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【祝2500PV達成】血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
断頭台の吸血鬼編

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25/29

連打連打連打

 主人公の肉体だけ活躍して、本体はほぼ何もしない作品はこちらです。

 これ実質仮面ライダー電○じゃないかな。

 戦闘開始から2時間ほど遡って──


 午前6時14分、目覚まし時計が不快な音を奏で始める頃、GAVAの地下談話室では6人の作戦会議が開かれていた。

 陽とレイア、そして2人に呼び出された4人。

 ドクターに狼原、別役に藤宮と、10年以上吸血鬼に携わってきた大ベテラン達。


「正直輝を暴走させるだけなら、陽以外でもeasyだと思う。ジャックがレイアを攻撃した条件を再現すればいい。どんな人でも、レイアに攻撃すれば暴走する可能性が高い。問題はどの程度の刺激が暴走のtriggerになるのか、それが最大値なのか不明な点だ」


 ドクターは呼び出された側ながら進んで陽と共に壇上に立ち、ホワイトボードを使ってそう説明した。

 

「なので、まずは俺が小突いて閾値を調べます」


 陽の言葉にレイアが首を傾げる。


「閾値?」

「暴走させるのに必要な最小の刺激か」


 別役はレイアの疑問を解消して置き去りにしないように補足しつつ、会話を円滑に進めていく。


「おそらく世界一嫌いであろう俺と顔合わせるだけで暴走するのか、俺がレイアちゃんと関わると暴走するのか、親密にしたらどうなるのか。時間無いのでその三パターンで調べます。で、正直この程度で暴走するなら速攻で処刑も有りかなって──」

「陽さん?」

「嘘です、少なくとも人前に出せないかなって思ってます」


 1時間前まで萎縮していたレイアの変化に、藤宮は驚きつつ微笑んだ。


「意外ね、この短時間でそんなに仲良くなったの?」

「いや、その……練習のせいで、陽さんへの当たりが無意識に強くなってしまって……」

「え、それ何の練習──」

「サプライズなので、見てからのお楽しみです。これで暴走しないなら、上層部への交渉材料に出来るんじゃないですかね?」


 藤宮の問いを遮りつつ、陽はかつて総隊長を務め、かつ上層部との接点も多い狼原に問い掛けた。

 だが狼原は引き攣った笑顔で気不味そうに答えた。


「ギリギリ、微妙〜に……やっぱ、金城さんがな〜。なんなら無理矢理中断させに来るかもね」

「No problem. 紅茶ソムリエをぶつけて足止めします」

「え、それって──」

「うちに籍置いてるんだから、一般職員よりは働いてもらわないとね」

「さっき鬼電で起こしてもらいました! 抜かりはありません!」

「君等、ホント……良い性格してるね」


 ドクターの電話で眠りから叩き起こされたであろう緋道の不憫さに、狼原はそう言って苦笑いした。


「これで暴走しないなら、次は俺が輝の目の前でレイアちゃんを殺します。皆さんには暴走する輝を足止めして欲しいんです。」

「「「「…………ん?」」」」


 ここまでどんな話をされても理解し、頷いていたベテラン達が陽に戸惑いの視線を向ける。

 陽の発言を理解するのに皆数秒掛け、その上で意味が分からず混乱していた。

 陽もまた皆の反応に驚いたが、すぐに理由に気付いて訂正した。

 

「あ、正確には致命傷を喰らわせます。本気でレイアちゃんを殺す訳じゃないので、そこはご安心を」

「そこじゃねぇよ!! いや、そこもあるけどな!?」

「そんな事したら輝君は君を殺しに掛かるよ!?」

「ですね。だから守ってください」

「凄い無茶を……まだ会ってほんの数時間の私達に、よく命預けられるわね」

「市民なりに見知ってるつもりですよ。皆さんの強さは実績が語ってます」


 副隊長達が陽をガン詰めしていた中、ドクターはジッとレイアに視線を向けていた。


 レイアとの付き合いが一番長いのは、GAVAの全隊員及び社員含めて彼であり、彼女を信じていた。

 だからこそ陽の無謀な策に従うレイアの行動に不信感を抱き、丸眼鏡越しに父親譲りの視線を向けた。

 

「レイア、君は陽のplanに賛成したのかい?」


 するとドクターの問いにレイアは心底嫌そうな顔で、口をモゴモゴとしてから答えた。


「……は、い」

「うん、知ってた」

「むしろ普段なら絶対賛成しないだろ。どういう風の吹き回しだ?」

「……陽さんにあらゆる代案を論破されました」

「論破しました」

「「鬼?」」


 レイアにすら容赦無く当たる陽に、藤宮と別役はゴミを見るような眼を向けるが、当人は一切に気にする様子は無い。


「ドクターも言ってたじゃないですか。最大値が分からないって。だから長い時間掛けて淡い信頼や油断を抱かせてから裏切ることで、感情の振幅は最大化する。これが最も効果的な筈です」

