暗闇から手を伸ばすモノ
汐原輝はGAVAの隊員として戦闘に参加することになった。
だが、吸血鬼だからという理由で隊員として任務に参加できる訳ではない。
有栖とドクター(総一郎)兄妹から1週間、戦闘面と知識面でそれぞれ師事され、輝は遂に合格ももらうのだった。
夜の街には様々な『モノ』が潜んでいる。
モノと言われて、君は何をイメージするだろうか?
妖怪やオバケの類?あとは人だろうか。夜と言えば法律ギリギリな奴等が跋扈し、警察にご厄介になるイメージがある。
だが、それらをぶち抜いて夜の世界で最も恐怖される存在が居る。
それが吸血鬼だ。
世界中で年間約10万人が被害に遭っている。その殆どが死亡し、極稀に新たな吸血鬼が産まれる。
そして今宵も─
「や、やめてくれ…俺達が、悪かったから…」
「じゃ、人探し手伝ってください。金髪の女の子の吸血鬼なんスけど。」
「わ、分かったッ!!だから─」
「ラッキー、ラッキー。眷属大量ゲットっス。」
新たな吸血鬼達の影が血溜まりの上に産み落とされた。
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「…るさ……かるさん…」
心地の良い声が暗闇の中で木霊する。
そして俺の瞼は終ぞ開くことはなく─
「輝さん起きてくださいッ!!会議中ですよ会議中ッ!!!しかも初任務ですよ!?」
「………ファイ…」
机に突っ伏していた身体を持ち上げ、左に視線をやると、此方と正面を交互に見ながら本気で焦っているレイアさんがいた。
時刻は午後3時。俺達はGAVAの一室呼び出されていた。
しかし眠い。
この身体になってから日の出ている間に起きると嫌悪感がする。と、ドクターに相談したら夜行性だからね、で片付けられた。
ふと俺も正面に目をやると、モニターの前で説明していた有栖さんが大きく溜息をつき、こちらを睨んだ。
「ハァ……もう一度、最初から話すぞ。」
「………はい。」
「次は無い。」
「ハイッ!!」
彼女の鋭い眼光に背筋が一気に伸びた。
目覚めてから3日の療養を経て、毎日4時間有栖さんと組手した地獄の日々がフラッシュバックし、古傷が痛む。
多少は強くなれたと思うが、温泉に行って癒やしたい。
「目撃情報があったのは東京郊外の廃ビル。立ち入り禁止にも関わらず見知らぬ男性達が入っていく姿を見たという市民からの証言が既に10件以上出ており、その中には吸血鬼らしき見た目だったという情報もある。また警察によると白鴉會のメンバーである可能性が挙げられている。」
「はくあかい?レイアさん分かります?」
「いえ…」
「ヤクザだよ。」
目の前に座っていた男性2人組の片方が此方に身体を向けて話しかけてきた。
黒髪ツーブロックにピアスという、街中で見かけたからちょっと声掛けたくないルックスをしていた。
「東京ではそこそこ名のある組織だ。自警団を自称してみかじめ料を徴収したり、違法な薬物売買とかね。」
「へぇ…今の時代にも居るんですね。」
「俺等はヤクザの抗争に駆り出させるなんて事もあるからね。過去には─」
「島崎君。私語は慎んで下さい。」
2人組のもう1人が会話を制止した。
こちらは振り返ること無く、正面を向いたままである。
眼鏡を掛け、他の隊員よりも背筋が良く、見ただけで自然と俺の背筋も伸びた。
「あ。す、すみません。けど同僚との交流は大事って、長谷川隊長が言っ─」
「彼等は人ではありません。」
「ッ…」
覚悟はしていた。
ここは吸血鬼を倒すために結成された組織。
どんな扱いを受けるか、なんとなく分かっていた筈だ。
だが、ここまではっきりと、直接言われるとは思わなかった。
それに普段から接しているドクターや有栖さんが寛容だった事もあって、想像よりも喰らってしまった。
島崎さんはそんな俺の様子を見かねて仲裁に入る。
「そ、そんな言い方…彼なんて吸血鬼になったの半月前ですよ?隊長も知ってるでしょう?」
「汐原君…気が緩んでいるようですが、もう少し自覚を持つべきですよ。我々は君を認めていない。」
だが島崎さんを無視して長谷川さんは畳み掛けてくる。
そして認められていない事はヒシヒシと感じていた。
なんせ長谷川さんと島崎さん、そしてレイアを除く隊員は皆、俺から離れた場所に座っている。
「すみません…」
「総隊長の話すら聞けないのなら、此処に居る価値はありません。」
「………」
この人の言い分は尤もなんだろうが、初対面のくせに凄いグチグチ言ってくる。
遠慮しない性格なのだろうが、それでもムカつく。
こういう人は苦手だ。出来れば一緒には─
「初任務の汐原には長谷川と島崎についてもらあ。」
世の中って本当にままならない。
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9月17日午後17時45分、俺達は日が沈むと同時に送迎の車両から出て現場へ向かった。
その道中で昼のうちから現場近くの住宅で監視を行っていた隊員と合流する。
そこで指揮を取る隊長の1人、今時珍しい金髪リーゼントという驚異的な個性を持った隊長、樫村さんが駆け足で向かってきた。
