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約束と希望  作者: 幸人
10/17

試行

 雲居の空を寝転びながら、心を空っぽにして眺める。

 青い空のキャンバスに、白き雲が描かれている。

 俺が、信じてきたものは何だったのか。

 怒りや悲しみは、無かった。あるとすれば、何かがぽっかりと空いた喪失感だけだった。

 真人君に、謝らないとな。



  ――――――――――――――

 僕の実力不足は、否めない事実だ。

 もし、梓の身に何かがあっても、現段階ではぼくは何もできないだろう。

 陰陽師である物部君は勿論。ワランや梓だって一般の人間より力はあるだろう。

 それに比べ、一般人の僕には何が出来るのだろう。

 自分の非力さにうんざりする。

 だから、少しでも対策する術を梓に教えてもらう。

 「真人君を振り回してばっかりでごめんね」

 梓には、そんな顔は似合わない。

 「僕がしたいと思ったから、しているだけだよ」

 紛れもない本音を言葉にする。

 「じゃあ、これから真人君に狐の窓のやり方を教えるね」

 梓は、両手を前に突き出した。

 「まず、両手で狐の形を作ってね」

 梓の真似をして、僕も人差し指と小指を立てる。

 カウンターの向こうから、ニコニコしながら店長が見ていた。

 格闘すること1時間余り。

 色んな情報が頭に押し寄せて、脳がキャパオーバーに陥る。

 「今日はこれくらいで終わりにしよ」

 梓先生の一声で、解放された。

 携帯の着信音がなる。

 店長が出してくれた冷えた水を、喉に流し込みながらメールを読む。

 物部君からの呼び出しだった。


 「最初に、俺は君に謝らないといけない」

 物部君は、僕の前で頭を下げていた。

 会ってからのすぐの出来事に、僕は正直戸惑った。

 「急にどうしたの?まず、顔を上げて」

 物部君が、恐る恐る顔を上げた。

 それから、物部君の実家で見たもの、祖父への不信感などの物部君の告白を聞いた。

 「梓への誤解が解けて良かったよ。でも、物部君が謝るべきひとは、僕ではないよ」

 「分かってる。鈴鹿さんには、ちゃんと謝りたいと思っている」

 その言葉を聞いて、安心した。僕の愛する人と僕の友達は、出来れば仲良くなって欲しい。

 そんな小さな僕の願望だった。

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