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 「本日に講義はここまで。今日やった内容を復習しておくこと」

 「真人君」

 「うん」

 物部君に連れられ、キャンパスを出る。

 お互い無言のまま物部君が住んでいるアパートに向かう。

 物部君が、鍵を開け、家に入る。

 「おじゃまします」

 「散らかっているけど、どうぞ」

 昼なのに、カーテンが閉まりきっていた。

 物部君は、テーブルを挟み僕の正面に来た。

 「友達ともう一度忠告するよ。彼女とは、別れるべきだ」

 答えは既に出ている。

 僕は、静かに首を横に振る。そして僕は、物部君に語り掛ける。

 「梓が悪いことをするなんてやっぱりどうしても想像することが出来ないんだ。梓が抱えているものが何であったとしても一緒に背負ってあげたいんだ」

 物部君は、ため息をつく。

 「陰陽師として、そして一友人として最終忠告をするよ。鈴鹿梓といることで、君は必ず不幸になる。それでも、その茨の道に行くの?」

 僕は、物部君、そして自分自身に誓うように力強く頷く。 

 物部君の顔には、憎悪の色が出ていた。部屋に嫌な沈黙が訪れる。

 張り詰めた空気が、僕にのしかかる。

 「何でそこまで、君は梓にこだわるの?」

 「俺は、生まれた時から陰陽師として育てられた。その辛さが、お前に分かるか?」

 物部君の口調や言葉遣いは、さっきまでのそれとは明らかに違っていた。

 「小さい頃から友達なんか出来たことがない。楽しい思い出なんて微塵もない。元はといえば全部、大嶽丸が全ての元凶だ!!」

 僕は、今までどれほどのぬるま湯に浸かっていたか痛感する。梓も物部君も背負ってきたものが、あまりにも大きすぎる。

 「もし仮に物部君を苦しめてきたのが、梓のお父さんのせいだとしても、梓が責任を負う必要はあるの?」

 「責任なんてどうでもいい」

 「え?」

 「受けるはずの愛情、送るはずだった平穏な日々。何一つ俺には、与えられなかった」

 初めて物部君の本音のようなものを聞けた気がする。

 物部君に対して、正論ばかりの反論は思いつくのに、解決策はまったく浮かばなかった。

 僕は、無力だ。

 

 「先入観は、可能を不可能にする」

 誰かの受け売りみたいな言葉が、自然と口に出た。

 「それは、ただの夢物語だ」

 第三者から見たら物部君の方が、正しいのかも知れない。でも、ここで簡単に諦めることは出来ない。

 「信じられないことは、信じることから始まる。僕は、梓との未来を信じる」

 今の物部君に言っても響かないとしても、僕は心からの言葉を口にせずにはいられなかった。

 「今日は、話してくれてありがとう」

 物部君からの返事は、なかった。

 僕は、逃げるように物部君の家を出る。

 いつにも増して、街が茜色に染まっていた。夕暮れの静寂が、ありもしない圧迫感を押し出していた。



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