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第一章 再会

  2025年8月25日

 地球の五次元上昇を祝う祝賀会が行われた。スターシード(宇宙由来の魂を持つ者)たちは、自らの光を宇宙に向けて発した。それはまるで地球が恒星になったかのように光輝いた。

 今日から、地球の歴史と未来が新たな物語として紡がれる。

「美しき星」


 第一章


 この物語は、八十八歳の母と孫の会話を録音し、書き起こしたものである。信じがたい出来事だが、私もその場に居合わせ、信じるほかない内容だった。


 再会


 2045年秋、ひとり娘の愛歌が初めて出産してから一か月ほど経った日のことだった。

 娘の家と私の家は、約300メートル離れている。その間には他の家はなく、ところどころ荒れた田んぼや手入れのされていない杉林があるだけだ。いわゆる過疎化した農村地帯である。

 私は早期退職し、母の住む家に引っ越してきた。農業をする気はほとんどない。都会の生活はマンネリ化し、時間がただ過ぎるだけの日々に嫌気がさしていた。表向きは、子どもの頃からの夢である「小説家」を目指すと言っているが、未だに実現していない。妻は仕事が好きなのか、田舎暮らしを嫌うのか、理由ははっきりしないが、100キロほど離れた都会に住んでいる。

 娘の愛歌は、京都の大学を卒業して、この町の市役所に勤務している。一年前まで母の家(今私が暮らしている家)に住んでいたが、昨年、大学で知り合った男性と結婚し、空き家となっていた隣の家を買って、ここに住んでいる。

 母は、朝10時に、私の孫に会いに行くのが日課になっていた。年の割に足取りは軽やかで、私と一緒に歩いてもさほど遅れをとることはない。

 私は、毎日孫に会いに行くわけではないが、今日は娘の淹れた珈琲とホットサンドが食べたくなったので、母と一緒に孫に会いに行くことにした。

「おはよう、守人もりと、今日もかわいいわね」と母はいつものように声をかけ、守人の首の下に左手を、右手を尻の下に入れ、首がまだ座っていない守人をそっと抱き上げ、ソファーに腰を下ろした。

「愛歌、美味しい珈琲とホットサンドが食べたいな」

 縁側で布おむつを干している愛歌に声をかけた。

「えー、産後の私をこき使う気?」と愛歌は私を睨んだ。

だが、すぐにいつもの笑顔を見せ、

「なんてね。いいよ、久しぶりに美味しい珈琲を淹れてあげる。私も飲みたかったところだから」と言った。

 愛歌は、作業の手を止め、台所へ行った。私もすぐ後ろについていき、珈琲豆の重さを測るためにキッチンスケールを準備した。

「この時代に、布おむつなんて大変だろう、紙おむつを買ってやろうか?」

「紙おむつねー、あれ、ケミカルなのよ」

「ケミカル?」

「そう。石油由来」

「こだわってるんだな」

「まあね」

 誰に似たのか知らないが、彼女は、こだわりが強い方だ。

 愛歌が、ドリップポットをコンロの火にかけた時、隣の居間から、嗚咽するような声が聞こえてきた。

「守人がどうかした?」

 愛歌が台所から母に声をかけたが、返事が聞こえてこない。

 愛歌は、あわててコンロの火を止め、居間に向かった。私もすぐ後を追った。

「ばっちゃん、どうした?」

 すると、守人を抱いた母が、涙声ながら静かで低い声で話し始めた。

「やっと会えたね、ライラ。私が誰かわかるかい?」

 母は嗚咽しながら、二、三度うなずいた。

「会いたかった、ずっと。わかる、わかるわ。心ではわかっているけど、思い出せないの」

 今度は普段の母の声で答えた。

 再び声色が変わり、低い声で言った。

「仕方ないさ。地球の時間で言えば、三千年以上会っていないんだから」

「三千年も……」

「私の名前は、アディル。私たちはこの宇宙の遥か彼方の星で一緒に暮らしていたんだ。そこにいるのは、私たちの娘、ケイリー。ライラは、ケイリーが自分の娘じゃないかと気付いていたはずだよ」

「ええ、気付いていたわ。でも、そんなことは、この地球ではありえない話だから、私の胸の中に留めていたの」

 愛歌は目を丸くして母を見つめ、すぐに私に視線を移した。

 もちろん、私も何の話をしているのかよくわからなかった。母が耄碌したのか、それとも何か不思議な力が働いているのか、頭が混乱して言葉が出なかった。

私は、愛歌に向かって、肩をすくめて、肘を曲げ、手のひらを上に向け、首を少し傾けて何のことかわからないと言うジェスチャーをして見せた。私たちの反応を読まれたのかのように

「ラマナよ」

(ラマナ? 俺のことか?)と自分の鼻先に右手の人差し指を向けて、愛歌に向かって、顔を一回突き出して合図した。

「そうだ。ラマナよ。ライラをここまで導いてくれて、本当にありがとう。ライラの記憶がここまで戻ったのは、ラマナのお陰だ」

(はっ? 全くなんのことなんだ?)

