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監視者(Watcher)

作者: 氷室吾郎

 「ハロちゃんただいまーこんばんは」


カタカタとキーボードを鳴らしてライブ配信のコメント欄にそう打ち込む。

そうするとほんの少しの()を置いて返事が返ってくる。


 「●●(ほにゃらら)さん、おかえりなさい今日も来てくれてありがとう。」


いつも聞いてる明るくて嫌な事全てを吹っ飛ばしてくれる元気な声で挨拶を返してくれる。

この声にどれだけ癒された事だろう、特に私のように人に嫌がられるような仕事に従事している者にとって、何かしらのストレスの発散方法は必須であった。

それが私には、この【88&66ちゃんねる】と言うゲーム実況動画を主にライブで配信してくれるチャンネルを見る事であった。


 「今日の配信もすごく楽しみにしてたよ」


もう数百年の月日が経っているが昔の文献にはこう記されていた。

【推しは推せる時に推せ】

正にその通りだと自分自身が実感している。


配信を観ながら時折コメントを書き込み楽しい時間を過ごしていたと言うのに台無しにしてくれる無機質な機械音が小さく3度ビーと鳴った。

楽しい時間を邪魔されたから始めは無視をしようと思っていたが、そんな事をすれば自分の評価にマイナスが付くのは必然だった。


 「はい。歴史保護局現地潜入特殊工作員No.236」


現代では、私以外は誰一人として知りはしない本当の身分を名乗った後に相手から問い掛けられる。


 「定時連絡。監視対象暗号(コードネーム)ヒヨコ&青たぬき異常なしか?」


毎日飽きもせずに同じ事だけをよく聞けるものだと呆れつつもこれが自分の仕事だと。


 「現地時間西暦◯年◯月◯日(◯曜日)異常なし!対象は現在ライブ配信中、引き続き監視業務を行う」


それだけ言うと小さな機械のスイッチを切ると再びパソコンのモニターに目をやる。何やら楽しい事があったらしくコメント欄が盛り上がっていた。

波に乗り損ねてしまった事を恨みつつ後でアーカイブを見なければとも思った。


そして、もう1台の小型モニターにも目をやる。そこには、暗号(コードネーム)ヒヨコと名付けられた10代の可愛らしい女の子がマイクに向かい楽しそうに話をしている姿と、その後ろで暗号(コードネーム)青たぬきと名付けられた1台のアンドロイドの姿が見えた。

最新式の虫型(バグズ)ドローンからの映像である。


遡る事現地の時間で3日前の午前10時、時の壁を破り抜けてこの時代に来た私が始めにやった事が、監視対象者達の所在地を調べる事と、監視用のドローンを飛ばす事を行った。


監視対象者達の住んでいるアパートの中へと潜入したドローンは、ある意味予定通りとも言える、そのアパートに住んでいるアンドロイドに見つかった。


 「どなたですか?無断で他人のプライベートを覗き見るのはあまり感心出来かねますが?」


アンドロイドからの問い掛けに私はマイクとドローンのスピーカーを通して用件だけを伝える。


 「こちらは、歴史保護局の者だ人間(ヒューマン)のハロ及び子守教育型アンドロイドのAZ66号に通達する。貴殿達の行動は既に歴史保護局の預り知る物になっている、この歴史に介入した事については以下の事を厳守すれば不問にすると言う決定が成された。」


①この先の歴史を現代の人間に話さない事

②歴史を変えるような未来のお道具の使用禁止

③現代に生きて寿命を全うする事

④24世紀へ帰還しない事(AZ66のみとなった時にAZ66のみ帰還を認める)


 「最後に時間渡航者の監視が私の目的だ、いつでも君達を見ているからな。と言っても対象には年頃の女性も含まれている、その辺の考慮は最大限にしよう。

私と接触(コンタクト)した事をハロに話す必要は無い、では時間旅行を楽しみたまえ。」


帰る事の出来ない旅行なんてない事は百も承知だが、それだけ言ってマイクのスイッチを切った。


彼女達は知らない。

彼女達が過去に戻りVTuberとして活動を始めた時点で、これから先のVTuber達の在り方全てを変える程の存在、言わば先駆者(パイオニア)になると言う事を。

歴史博物館に彼女の唯一残ったライブ配信の模様が流れ続ける事を。 


 「ハロちゃんただいまー今日は仕事が忙しくてお昼も食べられなかったよー」


 「●●(ほにゃらら)さん、おかえりなさいお仕事お疲れ様でした。今日もハロの声で元気を取り戻してくれたら嬉しいな」


私は、未来から歴史を守る歴史保護局の潜入特殊工作員。彼女は私の担当する監視対象者だ。

私が彼女のファンである事もまた事実だ。


歴史保護局内で、監視者が監視対象を全力で推していると言うウワサが広まっている事を知るのは、まだまだ先の話である。








 

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