「……確かに見られる可能性は最も高いだろうね。けど危険過ぎる。許可は出来ない」

「それじゃ遅いって話を先刻したんです。四の五の言ってる余裕は無い。今日中に終わらせなきゃ市民への被害は何倍にも膨れ上がる。俺を呼んだのは輝を暴走させる為でしょ」

「僕は一般市民を戦場に置くなんて話はしてない。映像越しや携帯越しを前提としてる」

「万が一を潰さなきゃ上層部は納得しないんでしょ。ならやるべきだ」

「それで君が殺されようもんなら、上はすぐに輝の首を刎ねる。それじゃあ──」

「要するに僕ら次第って事でしょ?」


 ヒートアップする論争を止めたのは狼原だった。


「リスクは有るけど、その位追い詰められてる状況ってことだ。それに1週間を半日に抑える為には妥当なコストだと感じたよ」

「妥当か?」

「狼原が変なのは今に始まった事じゃないでしょ。」

「そこ2人、一旦静かにしよっか」


 後ろで言いたい放題する同期達に注意しつつ、視線をドクターへ向ける。

 狼原自身、本心では否定派だ。

 戦場に立つのは自分達だけで良いと思っている。

 だがここまでの話し合いで、陽が死にたがりでない事も、真の正解は無い事も理解していた。


「僕達が足止めすれば、勝てるんだね?」

「絶対ではないです。けど最善かつ最速はこれかと」

「うん。後ろの御二方、異論は?」


 狼原は後ろに座る2人に尋ねたが、言いたい事全部言われた、と示すように2人とも何も言わなかった。

 狼原はそれを見て、今度はドクターに視線を向けた。


「信じてくれ、とは言わない。ただ彼が死ぬ時は、僕等が全滅した時だけだ」

「……信じてますよ。じゃあ話を続けてくれるかい?」


 陽は狼原とドクターの間に漂う不穏な空気を感じ取ったが、脱線しそうだと感じて気にしない事にした。

 そして若干蚊帳の外になりかけているレイアに視線を送った。

 レイアは少し戸惑いながらも、息を整えて口を開いた。


「前提として、私は頭を撃たれても死にません。ただ頭部の再生は他に比べて時間を要します。少なくとも5分」


 そう言ってレイアが右手の五指を立てると、狼原は彼女の真似をしつつ、左の人差し指も立てた。


「なら6分だ。僕と別役君で90秒交代制でいこう」

「勝手に決めやがって……まぁやってやるよ」

「私は休んでいい感じ?」

「良い訳ねぇだろ、陽とレイアを守れ」

「ですよね〜ちなみに他の子達は?」

「それは……どうなんだい?」


 藤宮からの問いに答えようとして一旦踏み止まり、狼原は陽に視線を向けた。


「隊長達には隊員を導くという仕事があります。此処で彼等を欠くと、俺の望みである白鴉会残党の完全撃破が半端になる。そして輝の暴走が色々と未知数な以上、経験豊富な皆さんが適任かと」