「総隊長お疲れ様ですッ!!!」
「声を抑えろ樫村。」
「はいッ!!すいませんッ!!!」
「配置は?」
「完了しておりますッ!!!」
「よし。行くぞ。」
俺とレイアさんを除く全隊員は注射器を取り出し、各々身体に打ち込んだ。
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そもそも人造吸血鬼とは何か。
前回、いきなり話題に出てきて知らん事で盛り上がるな、と思った人が多いと思うので俺の付け焼き刃の知識になるが解説しよう。
人は吸血鬼の血を取り込むと、吸血鬼になる。
だが同じ血を取り込んでも、同じ強さの吸血鬼になるとは限らない。
それは単に人間の頃の身体由来によるものではない。
例えば世界選手権に出るようなスポーツマンとヨボヨボなお婆さんが同じ血を取り込むと、お婆さんがスポーツマンを圧倒する事がある。
その差を生み出すのは吸血鬼としての才覚、血への適性だ。
勿論人間時代に身に着けた技術がそのまま活かせることはあるが、血への適性がそのまま強さに直結するのだ。
そして人造吸血鬼とは長年の研究の結果編み出された存在であり、1本につき1時間の吸血鬼化を可能とさせる『V. Blood 60』に対し高い適性を示す者を指す。
そんな高適性者のみで編成された89名の部隊こそ、GAVAの人造吸血鬼部隊だ。
特筆すべきは60分の吸血鬼化という部分だ。
60分しか戦えないと言えばそれまでだが、本物の吸血鬼の特性を獲得し、吸血鬼化中は眷属にされる恐れもない。
ただ開発されたのが此処数年であり、長期的にどのような副作用があるか分からないので、自己責任らしい。
でも金払いは良いとのこと。
対吸血鬼なので必然的に夜勤手当もつくというから楽しみだ。
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さて、今回の任務は廃ビルに潜む吸血鬼との戦闘だ。
駆り出されたのは全体の約半数にあたる43名。
通常の任務と比べるとかなり多いそうだ。
そして作戦は─
「全出口を封鎖し、下の階から虱潰しに倒す。窓から逃げた個体は狙撃班が撃ち落とす。以上だ。」
凄くシンプルで助かる。
ただ1つ気になる事があるとすればレイアさんが別の部隊、神谷隊所属ということである。
ちなみに俺は長谷川隊だ。
なんか他の隊員と仲良く話しているし。
駄目だ、女々しいと分かっていても嫉妬が止まらない。
モヤモヤしているとバシッとそこそこ強めに肩を叩かれた。
振り返ると島崎さん、いや島崎副隊長が笑顔で語りかけてきた。
「汐原君!頑張ろうな!」
「あっ、はい。」
「気が緩んでいるんですね。注意散漫ですよ。」
「ぐッ…」
またズバズバと、この人は…
優しさとか配慮が欠けてるのか。
俺が初めての任務だって分かってないのか?
俺は会議で言われた通り、長谷川隊長と島崎副隊長と3人で行動する事になる。
島崎さんはともかく、長谷川隊長に背中を任せたくない。
「集中して下さい……始まりますよ。」
長谷川隊長に言われ、俺は切り換える。
ヤクザで、しかも吸血鬼かもしれない相手。
きっと強いに違いない。
バコンッ!!!
有栖さんが扉を蹴り飛ばして豪快に開けた。だが扉の先、一階には全く人影は無かった。
「此方には熱探知がある。隠れていないで出てこい。」
そう言って有栖さんは単独で廃ビルに突入していく。
しかし、誰も来な─「来んじゃねぇッ!!」
受付テーブルから少し肥えた男が顔を出した。
その眼は金色であり、吸血鬼である事は一目で分かった。
その腕にはびっちりと刺青が入っており、その手には黒い何かが握られていた。
それはゲームの中では身近だったが、現実では見たことがない恐怖の象徴の様な武器。
「拳銃ッ!?」
その時、撃たれるイメージが湧いて身体が固まった。
この身体ならそう簡単には死なない筈なのに、頭の中にこびりついた固定概念が身体を縛り上げた。
だが、彼等は慣れていた。
特に有栖さんは速かった。
俺が拳銃に驚いている間に、有栖さんはヤクザの眼前に迫っていた。
彼女には驚異的な踏み込みと躊躇の無さがあった。
「速─」
「《Activation》」
そう唱え、腰に指した刀の柄を掴む。
ザシュッ!!
次の瞬間、まさに瞬きの間に有栖さんは抜刀しており、弾丸を放つこと無くヤクザの両腕は一太刀で斬り落とされた。
「いッ─」
ズドッ!!
「がはッ!?」
痛みに怯んだヤクザの身体は、有栖さんの蹴りで奥の壁に叩きつけられた。
有栖さんの現場での戦闘は初めて見たが、本当に一瞬で終わってしまった。
訓練でしこたま虐められたが、彼女の強さを再確認する。
有栖さん、いや総隊長は納刀し声を上げる。
「総員続けッ!!!」
「「「「「おおおおっ!!!」」」」」
全隊が一斉に廃ビルに突入した。
言い訳じゃないけど、研究活動と執筆活動は同時にやるもんじゃあない。
全く進まない。
てか、部隊とか知らねぇよ。
大尉だの大佐だの…階級が複雑過ぎる。
総隊長>隊長>副隊長だ。
無理なら読まないでくれ。
ミリタリーヲタクではねぇんだ。