和解
窓から見える空が暗くなるころ。
ガラガラガラガラ
「物部君」
僕は、友達に手を振った。
「いらっしゃい」
店長の雷が落ち終わった紅葉が、物部君の方を向く。
「君も人間?」
物部君は、困った顔をしていた。
「まぁうん。そうだよ」
紅葉は、物部君の顔を覗き込んだ。
「でもあの人と違って、私たちと同じような雰囲気を感じたよ」
「あんまりお客さんを困らせるなよ」
店長が物部君に助け船を出した。
「あ、すみませーん」
紅葉は、恥ずかしそうに舌を出して笑った。
「悪いね。サービスしとくから。許してくれよな」
「大丈夫です。全然気にしてませんよ」
「物部君ー」
物部君を呼ぶ。体を小突かれ、隣を見ると梓が、何ともいえない表情をしていた。
物部君が近づいてきた。梓が向けている視線は、変わっていない。
物部君は、梓の視線に気が付いたのか急いで視線を逸らす。そんな風景を、僕は、微笑ましく感じる。
「何であなたがここに居るんですか?」
梓の少々棘のある発言に、物部君は苦笑いをしていた。
「僕が物部君を呼んだんだよ」
「え?」
梓が、僕の方を見て少し怖い顔をする。
「真人君は、悪くないです。俺が、鈴鹿さんに謝りたいって言ったから」
物部君は、借りてきた猫のように覇気が全くなかった。
「なるほどね」
「鈴鹿さんのこと全く知らなかったのに、勝手に決めつけて傷つけてしまい、ごめんなさい」
物部君が、謝罪と共に頭を下げた。
「謝るのは一番傷つけて迷惑をかけた、真人君が先でしょ」
梓は、鋭く言い放った。
「真人君、ごめん。真人君の話一切聞かないで、突き放したり傷つけて本当にごめん」
物部君が、僕の方を向き、頭を下げて謝ってくれた。
「物部君、頭上げて。過ぎたことだし、怒ってないよ。何より、梓の誤解が解けて良かった」
この言葉が、僕の本心だった。
「梓、そろそろ物部君のこと許してあげたら?」
僕は、困っている物部君に助け船を出す。
「真人君が言うなら、許してあげる」
梓は、一転して顔に笑みを浮かべていた。
物部君は、頭を上げる。晴れやかな顔をのぞかせていた。土色だった物部君の顔色が、血液が通って良くなっていた。
「でも、一つだけ言っておくね。真人君のこと困らせたら許さないから」
梓は、腰に手を当て、ジト目で式君を見ていた。
「はい…」
物部君は、蛇に睨まれた蛙のようになっていた。
僕は、二人のやり取りに吹き出しそうになる。
「物部君何か頼む?」
「今日のおすすめは、豚肉の蒸し焼きだ」
いつの間にか戻っていた店長が、商売魂を見せてきた。
「じゃあ、それで」
多分深く考える余裕もなく、物部君は注文した
今夜も僕らは、喧騒の中に取り込まれていく。




