3話
人気のない路地を梅原が歩いて行く。
「あの坊主が過去を思い出さなきゃいいんだがなぁ。」
いきなり梅原の後ろのいたるところで光が歪み始める。
「いくら訓練したって空間を繋ぐ距離はそんなに長くならねぇし…」
光の歪みには真っ黒な殺意が詰まっている。
「こんなもの至近距離で爆発させるもんじゃねぇっての」
そこからこぼれ落ちた物体─昔戦艦の主砲に装填されていたとされる"ソレ"がそのまま道路に向かって落ちていく。
「こんな曲芸もやってみせたかなぁ?」
言葉と共に地面間近というところで"ソレ"の頭部が闇に飲まれる。
「まぁ、訓練でできるようになったいいことっていったら」
数えられる程の光の歪みが今は数えられないほど発現する。
「複数展開しても、適当に繋いでも落とし続けることができるようになったってことだな」
いつの間にか梅原の周りには陽炎のように歪みが発生していた。
「まぁあとは取り込める範囲が広がったことも良いことだな。」
先程までは梅原の周りに存在した歪みは梅原の背後に移っていた。人によっては後光のように見える"ソレ"は導く為ではなく、ただ破壊の為に存在する。
梅原が路地を半分程度行った時、突然前後を武装した黒服の人物達が包囲する。
「梅原様とお見受けします。」
「だったらどうする。」
「ご同行を願いたいのですが…」
黒服達は丁寧に話しかけるが、梅原は粗暴な口調で返答する。狂気的な笑みを浮かべて。
「無理って言ったらどうなるのかなぁ?」
「主のご命令なので、力ずくと行きましょう。」
「良かろう、やってみろよ」
と聞くや否や黒服達は正確に装填されていた弾を吐き出す。
「豆鉄砲か、そんなもので死んでみたいねぇ」
梅原の声が終わるか終わらないかというタイミングで道路が爆発を起こす。歪みから落ちた砲弾が道のアスファルトに突き刺さり炸裂したのであった。現に先程からあった陽炎の1つが消え、新たな死の陽炎が揺らめく。
「誰だかしらないけど俺をとらえてこいってねぇ、かわいそうな奴らだ。」
と両脇の建物が半分消し飛んだクレーターのど真ん中で梅原は一瞬で消し炭になったであろう人間に憐れみの言葉をなげる。
「また坂道だよ…腰に来るんだよなぁ…」
と梅原は何処からあがったら良いものかと爆風で炭化した木材などを見上げながら探し始める。
クレーターに長い影が落ちる。
「そこにいるのは誰だ?手加減を期待するなよ?」
という初っぱなから脅しが飛び出たことで相手は怯えたのか、すぐ飛び出してきて敬礼をする。
「桃井です!言伝てを預かっております!」
というや否やせかせかと物づたいにクレーターの底へと降りてくる。
「これを読めばわかると!」
「ふん」
と真剣な表情で桃井が伝える反面、梅原は心底どうでも良さそうに差し出された紙を取る。
そこには──
「これは──」
「お話がしたいそうですがどうでしょう?」
桃井は梅原の顔が驚きに染まった瞬間を見逃さず声をかける。
「いいだろう、聞いてやる。」
「では!」
「だが─」
と喜びを露にした桃井に対して梅原は悪鬼のような顔でいい放つ。
「嘘や誤魔化しだったらどうなるか」
と、既に梅原の手にはリボルバーが握られ、それは桃井のこめかみに当てられていた。
「わかってるよな?」
数分後某所
扉をゆっくりと開け、部屋の奥にあるソファーに向けて声をかける。
「お連れしました。マスター」
「そうか、ご苦労」
そして桃井と共に入ってきた梅原を見る。
「どうした?折角の再会なのに…顔色が悪いぞ?」
青くなった顔で呆然と見る梅原の視線の先には…
死んだはずの友人がいた。