいつもこの宇宙船で寝泊まりしているんです。東京のマンションは、とても住めないので」
「えっ―、そうだったんですか? 乗り降りしているところが見つかるんじゃ?」
「まだ、見つかったことはないんですけど、見つかっても気のせいだと思うだけですよ」
「なるほどね‥‥‥」
「さあ、出発しましょう。シートベルトはOKですよね?」
「おっ、OKです」と胸の前にある、シートベルトを握って確かめた。
「では、出発!」
宇宙船は静かに上昇した。
美しき星。
到着した場所は、前回とは違うようだ。雰囲気はよく似ていて、小さな建物と、なだらかな丘に、いくつかの低木に草花が咲いていて、とても調和のとれたおだやかな街並みである。
「清田さん、ここは何処なんだ?」
「私の実家です」
「へー、そうなんだ」
「あそこに見える白い建物が私の実家です。あっ、ちょうど父が外へ出ていますね」
彼は、お父さんに向かって大きく手を振りながら、こっちの言葉をしゃべっている。私は、少し緊張してきて、ネクタイをきゅっと締め直した。
家の中から女性が出てきた。それを見て、また大きく手を振った。おそらく彼のお母さんなのだろう。彼の足取りが急に早くなった。私は、歩調を合わせず、少し遅れていくことにした。彼は、まず、母親と抱き合った。次に父親と抱き合って、久しぶりの再会を喜び合っていた。そこに、私が近づくと、彼は、両親を紹介してくれた。
「ラマナ代表、私の両親です」
「初めまして、ラマナと申します。息子さんには、いつもお世話になっています」そう挨拶すると、二人はビックリした顔をして、清田さんに何か話をしていた。
「ラマナ代表は、この星では超有名人ですから、そんな人が家に来るなんて驚いているんですよ。これで、私が地球でラマナ代表と一緒に仕事をしていることが証明出来て良かったです」
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「二人とも、素敵な服装! カッコいい。だそうですよ」
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