試行
雲居の空を寝転びながら、心を空っぽにして眺める。
青い空のキャンバスに、白き雲が描かれている。
俺が、信じてきたものは何だったのか。
怒りや悲しみは、無かった。あるとすれば、何かがぽっかりと空いた喪失感だけだった。
真人君に、謝らないとな。
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僕の実力不足は、否めない事実だ。
もし、梓の身に何かがあっても、現段階ではぼくは何もできないだろう。
陰陽師である物部君は勿論。ワランや梓だって一般の人間より力はあるだろう。
それに比べ、一般人の僕には何が出来るのだろう。
自分の非力さにうんざりする。
だから、少しでも対策する術を梓に教えてもらう。
「真人君を振り回してばっかりでごめんね」
梓には、そんな顔は似合わない。
「僕がしたいと思ったから、しているだけだよ」
紛れもない本音を言葉にする。
「じゃあ、これから真人君に狐の窓のやり方を教えるね」
梓は、両手を前に突き出した。
「まず、両手で狐の形を作ってね」
梓の真似をして、僕も人差し指と小指を立てる。
カウンターの向こうから、ニコニコしながら店長が見ていた。
格闘すること1時間余り。
色んな情報が頭に押し寄せて、脳がキャパオーバーに陥る。
「今日はこれくらいで終わりにしよ」
梓先生の一声で、解放された。
携帯の着信音がなる。
店長が出してくれた冷えた水を、喉に流し込みながらメールを読む。
物部君からの呼び出しだった。
「最初に、俺は君に謝らないといけない」
物部君は、僕の前で頭を下げていた。
会ってからのすぐの出来事に、僕は正直戸惑った。
「急にどうしたの?まず、顔を上げて」
物部君が、恐る恐る顔を上げた。
それから、物部君の実家で見たもの、祖父への不信感などの物部君の告白を聞いた。
「梓への誤解が解けて良かったよ。でも、物部君が謝るべきひとは、僕ではないよ」
「分かってる。鈴鹿さんには、ちゃんと謝りたいと思っている」
その言葉を聞いて、安心した。僕の愛する人と僕の友達は、出来れば仲良くなって欲しい。
そんな小さな僕の願望だった。




