新たなる出逢い
日が暮れ始め、温かみを感じる民家の明かりが灯され始めた。
この飲み屋街にも、もう慣れた。
ここの人たちは、ほとんどが彼女と同じ人ならざるものだ。
しかし、人間と変わらない、いや、ある意味では、人間以上の人間味の温かさがそこにあった。
彼女と初めて会った、今では行きつけの店『夜行』の店長とも仲良くなった。
その日も僕は、夜行に行っていた。彼女は、友達との遊ぶ予定があって、僕一人で来ていた。黙々と一人で食べていたら、不意に声を掛けられた。隣を見ると、話しかけてきた人物は、頭に皿が乗っていて、体が緑色だ。
「お兄さん、もしかして、人間?」
「うん」
「僕の姿見て、驚かないの?」
この店で、一つ目の店長や、酔っぱらったろくろ首を見て来たんだ。今更、河童を見たところで驚かない。
「ここを知る前なら驚いたね」
「まったくだ」
話を聞いていたのか、店長が笑いながら、割って入ってきた。
河童の少年は、つまらなそうな顔をしていた。
「俺は、ワランって言うんだ」
「お兄さん、人間だからこれあげるよ」
水かきのような手には、小さな木の実みたいなのが、5,6個乗っていた。
ワランから受け取り、口の中に入れて、咀嚼する。
口いっぱいに辛さが広がる。僕は、悶絶しながら、ワランの方をにらむ。
「やっぱり人間って面白いや」
「調子に乗るな」
高笑いしているいたずら河童に、店長はげんこつを食らわせた。
「いってぇぇーー」
ワランは、涙目になっていた。すぐにケロッとして、僕に質問してきた。
「お兄さんの名前は?」
「武内 真人」
僕は、ジト目でワランを睨みながら言う。
「お兄さんそんなに睨まないでよ」
ワランは、軽快に笑う。その態度に、不思議と怒りは覚えなかった。
「真人って、大学生?」
僕は、軽く頷く。早速、呼び捨てにしていることは見逃した。
「ワランは?」
「専門学校」
先程とは打って変わって、ぶっきらぼうな対応をされた。
「何の専門学校?」
「調理師」
緑の体をしたコックを想像して、思わず吹き出しそうになった。
待って待って、そんな顔で睨まないで。ワランで想像してないから、うん多分。
気が付けば街が、秋色に染まり始めていた。