危機を救え①
危機を救え
「美しき星へ行くことに決めたよ。ヨガでビジョンを見たんだ。見つけられそうな気がする」
「ラマナ、ありがとう、早速出発しよう」
「出発は明日じゃ?」
「タイムリミットなだけで、早いに越したことはない」
そういうと、二人は外へ出て、何かを操作し始めた。私は、ハッと気付いて、電気やガスの元栓を閉めに家に戻り、愛歌にメールをした。
『これから出発する。誰かに聞かれたら、取材旅行に出かけて、いつ帰るかわからないと伝えてほしい。家の管理は、すまんが任せた』
玄関を閉めて空を見上げると、そこには軽自動車より一回り小さな乗り物が浮かんでいる。それが、ゆっくりと無音で庭に降りてきた。マットブラック色の車体には、窓もライトもタイヤも見当たらない。上部の扉が持ち上がり、後方に開いた。座席が前後に二つあるのが確認できた。
「二人乗り?」
「大人二人乗りだから、大人一人と子ども二人なら乗れるはずだ」
アディルがそう言った。
私は、車の定員計算の仕方を忘れていたが、何となく違う気がして聞いてみた。
「えっと、その計算は、合ってますか?」
「つべこべ言わずに、私は操縦席、ライラと二人で後ろに乗ってくれ」
そう言われて、まあ何とかなるかと思って乗り込んだが
「いや、えーっと、狭いんですけど。大人が一人で座って、子ども二人が一つの席に座るのがちょうどいいんじゃないかと」
「運転できないだろ。あっと言う間に到着するから、少しの間の辛抱だ」
アディルは運転席で何かのスイッチをタッチした。するとものすごい勢いで宇宙船は移動した。私たちが美しき星へ到着するまでの時間は、おそらく一分もかかっていなかった。
宇宙船の扉が開くと、爽やかな風が吹き抜けていった。
初めて見た美しき星は、話に聞いていたよりもずっとずっと美しい。小さな家が、あちらこちらに建っていて、家と家の間には、芝生のような丈の短い若草色の草が敷き詰められるように生えていて、ところどころに白や黄色の草花が咲いている。
「ここが、ラマナの家だ。もう何十年も使っていないが、中は、掃除をしてきれいにしておいたよ。その隣にある大きな建物が、アカシックレコードの保管庫だ」
「さすがにこの建物は、大きいですね」
「この星一番の大きな建物だ」
建物の中から数人が出てきた。
「ラマナを連れてきたよ」
「ラマナ代表ですか? 随分と見た目が変わってしまったので、すぐに気付かず、すみません」
「いえ、こちらこそ、すみません……」
「ラマナ代表、早速ですが保管庫の中へ入って調査をお願いできますか?」
私が返事をしないものだから、アディルが私のお尻をペチンと叩いてきた。
「痛っ、あっ、えっ、はい、わかりました」
この星の言葉は、なんとも不思議な音色のように聞こえてくる。ついそちらの方に耳を傾けてしまうと、アディルたちが同時通訳をしてくれている日本語を聞き逃してしまっていたのだ。
私たちは、皆の後について、アカシックレコードの保管庫の中へ入っていった。
この保管庫は、二階建てになっていた。一階の保管庫は、図書がビッシリと本棚に収まっている。通路は狭く、図書館のようにゆったりとした感じではない。
私は、ビジョンで見た光景を頼りに、一列ずつ図書を確認した。薄暗い保管庫の中、埃っぽい本の背表紙がわずかな光に照らされ、かすかに揺れているように見えた。膨大な量に圧倒されながらも、ここにあの本があると心の中で期待が膨らんでいたが、確認作業は容易ではなかった。
「ラマナ代表、次は二階です」
二階には、コンピューターのような機械が設置され、かすかな青い光を放ちながら低く唸っていた。その光が本棚の隙間に揺らめいて、怪しげな黒い影が映し出されていた。
私は、その黒い影に向かって行った。
その時、二階の照明がパッとついて、図書が鮮明に浮かび上がった。
私は、本棚を全て確認したが、つい先ほどまで怪しいと思っていた黒い影は、もうどこにも見当たらなかった。
