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約束と希望  作者: 幸人
14/17

始まり

 待ち遠しかった春休みが、やってきた。

 僕たちは、新幹線で京都に向かう。

 向かう新幹線の中で雄々しい富士山をみた。神々しい神の山に、畏敬の念を抱いた。

 名古屋を超え、近畿に入り、京都駅に着いた。

 新幹線のホームに降り立ち、『京都』のプレートを見て、実感する。

 京都駅に入って、二人で感嘆する。

 京都駅の構内で見上げると、ガラス張りの天井があった。

 様々な言語が、飛び交っていた。

 駅前のバス停は、複数あり、国籍様々な人が並んでいた。

 空を見上げると、どんよりとした重たそうな雲が覆っていた。

 徒歩で、八坂神社に向かう。

 「やっぱり京都は観光客が多いね」

 八坂神社に向かいながら、梓は楽しそうに言った。

 雨が降り出しそうな空模様に小さき不安を抱く。

 観光客の波に、僕たちは飲まれる。

 賽銭を投げ神様に、これから紡ぐであろう日々の安寧を願う。

 人々が神に願う。それは祈りかはたまた….

 人々が引き起こす喧騒が、思考に入り込んでくる。

 笑顔でこちらに振り向く、梓の顔を見て再び祈る。

 明日も明後日も、君が笑っていられる世界でありますように。


 次に、京都駅に戻って、伏見稲荷大社に行くことにした。

 電車に揺られながら、景色を楽しんでいたらすぐに着いた。

 観光客に混ざり、降り立っていく。駅のホームにも風情を感じる。

 改札を出ると、綺麗に舗装された石畳の道に、人が溢れていた。

 大きな鳥居が、僕らを出迎えてくれていているようだ。

 赤く彩られた鳥居が、果てしなく連なっている様は圧巻の一言だった。

 山の中腹で、後ろを振り返り京都市内を眺めながら、涼しい風に吹かれていた。

 茶店の中の大勢の人を見て、僕らは休憩を諦めて左のルートから山頂を目指した。

 伏見稲荷に着いてからも、梓ともたくさん会話をしていたと思う。でも断片的にしか思い出せないのは、突如訪れたあの悲劇のせいに違いない。

 それは、山頂までちょうど半分くらいに差し掛かったころだった。音もなく、どこからともなく現れた白い袴を着た人物が、梓を連れ去った。

 簡単すぎる表現かもしれないが、こう表現するしかない。あまりの速さに、それしか分からなかった。ただ、梓を抱えて僕を見下ろしていた狐面は、一生忘れないだろう。

 僕は、金縛りになったかのように呆然としていた。


 「絶対に許さない!!!!」

 胸からこみ上げてきたものをそのまま吐露する。

 悲しみが、怒りに追いついてきた。

 悲しみの後に何が来るか。それは、己の無力感だ。

 夢を見ているようで、まるで実感が湧かない。

 思考を放棄しようと試みる。たとえ、それが不可能だったとしても。

 頭上から雨が降ってきた。

 空に雲がないのに、雨が降ることを天泣というらしい。教授が講義で言っていたことを走馬灯の如く思い出す。

 無防備な僕は、驟雨に身をさらされる。傘を差す意味なんて見出せなかった。


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