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【祝2000PV達成】血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
影の刃編

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ロンドンが生んだ怪物

ジャックという吸血鬼は一体なんなのか。


そして輝VSジャック…ついに決着かッ!?

 ロンドンの夜は毎日冷たかった。


 冷たい夜を名無しの少年は1人で生きていた。


 物心ついた頃から親と呼ばれる存在はおらず、死臭のする路地裏でゴミ箱を漁って、売れそうな物を見つけては換金して命を繋いできた。


 お金が稼げない時はそこら中にいるネズミを狩って肉に齧りついたり、レストランの裏のゴミ箱で見つけた食べ残しで空腹を満たした。


 そうやって苦しみながらも懸命に生きてきた彼の頭に、ふと1つの問いが浮かんだ。


「なんで生きなきゃダメなんだろう。」


 口にした瞬間、少年の中で生への執着と死への恐れが消えた。彼は問いへの答えを持ち合わせなかった。


 その日、少年は道端で酔ってしゃがみ込んでいた女を殺した。ゴミ箱で見つけた錆び付きのナイフで首を力強く2度突き、腹を裂いた。そして財布から金を盗り、夜闇の中走って逃げた。


 こうして彼は殺しという選択肢を得てしまった。


 その1週間後、茶色の帽子と黒いオーバーコートを着た黒髪の男と、暗褐色の髪と青い瞳を持つ見すぼらしい女が、少年の寝床の近くで騒がしくしていたのでどっちも殺した。最初に男の背後から忍び寄って首を切り裂き、死んだ男に覆い被されながら身動きが取れなくなった女の首を刺した。


 気付けば少年は今まで手にしたことの無い大金を手に入れた。だがそんな生活は長くは続かなかった。


 それは5人目の女を殺した帰り道だった。少年は男2人組の警官に見つかった。警官達もさぞ驚いた事だろう。10歳程の少年が全身血塗れで、血の滴るナイフを握りしめていたのだから。


 何故居るのかと疑問が浮かぶより早く、少年は路地に駆け込もうとしたが、警官の1人が道を塞いだ。


 少年は迷わず男の首にナイフを突き刺した。


 だが一撃で殺すには至らず、首を刺された警官は少年の腕を力強く掴んだ。そしてもう1人の警官が振り下ろした木製の警棒が少年の頭蓋を割った。


 その衝撃は少年の脳を揺らし、少年はめまいと強烈な吐き気に襲われてその場に倒れた。そして遠のいていく意識の中で少年は死が迫ってきた事を悟った。


 脳内を巡る数々の空虚な記憶が少年の人生の価値を物語っていた。少年は無理に生きる意味など無かったと再確認し、そのくだらなさに微笑しながら目を瞑った。


「ぎゃっ…」


 暗闇の中、グチャという聞き慣れてしまった音と共に男の断末魔が聞こえた。


 少年が目を開くと、目の前に男の死体が転がっていた。自分を警棒で殴った警官だった。


 代わりに誰かが少年の事を見下ろしていた。綺麗な金髪と金色の瞳を持つ吸血鬼だった。


 助けてくれたのか、それとも腹を満たす為か。


 今となっては分からない。


 立ち去ろうとする吸血鬼を見て、消えゆく意識の中、少年は生まれて初めて望みを言った。


「僕を…吸血鬼にして…」


 吸血鬼は少年の望みを叶え、名を与えた。


 燃え盛り幾万の命が消えていくロンドンの街の隅で、少年の冷たい夜が終わった。

 ───────────────────

 閑散とした無人の地下駐車場でジャックは夢から覚めた。天井には自分が通ってきた大穴があった。血液操作で咄嗟に背中を守っていなければ─


 そんな想像をしてジャックは震え上がった。

(戦場で、敵前だってのに…あの日の事を思い出すとは…本気で死にかけたのか。)

 ジャックの視線の先には、顔に付いた血を拭う事すらせず、静かに自分を見下ろす同族の姿があった。


 オレは何の言葉を発することも無く、ただ純粋な殺意を向けながら穴から飛び降りた。


 そんなオレの姿を見てジャックは即座に起き上がって距離を取りつつ、ジャックはオレの力を覚醒させる事が出来たと喜んだ。


 そして同時に連れ去る計画は破綻したと予感していた。故にジャックに残された選択肢は2つ。


 オレを殺してレイアを連れ去る or 脱兎の如く逃げる。


 しかし、ジャックにはどちらの成功もイメージ出来なかった。

(はしゃぎ過ぎたなぁ…)

 準備していた武器の殆どが紛失または粉砕され、持ち合わせは釣り竿と2本のナイフだけである。


 体力は半分以上温存するつもりだったが、先程の頭部への連続攻撃によって体感3割まで削られていた。逃げ切る為には1割は残しておきたい状況。だがオレのことを温存して勝てる相手ではないと評価していた。


 余裕は崩さないが、冷静に分析すると彼は詰んでいた。


(さて、どうするかな。)

