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血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
断頭台の吸血鬼編

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32/34

混濁─弐─

 4分48秒経過──


 血で造られた九本の尾を周囲に漂わせる吸血鬼は、陽に抱えられたレイアに向かって歩みを進める。

 そんな彼の前に立ち塞がるのは"白き精鋭"狼原(かみはら)(じん)

 色白な彼が握ることで一層映える黒い銃身には、六発の弾丸が籠められていた。


「そこを退け。さすれば、貴殿の命までは取らぬでござる」

「やだね」


 初動は九尾、そして初撃は狼原だった。

 槍のように突き出された血の尾に対し、狼原は流れるように銃口を向け、引き金を引いた。


        ダンッ!


 『岩砕(いわくだき)』の銃口から放たれた弾丸は容易く血の尾を蹴散らし、そのまま九尾の右肩を抉った。

 大角の視界で狼原との戦いを見ていた九尾が驚くことはない。

 だが実際に相対し、風穴の空いた肩を見て溜息をつく。


(やはり速度では勝てぬか……)


 『岩砕』の銃口から立ち込める煙が開戦の狼煙となり、副隊長達は同時に動き出す。


 九尾の背後に立つ藤宮(ふじみや)は九尾の腰、尾の発生地点に照準を合わせてフルオートで無数の銃弾を放った。

 その攻撃よりも数瞬早く、別役(べっちゃく)は九尾の下へ駆け出していた。


「《impact》」


 加えて、着弾と同時に無防備となる九尾本体へ渾身の一撃を叩き込む為に、『爆星(はぜぼし)』の機能を解放する。


 九尾には明確な弱点がある。

 広い攻撃範囲と減らない手数、変幻自在な動きは彼の突出した武器となる一方で、重心が安定せず機動力が削がれている。

 再生、血液操作に並ぶ特性の一つ、高い身体能力を捨てる事で成立させている。


 無論、それに見合った恩恵はある。

 仮に九尾と一対一(タイマン)したならば、歴戦の副隊長達でも圧倒的な手数に対応し切れず敗北するだろう。

 事前情報がなければ尚の事、複数人相手にすら勝つ可能性が高い。


 これらは戦うまで九尾本人以外は知り得ない事だ。

 だが長年の研究と戦闘経験から、ドクターと副隊長達は九尾の特性や弱点を事前に予想していた。

 そこから導き出された最適解は、隙を与えぬ高火力での圧倒。

 九尾の機動力の低さを利用して、常に全方位から弾幕を浴びせる。

 流れ弾は喰らう前提の策。

 吸血鬼の肉体だからこそ成せる強行だった。


 九尾がこの一斉攻撃から脱する術は一つ。

 藤宮が引き金を引いたのとほぼ同時に、九尾は体外に放出していた尾を引っ込め、損なった機動力を確保する。


(そりゃ悪手やろ)


 尾を引っ込めたとしても、破壊した場合と結果は変わらない。

 別役は、無防備となった九尾の左脇腹へ目掛けて拳を放った。


       ゴゴンッ!!


 九尾は右手の平でそれを受けたが、『爆星』で強化された別役の一撃は、九尾の肘から先の骨肉を砕いた。


 負傷したところへ間髪入れず、藤宮の追撃が迫る。

 右腕の損失に加えてさらに被弾すれば、なけなしの体力は底をつく。

 避けたとしても別役、そして狼原からの攻撃が控えている。


 止め処ない攻撃の中で、九尾は小さく呟いた。

 藤宮の激しい銃声で、その言葉は殆ど掻き消されたが、唯一九尾の声が届く距離で戦う別役だけが、その断片を耳にする。


「──(はばきり)》」

「は?」


 別役は困惑した。

 短くも濃密な戦闘の中で、『人格ごとに戦い方が異なる』という固定概念が、別役の脳に根付いていた。


        ザシュッ!


