うわさの谷間は危険!!
一応、「夏のホラー2024」に参加いたします(^^;)
もうずいぶん前の話じゃが……
その頃のワシは丸ノ内ビルヂングにある会社へ勤める若きエリートじゃった。
仕事柄、扱う書類はいずれも最高機密でその処理は……ワシら若いもんが書類をギッシリ詰めた段ボールを箱車に満載して埼玉まで燃やしに行くと言う“一日仕事”じゃった。
ペーペーの新人とは言え、こんな事で社員4名分の1日の給金をフイにするのは“ドブ川に万札を捨てるようなもの”、さりとて“社外秘の物を外部の人間に扱わせるわけにもいかん”と会社の上層部は頭を痛め、ついにはその頃話題になっておった書類細断機なる物が導入されたんんじゃ。
この機械、スイッチを入れると刃がグルグル回り続ける物じゃから、麺状に吐き出されたゴミでカートがいっぱいになる迄、ひたすら書類を投入し続ける。
いたって簡単に扱えるので、女子社員達も細断機の順番待ちに並ぶ様になり、紙を細断するガリガリ音を幸いに、彼女達は私語に花を咲かせておった。
さて、その日は、お盆明けの……確か高校野球の決勝戦の日じゃった。
飛んでもなく蒸し暑い日だったのにも関わらず、据え置きの冷房機が故障してしまったんじゃ。
窓を開けても風の代わりに強い日差しが入って来る始末で、フロアーの中はまさに蒸し風呂状態!!
他課の男性社員はみなランニングシャツ1枚で扇子やら団扇を使っていたが、ウチの課長は人一倍身だしなみには厳しかったので、ワシらだけはキッチリとネクタイを締め、止めども無く流れ落ちる汗を手ぬぐいで拭くばかりじゃった。
そんな中、例によって処理しなければならない書類がどっさり出て、ワシは書類をひたすら細断機に放り込んでおった。
と、その内に後ろで女性の声がするんじゃ。
「ああ、細断機待ちだな」と後ろを振り向くと、声の主は皆の憧れの“明子”さんで……明子さんは目で微笑んで会釈してくれたのでワシも慌てて会釈を返した。
と言うのも……ワシは思わず目を奪われておったのじゃ。
この暑さのせいで明子さんは制服のブラウスのボタンを二つも外しておった。
開けられたブラウスの隙間からトランジスタグラマーの明子さんの胸の……小麦と白磁のくっきりとした“端境”が顔を出し、更にその谷間へワシの目を誘う。
「これはマズい」と必死に抗い、ワシは“能面”を取り繕った。
こうしてワシは……極めて紳士的に細断機に向き直ったので明子さんも同僚との“井戸端会議”に戻ったんじゃ。
細断機のガリガリ音の中、最初は朦朧とした頭で“会話”を聞き流していたのじゃが、そのうちに話の内容がお盆休み中に体験した恋のアバンチュールへと流れて行ったので……ワシはもう!!ひたすら耳をそばだてた。
憧れの明子さんが!! あの“端境”の胸で男と……??!!
ワシは気が気でなく、何とか後ろを振り向きたいのじゃが細断しなければならない書類がまだ山とある。
おお!! ちょうどカートがゴミで一杯ではないか!!
ワシはさも仕方なさそうな顔でカートを引き離し、細断機を挟んで明子さんの方へ向き直った。
眩しい胸が目に! 激しい話が耳に飛び込んで来て思わず身を乗り出した瞬間!!
まるで地獄に引き摺り込む様な凄まじい力で首を摑まれ、熱くなった細断機の鉄板に顎をしこたま打ち付けた。
「グギャア!!!」
ワシのただならぬ声に駆け付けた数人の社員がワシの頭を体を抱えて……ワシは牙を剝く細断機からやっとの思いで逃れる事ができた。
愛しの明子さんは……食いちぎられたネクタイの残骸を緩めてへたりこんだワシを覗き込み、笑いで“端境”の胸をフルフルさせておった。
斯様な地獄を見たのは決してワシだけじゃない筈じゃ!!
その怨念が根付いているからこそ!!
“クールビズ”なるものが出現し、ネクタイは撲滅されたのじゃ。
終わり
※この意見はあくまで個人の感想であり、政府等の施策とは何ら関係はございません。
※『トランジスターグラマー』⇒小柄だがグラマーな女性を表す和製英語。昭和の頃の流行語
教訓!!
シュレッダー中は、目を離さない。投入口に近付かない。
ネクタイ(長い髪も)注意!!です(^^;)
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