準備
寒かった冬も終わり、恵みの春が来た。
冬の間、耐えていた種子が芽を出し、花を咲かせた。
大学生の春休みは長い。だから、その休みを利用して初めての旅行で京都を選んだ。
僕は、家に居てもやることもないので、いつもの「夜行」に行くことにした。
「夜行」は、午前中からやっているからありがたい。
夜には、いつも賑わっているこの通りも平日の真昼間は、人が居ない。
「武内君、早いね」
僕に笑顔で手を振る先客がいた。あの日ハンカチを届けたやもさんとは、あの日以来友達になった。
「やもさん、来てたんですか」
「こいつ、真人の話しかしないんだよ」
「店長!!その話はしない約束だよね?」
「そうだった。悪い悪い、今の話忘れてくれ」
店長は、ニヤニヤしながら厨房の方へと消えていった。
「さっきの話気にしないで。本当に何もないから」
店長のあの顔から、やもさんの方が正しいのだろう。
やもさんが、思い出したかのように僕を見る。
「そうだ。これ、あげるよ」
僕は、手のひらで受け取ったものを見る。
「君の危機の時、必ず助けてくれるよ」
やもさんの声が、僕に安心感をもたらしてくれる。
「やもさん、これは何ですか?」
「これはね、爆薬だよ。でも、安心して。怪我とかはしなくて、光と音がするだけだよ。特大のね!」
やもさんの笑顔に、背筋が凍る。
後ろでは、いつの間にか戻ってきた店長が豪快な笑いを響かせていた。
僕は、この場の不思議な雰囲気に思わず苦笑いを浮かべる。
僕は、やもさんから貰ったそれを大切にしまう。
お守りにしては、少々物騒すぎる気がしなくもない。自爆するイメージしか湧かないのは、きっと気のせいだ。
春の京都への旅支度で忙しくしていたその日、物部君からお誘いがあった。
僕は、軽く身支度を済ませ集合場所の駅前のカフェに向かう。
カフェに入ると、物部君は迷わず奥の角の席に座った。
物部君が、手招きをしていた。
「旅行中は、彼女から目を離さないように。特に狐には気を付けた方がいい」
「狐?何で?」
「これ以上聞かないでくれ。真人君のため、そして何より君の大切な彼女のためなんだ」
物部君は、有無を言わさない口調だったが、淀みのない目で噓を言っているようには見えなかった。
「物部君が言うなら何も聞かない」
得体のしれない不安を覚えながら、僕は笑顔を作る。
「ありがとう。俺の方でも、出来ることはしておく。良い旅になることを祈っているよ」