 それが間違いだと副隊長達が気付いた時には、既に別役の右腕が斬り飛ばされていた。


「「「ッ!?」」」


 九尾は別役への攻撃と同時に、藤宮の銃撃を回避しつつ、宙へ放り出された別役の右腕を回収する。


 九尾と仮名をつけた吸血鬼が見せた新たな形態に、陽は目を見開く。


「血の……翼ッ!?」


 背中から出現させた翼は、九尾より前に陽達と接触した異なる人格が見せた物に酷似していた。

 だが九尾の人格が引っ込んだ訳でない事は、今もレイアへ向けられた冷たい殺意が物語っている。


 九尾は手に持っていた別役の腕に鋭い牙を立て、血を啜った。

 未だ熱を帯びた血が身体中を巡り、空になった九尾の体内を満たしていく。


「賭けだった──」


 九尾はジャックとの戦いで戦闘法を知られている。

 血液操作を基盤に威力よりも特殊性で勝負する彼にとって、初見という優位を失うことは致命的だった。

 再び顕現しても、すぐに対処されると理解していた。


 自由を取り戻すために九尾に残された策は、別人格の戦闘法を扱うこと。

 その為には、天狗面と鬼面を殺さずに封印した上で、肉体を完全に物にする必要があった。

 鬼面に協力を持ち掛け、天狗面の力を削ぎ、隙を突いて汐原輝本体を始末する計画を立てた。


 結果はほぼ完遂。

 そんな彼を労うように、血が渇きを癒した。

 こうして九尾は天狗面の力と──


「《鬼殻鎧(きかくがい)》」


 九尾は両腕両脚に血の鎧を纏わせた。

 紛れも無く大角の見せた技だった。


 反撃の準備を整えた上で、九尾は狼原へ視線を向ける。


「三度は言わぬ。そこを退け」


 唯一の懸念点は、天狗面の介入により失敗した本体の始末。

 汐原輝に施された封印は、外側からの破壊は叶わなかった。

 通常、内側から破壊出来るような物ではない。

 だがレイアという起爆剤が、封印された汐原輝本体にどのような影響を及ぼすか分からない。

 自由を手に入れる為に、そして生まれながらに持っていた恨みを晴らす為に、九尾はレイアを狙い続ける。


 未知の存在である吸血鬼相手に、作戦通りとはいかない。

 狼原はわずかな時間で身に沁みて思い知らされた。

 機動力を損なうどころか、凌駕した吸血鬼を前に、狼原は死を予感しつつも普段通り笑みを見せる。


「やだね」


        バギンッ!!!


 聞くや否や、九尾は一瞬にして距離を詰め、狼原を殴り飛ばした。

 陽の目には何が起きたのか分からず、破裂音がしたと思ったら、正面に居た筈の狼原が後ろの壁に叩きつけられていた。


「は? 狼原さ──」

「次は貴殿だ」

「ッ!」


 落ち着きを持ちながら、それでも身を震わせる殺意を孕んだ弟の声に、陽は息を呑む。

 彼の正面には一切の護衛を隔てず、翼と鎧を携えた吸血鬼が目の前に立っている。


「ひな──」

「貴殿らも動くな」


 陽を守る為に駆け出そうとした別役と藤宮の脚が止まる。

 背を向けている九尾を前に、二人は動けなかった。


「死にたくなければ『鬼の姫』を渡すでござる」

「ッ………………分か、った……」


 気圧されただけではない。

 陽は自分の命の価値を理解している。

 この状況で優先されるのは、レイアではなく彼自身の命だ。


 震える手でレイアをその場に降ろし、陽は距離を取った。


「それでいい……《鋭翼(えいよく)──」


 九尾は翼を刃へと変える。

 そして、翼を倒れるレイアに向けて振り下ろし──ギョロ……


「ッ!?」


 戦闘開始から、5分と10秒──

 半開きの瞼から覗く金色の瞳が、九尾の顔を捉えた。

 レイアが依然として仮死状態だと勘違いしていた九尾の中で、驚愕が殺意を凌駕し、動きが止まった。


「レイ──」ダンッ!


 動きを止めた直後、陽は九尾の胸に向かって躊躇なく拳銃をぶっ放した。


「ゴフッ!?」


 九尾は突如胸を襲った衝撃に混乱しながら、気道を登ってきた大量の血を口から吐き出した。

 さらに肉体を我が物として漸く使えるようになった両腕両脚の血の鎧と巨大な翼が、形を維持出来ず彼の足元に流れ落ちた。


「なに、が……」

「今だッ!!」


 陽の声に反応し、死んだふりから起き上がったレイアは、九尾が抵抗するより早く距離を詰める。


「すぅー」


 彼女は大きく息を吸う。

 出来るだけ耳元で、今出せる全力の声量で、己の眷属へ叫ぶ。


「起きてくださいッ!! 輝さんッ!!!」

「ッ!!」


 鼓膜を震わせる主の声が、聴覚を通じて、魂にまで届く。

 そして──


        ピシッ……


 鎖に亀裂を走らせた。

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