冒険
山頂から見下ろすのは、田園が続く田舎だった。
店長から教えてもらった手順を進める。
祠に神酒を奉納した後、鳥居の前まで来た。
ここから先に入ると、後には引き返せないと僕の直観も告げている。
僕には一切の戸惑いはなかった。
梓の居ない世界に未練はない。言われた通り、鳥居の端の前に立つ。
僕はゆっくり一歩ずつ踏みしめ、鳥居を超えた。
かくして、現在が転調する。
田んぼのあぜ道を進んで行く。
遠くの方に光が見える。
既視感が全くない景色に懐かしさを覚えた。
日本の古風な景色に見とれていた。遠くの田んぼで、もぞもぞと何かが蠢いていた。目を細めてそれを見ようとすると、突如梓の笑顔が脳裏に掠めた。
僕は、また歩み始める。
向こうの方では、泥の塊が鍬をふるい、田を耕している。
泥の塊を視界の端で捉え、しばらくすると視界から外れていった。
視線の先に小高い山があった。山腹には、歴史の教科書に出てきそうな昔の山村のようなものが見えた。
その場所にあるはずの根拠のない希望を求め、歩みを進める。
どれだけ歩いても、目に見える景色と村までの距離は変わらなかった。
何時間ぐらい歩いたのだろう。上を見上げると空はもう暗くなっていた。
絶望に似た感情が胸の中で増幅して、思わず俯いた。それでも、体の奥底の小さな小さな、しかしそこに確かに存在していると主張する光が僕の足を一歩進めた。
すると、涼しい風が僕の体を吹き抜けた。その風に誘われるように顔を上げる。僕の目の前には、山道の入り口があった。僕の肩が思わずびくっと跳ねる。後ろを振りむくと、延々と続く田んぼ道の外れに小さな点になっている古びた鳥居を見つけた。懐かしさに目を細め、前を向く。
山道の端には、等間隔に石灯籠が置かれ、僕が進むべき道を煌々と照らしてくれていた。
山道をしばらく登っていくと、小さく美しい光を放つ蛍たちが僕を歓迎してくれるように辺りを飛び回る。
幻想的な風景に僕は、見惚れていた。蛍たちが踊り、小川のせせらぎが聞こえる。
進んでいくと、大きな樹があった。そこに、蛍たちが集まってまるで樹が自ら光を放っているようだった。その樹の根本に祠が建てられていた。誘われるように、祠の中を覗いた。
中には、木彫りの狐が鎮座していて、その奥に「幻」と、一文字書かれていた。「幻」の文字を見た瞬間、ゾクッと突き刺すような冷たい視線を背中で感じる。反射的に祠から出て、後ろを見る。そこには、月明かりに照らされている木の看板が立てかけられていた。
立てかけられていた看板には、「夢」と一字書かれていて下に矢印が書かれていた。
矢印の先を見ると、目指していた村の入り口が見えた。
灯籠に導かれ、村の入り口に繋がる石畳の階段を登る。




