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05.どうも。大きな独り言をつぶやきながら頭を激しく振る不審者です


 森に悲鳴が木霊したって聞いて、これは王道の展開? 魔物に襲われる美少女か! って思っただろ。


 大丈夫。俺もそう思ったから。

 だって、異世界ファンタジーラノベの王道じゃん? 急に悲鳴がしたらピンチの美少女を助けるイベントだと思うじゃん?


 でも違った。


「これはどういう状況なんだ?」

『さっきの悲鳴は、そこに抜かれて転がってるマンドレイクの悲鳴だね。そのすぐ横に倒れている少年がマンドレイクを抜いた張本人。悲鳴にやられて気絶してるみたい』

「なるほど?」


 急いで駆けつけてみると、森の中にぽっかりと現れた、木のドーム状の陽だまりスポットに少年が倒れていた。

 そのすぐ近くには、根っこの部分にム〇クの叫びみたいな顔がついているように見える植物がある。これがマンドレイクなのだろう。

 そりゃ、植物だったら抜かれるのは嫌だよね。


 倒れている少年は気絶しているだけのようで、呼吸もあれば脈もあった。今は軽く頬っぺたを叩いてみても起きる気配がないけど。


『マンドレイクが小さかったことが不幸中の幸いだったね。本来なら鼓膜が破れたり、大きな精神ダメージを受けたりで、最悪死んじゃう場合もあるから。少し経てば自然と目覚めると思うよ』

「そっか、安心した」

『だねー。あっちの木の根元にある紫の花が綺麗に咲いているマンドレイクを抜いていたら、死んでたかも』


 見ると、白い花に囲まれるように咲いている、一輪の紫色の花がある。陽だまりスポットだから花も育ちやすいのだろう。

 あと、その周辺にはキラキラとした光球が浮かんでいたりもする。根っこはムン〇の叫びみたいだけど、咲いている様子は幻想的ですらある。


 というか、マンドレイクを抜く時の悲鳴で死ぬことがあるって本当なんだ。

 グラース、おっかないな。俺も気を付けよう……。


 カネリンの説明を聞いた時、あっちって言われてもどっちなんだ? って思ったけど、視界の端に半透明の矢印が出てきた。カネリンはARナビみたいな事もできるんだ。

 因みにARっていうのは、拡張現実って呼ばれる現実を仮想的に拡張する技術のことな。人間の視界の端に仮想的なフォローを入れたりする技術のことだ。スマホのカメラを植物に向けると、画面上に名前が表示されるARアプリもあるぞ。


『危険なことはあるけど、大丈夫だよ。アキトが危ないことをしようとしたら注意するし。何よりアキトは鑑定が使えるから、気をつけていればそうそう大きな事故は起きないと思うよ』

「え、俺って鑑定使えるの?!」

『うん! 時間があるときにステータス画面で確認すると良いよー』

「そうなんだ! それはアガるね!」


 凄いテンションが上がる。

 けど、今はそれより目の前の少年だ。


 特に寒さは感じないけど、アイテムボックスに入っていた革のコートを取り出して、毛布替わりに掛ける。

 日はまだ高いし、カネリンが言うには30分でミルルって村に行けるんだから、そう焦ることも無いだろう。暫く様子を見よう。目が覚めなさそうなら、俺が負ぶって行ってもいいし。


『折角だし、この少年を鑑定してみたらどう? 少年の状態が把握できるよ』

「そっか。ちょっとプライバシーの問題が気にはなるけど、非常時だし勘弁してもらおう」


 だって興味はあるよね。

 人に鑑定かけたらどうなるのかってさ。


 てなわけで、早速鑑定。


 使い方にコツが必要で直ぐには発動できなかったけど、対象を見て、これ何だろう? って思うだけで発動するようだ。簡単で非常によろしい。

 で、その結果がこちら。


==============

【名前】 マサキ


 ミルル村の少年

==============


「これだけ?」

『念じ方が足りないのだー。知りたい情報を色々思い浮かべてみて。身長体重がオススメ』


 言われたとおりに念じてみる。ついでに色々と念じてみた。


=====================

【名前】 マサキ 【年齢】 8歳

【種族】 人族

【身長】 100cm 【体重】 22kg

【状態】 気絶

【総合戦闘力】 21


 ミルル村の少年

=====================


「おぉ! 色々増えた!」

『流石アキト、筋が良いねっ。スキルレベルが上がったり、使い慣れたりすると、他の情報も参照できるようになるよ。ゆっくり慣れていこー』

「了解。いやぁ、良いね。ファンタジーな感じが本当に良い」

『アキトにとってはファンタジーだろうね。でも、グラースでは現実だよ』

「確かに」


 少年──改め、マサキくんが気絶してるところで不謹慎だけど、ワクワクが止まらない。

 異世界に来たんだなぁって実感するよ。


 ホントごめんね、マサキくん。

 鑑定しちゃったことと、ワクワクしちゃったことのお詫びとして、ちゃんとミルル村には送り届けるからね。


「ところで、この総合戦闘力っていうのは?」

『大雑把な強さってところかな。筋力、瞬発力、魔力、スキルなんかの、戦闘に関する力の総合力。数値が大きい方が強いってことだけど、戦闘になった時に必ず数値が大きな方が勝つっていうものでもないから、参考程度に思っておけばいいかな』

