いずれ見る夜空
その日、見上げた夏の夜空は、2つの満月だけが浮かぶ異様な光景だった。
一つは蒼白い光を灯し、もう一つは血のように紅い──
紅い月を作り出した者の名は汐原陽。
現在、世界中の人々が最も死を望む、『災厄の吸血鬼』にして──
俺の兄だ。
「なあ、輝。いい加減に諦めたらどうだ。この廃れた景色が、お前等の敗北を既に物語ってるだろ?」
人類が長い年月掛けて作り上げた都市が一夜にして焦土になる様を背に、その元凶である陽は金色の双眸を細めて微笑みを浮かべた。
微笑む口から人の血肉を噛み切り血を啜る牙が覗いており、さらに身体は足場など無い空に留まり続けている。
そして、彼の右手には先程俺から引き千切った右腕が握られていた。
被害を受けたのは俺だけじゃない。
世界の何百、何千万という人々に被害が及んでいる。
もう取り返しのつかない状況かもしれない。
「……面倒くさい物を託しやがって……」
地べたに倒れて空を眺めていた俺は、右腕の骨、筋肉、血管、神経、皮膚を一呼吸で再生させる。
血管を流れ始めた血潮が熱さと痺れを作り出し、ドクドクと脈動の痛みが右腕を襲うが、それらを全て無視して俺は立ち上がる。
「諦める?バカ言うなよ。」
託された想いが、俺をここまで導いてくれた。
逃げるなんて許されない。
何より陽に教えられた。
「絶対に、お前を止める。」
この意志は最期まで曲げない。
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何故、俺の兄が『災厄の吸血鬼』なんて呼ばれるようになったのか。
どうして俺達は吸血鬼になったのか。
全てが始まりは1年前の、俺と吸血鬼の少女の出会い。
吸血鬼のことなんて全く知らなかった俺が、彼女の眷属になった日に遡る。