 陽の考えに狼原は大きく頷いた。


「先の事を考えたら、今回の件も彼等が中心となって解決して欲しい。上層部との連携も含めてね」

「インターバルもあるしな。総合的に見て、俺等だけで対処するのが一番良い」

「でも1人脱落したら致命的だし、ちゃんと武器準備しなきゃね。終わったら久し振りに同期でパーっと飲もう! 良いワイン仕入れたんだよね!」

「「……は?」」


 無意識にフラグを立てた藤宮に全員の視線が集まる。

 特に、藤宮の受難体質を身近に経験してきた狼原と別役は顔をしかめた。

 そして、この任務は一筋縄ではいかないと、半ば確信していた。


──────────────────────

 暴走開始から57秒。

 その確信が最悪の形で現実となった。


「別役君ッ!!」


 大角の金棒を受けた別役の身体が、一直線に壁に叩きつけられた。


 右腕の『爆星』破損による残回数16から9への大幅な減少。

 交代制の破綻。

 なにより別役の状態。

 再生能力の有無では覆しきれない一撃である事は、別役の全身の傷を見れば明らかだった。


「狼原さん、使いますかッ!?」


 同じく危機を理解している陽は、そう言って腕捲くりしたが、狼原はすぐに首を振った。


「……大丈夫。それは最終手段、まだ頼る訳にはいかないよ」


 狼原はにこやかに答え、2丁の『岩砕(いわくだき)』をホルダーから取り出し、両手に持つ。

 そして別役の居ない今、残り時間の全てを自分だけで立ち向かう覚悟を固める。


「僕が出る。藤宮は2人を──」

「しゃしゃんな狼原ァ!!!」

「へッ!?」


 背後から浴びせられた怒号に狼原の身体はビクッと止まる。

 狼原が振り返ると、金色の目に闘志を灯した別役が物凄い形相で走ってきていた。

 だが全身の傷は治っておらず、戦える状態にはとても見えなかった。


「別役君ッ! 一旦止ま──」


 狼原の制止を完全に無視して別役は大角に殴り掛かった。

 大角はボロボロのまま走ってくる別役を煩わしく思いながら、両腕で頭を守る。


「なんじゃ、まだ動け──」

「シュ!」ズシンッ!


 少し身を沈めた別役は、破片が突き刺さって血塗れの右の拳を握り締め、油断する大角の腹に打ち込んだ。

 『爆星』すら装備していないただの拳、先程までの大角ならすぐに反撃に出ていたが、今回は違う。


「ゴハッ!」


 口から血を吐き、大角は膝から崩れ落ちる。

 彼には何が起こったのか全く理解できなかった。

 だが再生能力の高い汐原輝の肉体は、闘争を妨げにはならない。

 瞬時にダメージを回復した大角は立ち上がろうと──


「シュ!」


 立ち上がろうとした大角の顔面に、別役は左の拳を打ち込み、その衝撃で大角は再び膝をついた。

 さらに別役の攻撃が止まることはなく、左のストレートを中心に殴打し続けた。


「仕事でも家でも責任ばっか増えてェ、娯楽は減る一方……それを大人やからって諦めとった。せやけど今、久々に滾ってる。だからァ狼原、俺の邪魔すんな──」


 いつもなら隠している方言が漏れ出ても、全身の痛みでアドレナリンドバドバの別役は気にも止めず、拳を振るい続ける。


「勝負はワンダウンからやろがッ!!!」

「はいはいお任せしまーす」


 良き闘争への歓喜か、ダウンした事への腹いせか、はたまた副隊長としての責任感か。

 色んな感情が混ざった物に、別役は突き動かされていた。


「嘘ぉ」


 あまりにも一方的な状況に陽はドン引きする。

 頼ったのは彼自身だが、12席クラスを圧倒する程強いとは思っていなかった。


「頭に血が上って昔の別役に戻ってるのかな。てか、あのまま1人でなんとかなるんじゃない?」


 藤宮が修羅の如き強さで大角を抑え続ける別役を指差してそう言ったが、狼原は腕時計と別役の状態を見て首を振った。


「そうだと嬉しいけど、流石に限界かな。」


 狼原は別役の息が乱れ始めている事にいち早く気付く。

 稼ぐ時間は6分。

 その間を別役が全てを防ぎ続けるのは、やはり無理がある。


「別役君ッ! そろそろ交代の時間だッ!!」

「早ッ!? チッ……マジで時間守りや!?」

「任せてッ! 僕は君みたいなバトルジャンキーじゃないからねッ!! 1分半でスパッと交代したいッ!!!」


 名残惜しさを振り払い、別役は攻撃を止めて即座に後退した。

 それと同時に狼原が大角に向かって走り出す。


「ギイイイザマアアアアアアアアアアッ!!!」


 何十、何百回も殴られ続けたにも関わらず、攻撃が止むと瞬時に肉体は再生し、大角は勢いよく立ち上がった。

 そして怒髪天を衝く形相で、後退する別役へ一気に迫り、右手に握る金棒を振り上げた。

         ダンッ!!

 それを見た狼原は2丁の『岩砕』の引き金を同時に引き、右手首と左膝を撃ち抜いた。

 

「ッ!」ドサッ!


 攻撃を受けて膝から下をいきなり失った大角は、勢いそのまま転がるように倒れた。

  

「貴様ァ……!!!」

「いや、顔怖ッ」


 倒れたままで動けない状態だというのに、大角の殺気の籠もった眼差しは狼原を震えさせた。


 今から1分半、別役の反撃を許さない連打でフラストレーションの溜まった大角を相手する事に狼原の心の底で嫌気が差す。

 しかしそれを感じさせないにこやかな表情で大角に語り掛ける。

  

「陽君や別役君と殺り合いたいかもだけど、次は僕だよ」

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