「そうなんだ。因みに俺は?」


 確か、ステータス画面にこの数字は無かったんだよね。


『聞いちゃう?』

「そりゃ聞くでしょ。気になるよ。魔物だっているんでしょ、この世界。だから自分の強さは把握しておきたい」

『まぁねー。 じゃぁ、発表するよ』

「おう」


 凄い、ドキドキする。



『総合戦闘力……たったの5だ……ゴミめ』


 ──総合、がついてるからギリギリセーフか?


「いや、アウトだろ。 カネリン、冗談は抜きでマジで教えてっ」


 でも戦闘力って言われたらやっちゃうよね。古き良き遊び心です。


『てへっ。 えぇとね、今のアキトの総合戦闘力は3562だね』


 おおっ? それは結構高いのでは?! さっきの少年の実力は分からないけど、21だよ? あの少年の15倍以上だよ。


『オークは倒せるけど、オーガとは良い勝負かもって感じ』


 うん。異世界に来たばかりだって考えたら強いんだろうけど、無双には程遠い実力ってわけですか、そうですか。

 ……これは、無茶はできないね。


「冒険者……って職があるのかは知らないけど、まぁ中堅レベルって感じの強さなのかな」

『冒険者はいるよ。イメージもアキトが持ってるのと似たようなもの。その冒険者でいうと、中堅レベルの強さにはなるかな? だから、農家のおじさんとかよりは強いと思うよ。でも、これ、本当にただの目安だからね。それに、今の(・・)総合戦闘力だから』

「お。何やら()が強調されたね?」

『うん。あくまで鑑定したその瞬間の総合戦闘力なんだ。試しにその少年、マサキくんをもう一回見てみて』


 俺は言われる通り、もう一度マサキ少年の鑑定をしてみた。



=====================

【名前】 マサキ

【総合戦闘力】 35

=====================



「おおっ、さっきは21だったのに10以上増えたね」

『そ。気絶の効果が薄くなってきてるからね。多分だけど、目が覚めたら100近くにはなるんじゃないかなぁ。彼くらいの年齢の人族だと、平均が大体それくらいだし』


 そういうことか。

 気絶している状態での危険度、という感じで捉えればいいのか。だから「今」が強調されたんだね。


「じゃぁ、その人の状態とかで総合戦闘力は結構変わっちゃうんだ」

『そうだね。寝不足で疲れてたら全力の半分も力が出せないときあるでしょ? そんな時に見ると低めの数字になっちゃうよ。 怪我してたり病気になってたりしても同じ』

「なるほどね」

『それに、マサキくんの総合戦闘力が100だとしても、アキトが油断してるときにナイフでぐさーっとやられたらアキトだって大怪我するし、場合によっては死んじゃうからね。だから、総合戦闘力が3500と100だったら必ず3500の方が勝つとは言えないんだねー』


 確かに。装備は耐刃繊維になってるからナイフが刺さることは無いかも知れないけど、特に防護してない首とかをぐっさりやられたら死んじゃうよね。


「なるほどねー。それにしても、この鑑定凄いね。戦闘力が知りたいなーって思ってみたら、それ以外の情報を非表示にもできるんだ」

『非表示になるというか、何を知りたいかをうまく念じないと表示されない、が正しい表現かな。今はアキトが総合戦闘力を知りたいって強く思ったからそれだけ表示されたんだと思うよ』

「そっか。でも、不要な情報をシャットアウトできるって言うのはメリットもあるよな」

『そだね、使い方次第だよ。道具もスキルも、同じ同じ~』

「これは本当に、使い込んでみたくなるスキルだなぁ」

『ふふふ。アキトの鑑定は私由来のスキルだからね。グラースでも持ってるのはアキトだけ。特別製だから心して使うと良いよ』

「マジか。カネリンには感謝だなぁ」


 いや、本当に。

 他の鑑定スキルがどうなっているのかは知らないけど、知識を司っているカネリン由来というのはかなり高性能なのでは?