 だが状況を理解した上でジャックは冷静さを崩さない。自分が死ぬ事を前提に策を練り、残り2本のナイフを両手に持つ。


 ジャックにとって命とは尊ぶべき物では無い。

 …

 ……

 ………

 いや、彼の名誉の為にも言い方を変えよう。


 それ以外の物を差し置いて、命だけを特別視する事ができない。人も吸血鬼も獣も道具も役目を終えればゴミになる。彼の中では物を壊す事と人を殺す事は同義だ。


 故に目的を達成する為なら、使い捨ての道具の様に命を容易に賭けられる。


 ジャックの本質は、右手に取った錆付きのナイフと同じ。壊れるまでは、壊れかけても役目を果たす。

「《夜翳ノ刃(やえいのやいば)》」

 ジャックは右手のナイフにだけ血を纏わせた。


 錆び付いた刃は血を纏って赤から暗赤色、そして限りなく黒に染まった。オレの目には刃が夜に融けた様に映り、上の穴から微かに入ってくる月明かりだけが頼りだった。


「最終的にどうなろうと君は殺していくっスよ。」

 ジャックはオレの殺し方を理解していた。


 吸血鬼の再生には2種類存在する。


 まず両生類など吸血鬼以外の生物でも見られる様な再生。

 通常、遺伝的にプログラムされた生理的プロセスである。

 人だって怪我した部分は意識の有無で早く治したり出来るわけではない。

 吸血鬼の再生速度は殆どの生物を凌駕するが、それでも心臓の大部分を破壊されれば止まる。


 そして吸血鬼にのみ見られる意識的な再生。

 これは血液操作の応用とされ、ドクターは意識的な再生というより再生の促進と抑制であると考えている。

 負傷した複数部位の内一箇所だけを優先的に再生させたり、敢えて再生させないという事も可能。


 この力は血液操作と同様に脳に依存しており、仮に心臓を破壊されても体内に残っている血液を操作して心臓の再生にあてる事も出来る。

 そして脳か脳の信号を全身に伝える神経、例えば頚椎を破壊されれば血液操作ごと失われる。


 つまり無意識の再生に必須な心臓、意識的な再生を司る脳などを同時に破壊された場合はどれほど再生に特化した個体でも死ぬ。


(普通は片方でいいけど、彼はレイア様の眷属…同時破壊が必須。)

「来いよ。クソ雑魚。」

「うわ…酷い言葉遣いっスね。親が泣きますよ?じゃあ遠慮なく。」ダッ!

 ジャックは走り出すのと同時に、左手に持ったナイフを離してその場に置き去りにした。


 ナイフは空中浮遊するわけでもなく、落下を開始する。


 ジャックは左手だけで素早く釣り竿を展開し、走る勢いそのままに身体を時計回りに反転させた。そしてナイフのストラップ用の穴に引っ掛ける。


 そして釣り糸を通じてナイフに血を纏わせる。捻った身体を正面に戻す勢いを利用して放つのは、斧の時とは違う超速の凶刃。


「《融刃血(ゆうじんけつ)夜梟刃(やきょうば)》」

         ヒュン!!!

 風切り音を鳴らしながら、刃は一瞬でオレに迫る。地面と水平にオレの両目を斬る軌道だった。

「温い。」

         ゴキッ!!

 だがオレは目前に迫った刃を見切り、刃の柄に右手の甲を当てて止めた。甲の骨が砕けても顔色変えず、オレの両眼はジャックの姿を捉えていた。


        バチャ!!

「ッ!?」

 突如、刃物に纏わせていた血が破裂した。飛び散った血が両目に迫り、オレは思わず目を瞑る。


 ジャックはオレの一瞬の隙を奪った。

 その隙はジャックにとって一撃放つには十分だった。


 釣り竿を手放し、音も無く懐に入り込んだジャックが最初に狙ったのは心臓だった。

 右手でナイフの柄を握り、刃の先端をオレの心臓に向ける。

 そして左手でナイフの柄尻を支えた。


 普通に突き刺しても頭を攻撃する前に瞬時に再生され、反撃を喰らう可能性があるとジャックは理解していた。

 そのため彼は自身の誇る最大出力の攻撃を選択した。


 《夜翳ノ刃(やえいのやいば)》の黒さは圧縮した血によるもの。

 ジャックは血液操作により、ナイフを押し潰す様に全方位から圧力を掛けている。

 この状態で一点に穴を空けたらどうなるだろう。

 穴の空いた水風船のごとく、圧縮された血は勢い良く噴き出すことだろう。


 纏わせる血の量に際限はなく、纏わせた分だけ威力も増す。

 今のジャックに温存は無く、ただオレを殺す為に全力を尽くす。

「《夜翳(やえい)無明(むみょう)》」

      ズバアアアアアアン!!