「ラマナ代表、少し、休憩しませんか?」
私の落胆がわかったスタッフが気を使ってくれたのだろう。
窓際の廊下を進むと一角にオフィスがあり、数人が作業していた。
「どうぞオフィスに入って下さい」
私は、案内されたオフィスのソファーに腰をかけた。
私は、目をつぶり、もう一度ビジョンを思い出していた。
「ラマナ、どうかしたのか?」
「あっ、いや、何でもない……」
何かが違う。私は、何とも言えない違和感を覚えていた。
あのビジョン——暗闇に沈む図書の山、薄暗い照明、黒い影を帯びた一冊の本、頭の中でちらつきながら、なぜここでは見つからないのか、答えが掴めない苛立ちが募っていた。
「アディル、もう一度一階に行ってくる。ここで待っていてくれ」
私は、この違和感を確かめるため、先ほどの階段を下りて一階に行った。
もう一度見渡してみたが、やはり何か違うような気がする。そもそも私の見たビジョンが間違っていたのか……。
私は、階段を一段ずつため息をつきながら上って、皆のいるオフィスに戻った。
「ラマナ、何かわかったか?」
「いや、全く……」
私は、ため息をついて、ソファーに座った。
「アディル、私の見たビジョンが間違っていたのかもしれない。いや、気にしないでくれ、もう一度、二階の保管庫を見に行こう」
私は、そう言って、ソファーから立ち上がった。
「ラマナ、正直に話してくれ。何が間違っていたんだ」
「なんて言ったらいいか……。とにかく、ここでは……」
皆が静まり返った。何時間も確認作業をして「ここではない」と聞けば心が折れる。自分自身が、一番そう思っていた。
「そうだ階段……地下だ!ここに地下はありますか?」
私は、ようやく違和感が何か気づいた。そうだ、あれは、地下だったんだ。
「ここには、地下はありません。この星では、地下にあるのは、カプセルチューブだけです」とスタッフの一人が答えた。
「カプセルチューブ?」
「前に話した乗り物のことだ。覚えてないか?」
「ああ、あれか……」
私は、どうしたものかと考えていた。
「気のせいかも知れませんが、私が見たのは、地下に膨大な図書がある保管庫だったんですよ。こんなに明るい保管庫ではなかったので……。他に保管庫はありますか?」
「アカシックレコードの保管庫はここだけです。あとは、記録者が資料保管庫として小さいのを持っているくらいです」
「そうですか……。私が見たビジョンは気のせいだったのかな……。すみません、やはり、もう一度二階を探してみましょう」
私が、そう言うと、記録者の一人が話に割って入ってきた。
「ちょっと、いいですか? 私は地球担当の記録者ですが、そこで情報収集をしていた時に、銀河LMCから来ていた記録者がいました。その者が言うには、その星でもアカシックレコードを記録しており、書籍の数は、宇宙で一番ではないかと言っておりました」
「その星の者とコンタクトをとることが可能ですか?」と私は尋ねた。
「ええ、お互いにアドレスを交換しましたので、会えると思います」
私は、アディルと目を合わせた。アディルは、私の気持ちを察知したようで、
「時間がない。すぐに出発しよう」
私たちは、保管庫から出ると、アディルがすぐに宇宙船を呼び寄せ、アディルとライラは、素早く乗り込んだ。
スタッフの一人は、コントロールパネルを使って、近くの宇宙船を移動させてきた。
「$#%“&!&%$」
「ラマナ代表、こちらの宇宙船に乗りますか? って聞いているぞ」
「その方が広いし、そうしようかな」
「それでもいいが、言葉は通じるのか?」
「えーっ、それは困る……」
私は二台の宇宙船を交互に見比べた結果、アディルの宇宙船に向かって歩いた。
「はぁ、またギュウギュウ? ライラは、残っていていいんじゃないか?」
「同時通訳の方が早いでしょ」
「まあ、そうだな」
「文句言わずに、行くぞ」
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