始まり
待ち遠しかった春休みが、やってきた。
僕たちは、新幹線で京都に向かう。
向かう新幹線の中で雄々しい富士山をみた。神々しい神の山に、畏敬の念を抱いた。
名古屋を超え、近畿に入り、京都駅に着いた。
新幹線のホームに降り立ち、『京都』のプレートを見て、実感する。
京都駅に入って、二人で感嘆する。
京都駅の構内で見上げると、ガラス張りの天井があった。
様々な言語が、飛び交っていた。
駅前のバス停は、複数あり、国籍様々な人が並んでいた。
空を見上げると、どんよりとした重たそうな雲が覆っていた。
徒歩で、八坂神社に向かう。
「やっぱり京都は観光客が多いね」
八坂神社に向かいながら、梓は楽しそうに言った。
雨が降り出しそうな空模様に小さき不安を抱く。
観光客の波に、僕たちは飲まれる。
賽銭を投げ神様に、これから紡ぐであろう日々の安寧を願う。
人々が神に願う。それは祈りかはたまた….
人々が引き起こす喧騒が、思考に入り込んでくる。
笑顔でこちらに振り向く、梓の顔を見て再び祈る。
明日も明後日も、君が笑っていられる世界でありますように。
次に、京都駅に戻って、伏見稲荷大社に行くことにした。
電車に揺られながら、景色を楽しんでいたらすぐに着いた。
観光客に混ざり、降り立っていく。駅のホームにも風情を感じる。
改札を出ると、綺麗に舗装された石畳の道に、人が溢れていた。
大きな鳥居が、僕らを出迎えてくれていているようだ。
赤く彩られた鳥居が、果てしなく連なっている様は圧巻の一言だった。
山の中腹で、後ろを振り返り京都市内を眺めながら、涼しい風に吹かれていた。
茶店の中の大勢の人を見て、僕らは休憩を諦めて左のルートから山頂を目指した。
伏見稲荷に着いてからも、梓ともたくさん会話をしていたと思う。でも断片的にしか思い出せないのは、突如訪れたあの悲劇のせいに違いない。
それは、山頂までちょうど半分くらいに差し掛かったころだった。音もなく、どこからともなく現れた白い袴を着た人物が、梓を連れ去った。
簡単すぎる表現かもしれないが、こう表現するしかない。あまりの速さに、それしか分からなかった。ただ、梓を抱えて僕を見下ろしていた狐面は、一生忘れないだろう。
僕は、金縛りになったかのように呆然としていた。
「絶対に許さない!!!!」
胸からこみ上げてきたものをそのまま吐露する。
悲しみが、怒りに追いついてきた。
悲しみの後に何が来るか。それは、己の無力感だ。
夢を見ているようで、まるで実感が湧かない。
思考を放棄しようと試みる。たとえ、それが不可能だったとしても。
頭上から雨が降ってきた。
空に雲がないのに、雨が降ることを天泣というらしい。教授が講義で言っていたことを走馬灯の如く思い出す。
無防備な僕は、驟雨に身をさらされる。傘を差す意味なんて見出せなかった。