「……待てよ。今の話だと、スキルは神様が付与する加護みたいなものって言うことなのか?」

『鋭いね。グラースには私みたいな神様や、神霊って言う神様見習いみたいな精霊が居るんだ~。そういった存在がスキルを授けることができるんだよ』


 なるほどね、スキルはそういうモノなのか。

 【グラウィス】にも似たようなシステムがあったんだ。キャラクターと一緒に成長する加護精霊。経験やイベントなんかを経て成長する精霊で、精霊の成長と共に加護──つまりスキルが強化されたり増えたりする。それに似てるね。

 異世界は異世界だけど、【グラウィス】の名残が感じられるっていうのも、なんか良い。


「んじゃ、神様や神霊と仲良くしないとな」

『アキトならできるよ。だって、神霊のこと、ちゃんと見えてるでしょ?』

「え?」

『ほら、さっきの紫色のマンドレイクの近くにいるじゃん』

「マジか?! でも特に何も見えないけど……」

『ふわふわしてる光の玉みたいなのが見えない?』


 それなら見える。

 ……っていうか、あれ、神霊なんだ!

 てっきりマンドレイク由来の何かだと思ってた。ファンタジーだからそういうこともあるのかなと思って流しちゃってたよ。


「あれなのか!」

『うん。他にもいっぱいいるよ? よーく周りを見てみて』


 言われて周囲を確認してみる。

 ……うわ、本当にいっぱいいる。

 木漏れ日が綺麗でキラキラしてるなぁなんて思ったけど、よく見てみたらその光の半分くらいは神霊じゃん。薄い赤だったり緑だったり……。自然に溶け込むように、本当に沢山の輝きがそこにあった。


『ね、いるでしょ? グラースの創世神はイザナギとイザナミだけど、実際にこの世界を育んできたのは数多の命であり、神霊たちでもあるんだ』


 カネリンの説明は、音声としては俺の頭に入ってきてはいたけど、言葉としては認識できていなかったと思う。

 景色自体も凄く綺麗で神秘的なんだけど、それを彩る神霊という存在を認知すると、世界がまた違った輝きを帯びていることが実感できた。これはもう【グラウィス】どころじゃない。この世界の生きとし生けるものが育んできた、奇跡だよ……。



『どう? 凄いでしょ、グラースは』

「うん……」


 どのくらいの時間見とれていたのかは分からないけれど、カネリンのその言葉を聞いて、漸く俺の意識が戻ってきた。


『神霊たちやこの世界を気に入ってもらえてうれしいな。でも、一番が私なのは譲らないからね』

「ははっ、俺にとってカネリンは向こうの世界からの付き合いだ。そりゃ誰も敵わないさ」

『ホントッ?! やったー!! 嬉しいなッ!』


 ちょっと、声、声が大きいよカネリンッ。

 頭の中に直接響くみたいな声だから、耳塞いでも全然小さくならないしっ。

 俺も嬉しいのは嬉しいけど、ちょっと控えてお願いっ。


「ボリュームッ! 声のボリュームをちょっと小さくしてッ」

『やったー!!!』

「聞いてないねこれっ?! 聞いてないよねっ?!」


 頭に響くカネリンの声に、頭を抱えて身悶えていると、ふと、俺を見ている視線に気づいた。



「……あ」


 少年が、凄いドン引きの表情でこちらを見ていた。



 カネリンの声に対する俺の反応が無くなったからなのか、自然とカネリンの声も止む。

 漸くクリアになってきた思考。


 そして、俺と少年との間にも無言の時間が流れる。


 何となくそんな気がするんだけど、カネリンの声は周りに聞こえてなかったりするんだろうか。


『うん。そだね、聞こえないね。アキトにだけ聞こえてるよ』


 マジか。

 というか、今は俺、何も口に出してないけどカネリンと会話が成立してるな。俺の意識を読み取ったってこと?


『そりゃ、神様の一柱ですし? 特にアキトとは結びつきも強いからそれくらい出来て当然だよっ、えへんっ』


 てことは、この少年、気絶から目が覚めてみたら、隣で見知らぬ男が大声で独り言を叫びながら頭を抱えて身悶えてたって状況なわけか。

 そりゃ引くわなぁ……。


 手遅れ感は否めないけど、ここは紳士的に少年の誤解を解くべきだろう。

 俺は冷静に、そして笑顔で少年に話しかけた。


「……違うんだ」


 ビクッ、と身震いして後退るマサキ少年。

 目が覚めたと言ってもまだ地面に寝ていて上半身だけ起こした状態だから、上手く後退れずにいるようだ。


「決して俺は怪しい奴じゃないんだよ?」


 マサキ少年の肩を掴もうと手を伸ばす。

 ──けど、後で考えたらその行為自体が、第三者から見たら完全に不審者のそれだったのかも知れない。



「そこまでですっ!」



 声のした方を向くと、そこには弓を構えた少女がいた。







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