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第5話:姫の覚醒と古のハンバーガーの真実

 ついに、私はすべての食材を集めた。旅の果てに、伝説の禁断のハンバーガーを完成させる瞬間が訪れたのだ。


「これが……古のハンバーガー……!」


 テーブルの上にそっと置かれたそれは、ただの料理とは思えないほどの存在感を放っていた。


 まず目に飛び込んでくるのは、闇のように漆黒のバンズ。その表面は、まるで吸い込まれそうな深い黒に染まりながらも、ほんのりとした光沢を帯びている。外はカリッと焼かれ、中はふんわりとした弾力があり、噛めばほのかに甘みが広がる特別なパン——「冥府の黒バンズ」だ。


 そのバンズの間から、トロリと溢れ出すのは「奈落の黄金チーズ」。妖しく輝くその色合いは、通常のチーズとは一線を画していた。手で持つだけでとろけるほどのなめらかさを持ち、香りは芳醇でまるで熟成された神々の贈り物のよう。


 そして、ハンバーガーの中心を担うのは「呪われし漆黒牛のパティ」。レシピによると、かつて魔王が封じ込められた山の奥深くで育てられた魔獣の肉から作られているという。その肉は黒曜石のような艶を帯び、焼かれることでまるで深紅の宝石のような輝きを放つ。ナイフを入れれば、ジューシーな肉汁が溢れ出し、その香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


 さらに、ハンバーガーには特別なソースがかけられていた。「天上の涙ソース」と呼ばれるそれは、神々が流した涙を秘薬として作り上げたもので、一滴垂らすだけで口の中に甘みと辛みが絶妙に絡み合う。これが、究極の味を生み出す最後のピースだった。


「……すごい……」


 私はただ、目の前のハンバーガーを見つめることしかできなかった。ただの料理とは思えない。それは、まるで神々の祝福を受けた至高の一品——いや、それ以上の何かだった。


「味見しちゃおうかな……いや、食べかけをお姫様に食べさせるのはまずい!」


 私は慎重にハンバーガーを両手で持ち上げた。ズシリとくる重み。バンズの柔らかさとパティの肉厚な感触。その全てが、これが普通の食べ物ではないことを示していた。





 セレスティア姫は依然として豪華な寝台の上で眠り続けていた。


「姫……お待たせしました」


 私は深く息を吸い、震える手でハンバーガーを姫の口元へ運ぶ。そして、そっと一口分を姫の唇に押し当てた。


 その瞬間——


「……んっ……」


 姫のまつげが、微かに震えた。


「……!!」


 私だけでなく、見守っていた王や家臣たちも息を呑む。


 ゆっくりと、姫が瞳を開いた。


「私は……生きているの……?」


 姫は自分の指先を見つめる。その表情には、長い眠りから覚めたばかりの戸惑いと驚きが浮かんでいた。


「姫!!」


 家臣は、嬉しさで涙ぐんでいた。


「よかった……本当に、よかった……!」


 王が駆け寄り、姫の手を取り、安堵の表情を浮かべる。家臣たちも歓声を上げ、王国中が喜びに包まれる瞬間だった。


 しかし——私はふと、皿の上に残ったハンバーガーを見つめる。


「……これ、もう食べても良いよね……」


 私は、今度こそ自分のために一口——


 だが、その瞬間だった。


 突然、部屋の空間が揺らぎ、まばゆい光があふれた。


「な、なに!?」


 その光の中から、荘厳な雰囲気をまとった女性が現れた。


「……おめでとうございます!」


 ふわりと白いドレスをまとい、慈愛に満ちた笑顔を浮かべる彼女——


 それは、女神様だった。


「まさか、ここまで早くクエストをクリアするとは思いませんでした。さすが選ばし勇者!」


「え? どういうこと?」


 私は思わず聞き返す。


 女神は微笑んだまま説明を続けた。


「これは、勇者としての試練だったのです」


「……試練?」


「そう。この世界の『最高の食』を探し、それを完成させ、世界に平和をもたらす者——それが選ばれし勇者の役目でした」


「ええええ!? そんなの聞いてない!」


 私は驚いて女神を見つめた。


「そもそも、私はただのハンバーガー好きで……!」


「いいえ、あなたは真の勇者です。魔王を倒すだけでなく、見事、この世界の究極の食べ物を作り上げました」


 女神は誇らしげに頷く。


「そして、この試練をクリアしたあなたには、……元の世界に戻る権利を与えましょう!」


「……え?」


「ちょ、ちょっと待って!」


 私は慌てて女神を制止した。


「せめて一口!……一口だけで良いからー!!」


 ——ピカー!!


 白い光が視界を覆い、私は強制的に異世界を去ることになった。


 ~完~

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