 破裂音がオレの胸元で起こった。

 それは圧縮された血が、障害物にぶつかった音だった。


        ガラガラッ…

 次に聞こえたのはヒビ割れたコンクリートが崩れる音。

 オレの背後のコンクリートの柱、その先のコンクリートの壁には直径15cm程度の穴が空いており─




 それと同じ大きさの穴がオレの胸にも空いていた。

「かはッ!?」

 放たれた一撃は後ろのコンクリートごとオレの心臓と心臓周辺の組織、背骨まで貫いて完全に消し飛ばした。


 勿論ジャックも無事では済まない。

 大量の血を消耗した事で全身の力が抜け、吐き気や寒気がジャックを襲った。

 だが彼はナイフを全力で握り締める。

        ダンッ!!!

 地を踏んで倒れようとする身体を持ち上げ、オレの首を掴んだ。

 そしてオレの頭目掛けてナイフを振り下ろした。


        ガキンッ!!!

「なッ!?」

 金属がぶつかる音と共に、ジャックの一撃は左から受けた攻撃によって逸らされ、オレの右頬の肉を裂いた。


 オレが何かした訳では無い。


 レイアを追ってスーパーに入り、オレがジャックを地面に叩きつけた音を聞きつけてレイアの下へ辿り着いた彼女はオレの居場所だけを聞き、すぐに穴に飛び込んだ。


 ジャックは驚いた。

 長い金色の髪を束ね、黒い刀を振る彼女を一瞬レイアだと勘違いした。

 だが体格からすぐに気付く。

 彼女の情報はネットにも掲載されていた。

「総隊長…ここで、来るか…!」

 ジャックは有栖総隊長の首に向かって突きを放ったが、彼女は刀の側面で受けて軌道を逸らし、ガラ空きの胴へ左脚を蹴り出した。

        バゴンッ!!

 体勢を崩したジャックは防御出来ず、彼女の蹴りをもろに喰らった。

 普段の彼なら受け身を取って即座に反撃に移るだろうが、弱っていた身体はバンッと音を立てて地下駐車場の壁に叩きつけられた。

「ゴフッ…!」

 内臓をやられた事で逆流してきた血を口から噴き出し、そのままジャックは地面に倒れ込んだ。


「あぁ……ガハッ…!流石に、無理か…」

「まだ息があるか…レイア、降りていいぞ。そして輝の治療を頼む。」

 傷を癒し、穴の上から覗いていたレイアにそう言って有栖総隊長は倒れるジャックの下へ歩みを進める。


 だが指令を受けたレイアは穴から降りたものの、すぐに治療に移れない理由があった。


 それは俺の暴走。レイアは最小限の情報であるオレの居場所を伝える事はしたが、まだ暴走については話して居なかった。


「有栖さん…実は…」

「ん?なん─」ヒュッ!!

 その時、後ろを振り返った有栖総隊長の横を何かが通過した。

 それはジャックがレイアに向けて投げ付けたコンクリートの破片だった。


「レイ─」パシッ!

 だがレイアに当たる事はなかった。レイアの背後から伸びたオレの手が破片を掴んだ。


「ふぅ…良くやったぞ輝。命令無視は見過ごせないがな。」

 そして前へ向き直した有栖総隊長はジャックの鼻先に刀を向ける。


「『剣の眷属』が随分と陳腐な悪あがきだな。あの程度でレイアを─」

「最終的に…どう、なろうと君は…殺していく…僕は…ハァ…そう言ったんスよ?君を殺すのは…僕じゃなくて良い…!!」

「なに?」

 有栖総隊長は知らない。オレが俺で無いと。


「君が、人間を殺したら…誰が君の…味方なんでしょうね?」

 ジャックは知っている。オレの本質がレイアを守ることにあると。


 この時のオレの中にあった判断基準は『レイア』か『レイア以外』か、それのみ。


「彼女を傷付けるなら…」

「ッ!!ダメ─」

 故にその牙は、レイアを除く全てに対し向けられる。


 ジャックと有栖総隊長に殺気を向けながら、オレは背中に赤い9つの尾を作り出す。

「きゃ!?」(動けない!?)

 その内の2本はレイアを守るように、そして身動きを取れない様に彼女へ巻き付き─


「消し飛べ─」

 オレの言葉を合図に、残りの7本は四方八方縦横無尽に攻撃を開始した。

まだまだ3分経過してないっスよおおおおおおお!!!暴走暴走暴走暴走ッ!!!うおおおおおおおお!!!


はい、ということでテンションMAXでお送りしました。投稿1時間前まで頑張って執筆した俺でした〜投稿曜日変えるなんて無謀な事するんじゃ無かったよ。でも、昼夜逆転を寝ずに過ごす事で無理矢理治すように金曜日投稿へ自然にシフト出来ました。今後も頑張りやす。


あと最近見てくれる人が増えたのか分からんがPVがドンドン増えてて嬉しい。欲張りかもだけど…評価とか…ブックマークとか…励ましになるなぁ…欲しいなぁ…つってな。次回もお楽しみに。

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