 愛歌に向かって、右手を顔の前で細かく振って知らないという合図を送った。

「そういう事だったのね。息子が生まれてから私の価値観は一変したわ。本当に大切なことは全て息子が教えてくれたの。私を導いてくれたのね」

「ライラ、気付いていたんだね」

「もっと聞きたいわ、私の故郷の話を」

「もちろん、これから全て話して聞かせてあげるよ‥‥‥。すまない、ライラ、少し眠たくなってきたようだ、続きはまた明日にしないか」

 守人は、目を閉じてすやすやと眠りについた。


 母は抱きかかえていた守人をゆっくりと布団の上におろし、しばらく無言のまま守人の寝顔を見つめていた。

 愛歌は珈琲を淹れかけていたのを思い出したようで、台所に戻ってポットを再び火にかけた。私も何となくこの場にいられない雰囲気を感じて、台所へついて行った。

「ねぇ、お父さん、なんか面白い話になっていたわね。明日は試しに録音しておかない?」と母に聞こえないくらいの声で私に言った。

 私は、目を大きくして、はぁ?という顔をして見せたが、愛歌の提案に乗ることにした。

「明日は、ちょっとした仕事が入っているから、録音は愛歌がしておいてくれないか?」

「うん、わかった」

 珈琲のいい香りが、台所に充満してきた。私は、珈琲サーバーにぽたぽた落ちる茶色の雫が溜まって四杯目の線に到達するのを無言で眺めているが、心の中では、母になんと話しかけたらよいのか、ちょっと戸惑っていた。

「珈琲淹れたけど、ばっちゃんも飲む?」と愛歌が沈黙を破ってくれた。

 お盆の上に3つマグカップが並んだ。それを私が持って母のいる居間へ運んだ。とりあえず、珈琲を一口口にした。

「びっくりしたよね?」

 母の方から話を切り出してくれた。

「そりゃ、まあ、びっくりしたさ、俺の名前、えーっと、なんだっけ? ラマナ? それで、愛歌がばっちゃんの娘で、守人が愛歌のお父さんなんだろ? わけわからんことになっとるじゃないか……」

 温めた牛乳が入った片手鍋を持ってきながら、愛歌が真顔でこう言った。

「お父さん、私、なんかさぁ、でもわかるような気がするのよ。私は、小さい頃から、ばっちゃんが私の  お母さんよりも本当のお母さんのような気がしていて、学校が休みになる度に、ここに来て過ごしていたでしょう。今でもばっちゃんの側で暮らしたいと思っているもの」

「まあ、確かに愛歌は、小さい頃から、ばっちゃんが好きだよな。でもそれは、おばあちゃん子というだけだと思うぞ」

「そうじゃないよ。ただのおばあちゃん子というわけじゃないの。さっきの話を聞いて、確信が持てたよ」

「待て待て待て、よく考えろよ、論理的に考えろよ、ありえないだろ?」

「そう、あり得ない話なんだけど、そう感じるのよ」

 愛歌は、そう言って、珈琲にホットミルクを注いで一口飲んだ。

「ばっちゃんもミルク入れる? それとも、チョコとか食べる?」と言って、また台所へ行った。

 私は、愛歌が歩いていく方向に目をやった。愛歌が気になったわけではない。この状況で、母と二人だけになるのが気まずく、目をそむけたかったのだ。

「そりゃ、そうよ、おかしな話よ。声に出している私自身がビックリしているし、あんなにすらすらと言葉がでてくるなんて、何かがのり移ったとしか思えんわ」

 母は、珈琲にミルクを少しだけ注いで飲み始めた。

「ばっちゃん、チョコこれでいい?」と愛歌が、一口チョコの大袋をあけて、お皿に全部出した。

 それを見た母が

「乳腺炎になったら大変だから、チョコは沢山食べちゃダメ」と言って、袋の中に大半のチョコを戻し入れた。

「えー、そうなんだ、チョコ大好きなのに、ダメなの? 子育てって、制限多すぎだよね。」

「そうね、愛歌もちょっとの間はしんどいかもね。私も最初は、愛歌と同じように思ったよ。お酒も飲めないし、映画も見に行けないし、旅行にも行けないし。できないことだらけ。子どもが大きくなったら、思いっきりやるぞと思っていたけど、子育てしているうちに、やりたいこととか、食べたいものが随分変わってしまってね、できないことではなくて、子どもと一緒にできることをすることの方が面白くなってきたのよ。子どもはありがたい存在だよ」そう言って、母は、私の方をみた。

 愛歌も私の方を見ている。自分の子どもの守人を見ればいいはずなのに、なぜか私の方を見ている。この状況は、どういうことなんだ? 二人に見つめられて私は、どうしたらいいのか、ちょっと照れながら、頭を掻いて見せた。

 気まずい雰囲気ではあったが、その前の気まずさからは開放された気分だった。

 私は、珈琲を一気に飲み終えて

「ホットサンドは、またの機会にするよ」と言って、腰を上げた。

「あっ、お父さん、ごめんなさい。すっかりホットサンドのことを忘れていたわ。次は、作ってあげるからね。あっ、このチョコ持って帰って」

 袋に戻された一口チョコを持たされた。


 私は一人で娘の家を出て自宅に向かって歩いた。

 右手の稲刈りが終った田んぼから、土鳩が数羽一斉に飛び立った。左手の雑木の辺りから、小鳥の声が聞こえてきた。オレンジ色をしたジョウビタキの雄だ。ヒッヒッと鳴きながら、木の小枝から小枝に、ちょんちょんとうつり飛んでいる。今年も遠くから日本へやってきたのだ。

『地球は、まだ大丈夫だな』

 渡り鳥が春や秋にやってくる姿を確認するたびに、私はいつも環境破壊がまだ起きていないんだなと安心する癖がついている。


 私は家に着いて、今日の出来事を忘れないうちに書き記してみたのだが、頭が混乱しっぱなしだ。

 もう一度、あちらの星の関係をここに書き表しておくことにした。


 ( )内は、地球の関係

 母 ライラ(私の母)                       

 父 アディル(私の孫 守人)

 娘 ケイリー(私の娘 愛歌)

   ラマナ(私)(俺だけ他人!?)


 わかりやすく書き留めておきたかったが、頭の中が混乱しただけだ。

 とにかく、明日からは、録音を聞きながら正確に書き起こせるだろう。


毎日投稿予定です。

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