決意
何も出来ない無力さと激しい怒りで、吐き気さえ覚える。
早く夢から目覚めたいと何度も願った。それでも、現実は残酷だった。
梓が、居なくなった事実だけがただ存在していた。
追いかけたいと切に願う。だが、その術が分からない。
壮大な鴨川を見て思う。梓のいないこの世界の存在意義はない。
水の中に身を預けたら、少しは楽になるだろうか。
あまり何も考えずに、橋の柵に足をかけようとした。その時だった。
僕の右ポケットが、振動した。いつもより冷たい金属の板を持つ。
送り主は、やもさんだった。
『武内君、これを見たら、すぐに京都から帰って夜行に行ってください。梓ちゃんを助けに行くために』
すぐに、やもさんに電話をかける。
プルルルル プルルルル プルルルル プルルルル ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
一向に繋がる気配がない。
僕は、居ても立っても居られなくなって京都駅の方に向かう。
京都駅に向かいながら僕は、一心不乱にスマホを操作し新幹線のチケットを確保する。
真後ろで車のクラクションが鳴り響いたが、後ろを振り返る暇もなく歩き続ける。
来たときは圧倒された京都駅も、色を無くした無機質な建物に成り果てていた。
改札を走り抜け、新幹線に飛び乗る。
幸いにも、比較的に乗客は少なく空いている座席に座れた。
新幹線ってこんなに遅かっただろうか。窓の外の景色も、ゆっくり流れていた。
隣の席を何度見ても、梓の姿はなかった。
息苦しい。心臓が圧迫される感覚に襲われる。
永遠とも思える時が経ち、ようやく到着する。
そこからは、あまり記憶がない。
気づいたら、僕は「夜行」の前に来ていた。空は茜色に染まっていた。
僕は、扉を勢いよく開く。
店内には、お客さんが居なかった。カウンターに座っている店長と目が合う。
「大変だったな。とりあえず座って落ち着け」
店長の隣の椅子を引いて腰掛ける。間髪入れずに、店長が話し始める。
「早速本題に入るが梓は、もうこの世界にはいない」
悲しすぎる現実に僕は、顔を下に向ける。
目の前が、真っ暗になる。梓ともう二度と会えないと思うと、吐き気すら覚える。
「心配するな。梓が連れ去れた世界に行ける方法がある」
店長の希望の言葉に、思わず顔を上げる。
「でも、急がないといけない。梓が、危ない」
店長の言葉に思わず顔を上げる。
「どういうことですか?」
店長は、僕を見て口角を上げる。
「お前、男らしい顔になったな」
店長は、すぐに真顔に戻る。
「まず前提として、お前が行こうとする世界は危険だ。梓を救い出せるか以前に、生きて帰ってこられる保証はどこにもない」
その言葉が、脅しではないことは店長の目を見たら明らかだった。
「それと俺も行ってやりたいのは、山々なんだが色んな制約があって、真人一人で行ってもらわないといけない。それでも行くのか?」
助けに行く方法があるなら、僕に行く以外の選択肢はなかった。
「その世界の行き方を教えてください」
「お前ならそう言うと思ったよ」
店長は、腕を組み何度か頷いた。
「まず、この商店街の北の端に山の入り口がある。ここからでも見えるあの山だ」
少し大きな山があったことを思い出す。
「山の中に入って少し進むと分かれ道がある。左の道に進むんだ。間違えるなよ?」
僕は、短く強く頷く。
「その道の先に石の鳥居がある。石の鳥居の中を通る。帰りは、鳥居の外を通って戻る。それを三回繰り返す。そして、最後の三回目に戻った時に鳥居のそばにある祠にあるものを供える」
店長は、一息つくためにグラスを傾ける。
「あるものって?」
「ちょっと待ってろ」
そう言って、店長は奥へと消えていった。
しばらく待っていると、風呂敷に包まれたものを持ってきた。
店長が、慎重に風呂敷をほどく。
風呂敷の中から一升瓶が出てきて、僕の前に置かれた。
「これは、神酒だ。神が、お前に異界の門を開いてくれるために奉納する」
店長は、いつになく真剣な口調だ。
「最後に鳥居の端を歩いて出ると、もうそこは異界になっている」
緊張で少し汗がにじむ。
「酷だと思うが、異界では極力不安になったり、怯えたりしてはいけない。弱っている心につけ込んでくる輩がいる。真人、お前は、確実に狩られる側だ」
「分かりました」
店長と共に、自分自身にも覚悟を伝える。




