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正義と偽

―――――――――――――――――――――


 鈴鹿梓は、本当に悪なのか?

 武内真人の言っていることを全て鵜吞みにするつもりはないが、疑問は確かにある。

 実家に帰る電車の中で、悶々と考えていたら実家の最寄り駅に着いていた。

 実家の周りは建物が少ない田舎だから、実家はひと際存在感を放っていた。

 由緒ある物部家も時代と共に陰陽師の需要も減り、曾祖父の代から衰退していったと祖父から聞かされた。

 祖父と孫としての思い出はなかった。あったのは師匠と弟子。いや、そこまでの信頼関係もなかったのかもしれない。

 祖父には、強くなる方法しか教わらなかった。そして、思い出すのは、辛かった修行の日々だけ。


 

 「首尾よく監視は、いっているのか?」

 広いが閑散としたこの家に祖父の重々しい声が響いた。

 「はい」

 俺は、抑揚のない声で答える。

 「第一は、この日本国の安寧のためだが、我が物部家の復興の足掛かりにもなる」

 祖父の本音としては、物部家の復興が第一優先だろう。

 「為すべきことを為せ」

 祖父のいつもの口癖だ。為すべきことに疑問を抱いている今の俺には、その言葉が以前と違う響きに感じた。

 いつもは、辛かった思い出しかないこの場所から一秒でも早く帰りたいと考えていた。でも、信じるべきなのは何なのかを確かめるために、祖父に入ることが禁止されたあの部屋に、俺は今日入る。

 鈴鹿梓がだろうが、祖父が悪だろうが、どちらにしろ俺は、真実を知りたかった。


 箱には、外法箱と達筆で書かれていた。箱からは、禍々しさを感じた。

 俺は、覚悟を決め恐る恐る箱を開ける。真っ先に目に入ったのが、人の頭の形をした骨だった。

 驚きのあまり、声が出そうになったが、咄嗟に口を手で押さえて事なきを得た。

 一旦、箱から目線を外して深呼吸する。

 箱の中には、人の髪みたいなものが束ねられたもの。何かのお札等々、色んなものが入っていた。

 直観的に、この箱は悪しきものだと感じてしまった。

 この禍々しい箱に、惹きつけられてしまう。

 そして、あるものを見つけてしまった。箱の一番底に小さな南京錠がついている木箱があった。

 俺に、鍵を開ける術を教えていたのが、祖父が犯した失態だった。

 祖父に叩き込まれた術式で解錠した。

 箱の中には、一枚の巻物が出てきた。

 宛名には、祖父の名があり、送り主には、荼枳尼天だきにてんと書かれていた。

 荼枳尼天...

 地上における最高の栄誉を授けてくれるが、悲惨な形で命を奪う暗黒神と、文献に書かれていたのを思い出した。

 文字を追う目が、止まらなかった。

 陰陽師として、物部家に栄華をもたらしその代償として荼枳尼天の手足となることと、祖父の生命の所有権を譲り渡すというところまでで限界だった。

 情報の多さと、現実味の無さでめまいまで襲ってきた。

 俺自身の土台さえも、崩れ去る錯覚に陥りながら、残っている力を振り絞って箱を元の位置に戻した。

 怖くなった俺は、あの部屋から、そして実家から逃げるように帰った。




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