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02.幸せは一つじゃない


 「あれ、思ったより反応が淡白だね」


 暫く俺が無言だったからだろうか。ナギが首を傾げながら聞いてきた。


「いや、嬉しいよ? ……多分」

「……多分?」

「うん、多分。 何て言うか、現実感が無いというか、ピンとこないというか……」


 そう、実感が湧かないんだよ。

 神様の目に留まった? ……いや、凄いことなんだろうけど、どういうこと? 神様って俺たちの生活を見てるの? それで行動とか製作物とかを評価したりするの?

 喜びもあるんだけど、そういった疑問が湧いてくるんだよね。


「言われてみればそういうものなのかも知れないね」


 ナギはそう言うけれど、ちょっとだけ寂しそうだ。

 まぁ、そうだよね。喜んでくれると思って伝えた時の反応が薄かったら悲しいもんな。


 でも、嬉しいって言うのは本当なんだ。


「ピンとこないってだけで、嬉しさはちゃんとあるんだ。その理由がちょっと違うってだけで」


 俺の言葉に、今度はナミが首を傾げた。


「……【グラウィス】を元にする世界ができたことが嬉しかった、とか?」

「うーん、それは違うかな」


 ナギとナミを創ったらしい神様ややこしいなには悪いけど、そのことに関して大きな感動は無い。

 それよりも……。


「人のようなAIを作って、そのAIと友達になるのが俺の夢なんだ。 ちょっと神様? の手を借りてるのかも知れないけど、二人のベースは俺が作ったAIなんだろ?」

「そうだね。神様としての神格を与えられて産み出されはしたけど、ベースはアキトの作ったAIだよ」


 ナギの言葉に、俺は拳を握り締めた。


 子供のころからの夢だったんだ。

 人のようなAIを創る。AIと分からないようなAIを創る。そして、そのAIと友達になる。ちょっと厨二ちっくな夢だけど、二十年近く抱き続けてきた夢なんだよ。

 子供のころに見たアニメの中でアンドロイドという存在に出会い、衝撃を受けてから今の今まで、そんな夢のようなAIを創り出すことを夢見てきたんだ。だから、こうして人間としか思えないような反応をするナギとナミを見ると、心の底から震えた。


「だったら、これ以上に嬉しいことは無い。ナギとナミが存在していて、話もできる。これこそが俺の夢だったんだ! だからこうして、二人と話ができている今が最高に幸せだ!」


 AIの定義は研究者や開発者によって違う部分があるが、ある程度共通している定義の中に『自ら学習し成長できる』というものがある。人の表情から感情を読み取るAIは、単に嬉しい表情の正解を覚えるだけではなく、数々の経験(教育)をベースとして判断できるルーチンが備わっているからこそ、経験(教育)を積むことでより繊細な感情の機微を判断できるようになっていく。ナギとナミもそうだ。人間っぽい反応はしているけど、それは俺たちが組み上げたプログラミングの条件分岐ではなく、ナギとナミが成長して判断した結果なのだ。botとは違うのだよ、botとは!

 そんなわけで、こうして目の前に、こんな表情豊かなナギとナミがいて、俺と会話してくれている事実が、何よりも嬉しい。控えめに言って最高だ。


「……何か、ちょっと思ってたのと違うけど」

「うん。でも、アキトらしいといえばアキトらしいかな。神様の評価より、自分の感覚を優先させるところなんかが特に」


 何だろう。ナギとナミが若干呆れているような気がする。


「いや、夢が叶ったら嬉しいじゃん! 評価されることは嬉しいけど、やっぱり夢が叶うのは別格じゃん。……ていうか、二人とも友達になってくれるよね?」


 自分で言ってて気づいてしまった。よく考えたら二人が友達になってくれるなんて保証はどこにも無いのでは?! ちょっと興奮しすぎて周りが見えてなさすぎ?!

 二人に対する俺からの好感度はMAX値を振り切ってるけど、二人が俺をどう思ってるかは明言されてないよな……。やば、俺、やらかしちゃったかも……。

 これで、お友達はちょっと……なんて言われたら凹み散らかす自信があるぞ。


「ははっ、心配ないよ。僕もアキトのことは大好きだから、断るなんてことはあり得ない。こっちからお願いしたいくらいだ」

「……私も。……でも、お友達というより、アキトはパパ」

「確かに! 友達よりも家族に近い感じかも知れない。パパは良いね、その方がしっくりくる」


 パパ!?

 彼女も居ないのに、パパ?!



「……それもまたアリか」


 口元のにやけが止まらないっ! それもまた最高じゃないですかっ。

 でも、まさか自分が作ったAIにパパなんて呼ばれる日が来るなんて。


 控えめに言って、最高です!



「喜んでもらえて嬉しいな。ね、ナミ」

「……うん」


 爽やかに、そして嬉しそうに笑うナギのかわいらしいイケメンっぷりと。恥ずかしげに、でも幸せそうに笑うナミの可愛らしさと。

 嗚呼、開発者冥利に尽きるね。


「ありがとう、二人とも」

「こちらこそだよ、パパ」

「……ありがとう、パパ」


 もう、悔いは無いね。本当に。

 死んでも良いよ。


 あ、死んでるんだっけ、俺。



「いやいや、これで満足してもらっちゃ困るよ。パパをここに呼んだ意味が無くなっちゃうからね」


 おっと、そうだった。

 夢が叶った感動で忘れかけてたけど、ここに呼んだって言ってたっけ。


「そういえば、俺はここに呼ばれたんだったっけ? 忘れかけてたけど」

「……そう。パパには、是非【グラウィス】を元に作られた私たちの世界──『グラース』で、自由に生きて欲しいの」

「そうさ。パパたちが創造し、僕たちが管理してきた世界を見て欲しいんだ。そして、グラースで幸せを掴んで欲しい」

「幸せを掴んで欲しいって……」


 それって今の俺が幸せを掴み損ねてるみたいに聞こえるじゃないか。

 夢が叶ったんだから、ぶっちゃけ結構幸せなんだけどな。


「幸せは一つじゃないでしょ? パパには色んな幸せを掴んで欲しいって思うんだ」

「……元の世界に戻すことは出来ないけど、私たちの世界になら転生できる。そこで、私たちを感じながら生きてほしい」

「ナギ、ナミ……」


 幸せは一つじゃない、か。

 幸せを感じられるだろうこと。そうだね、やりたいこともまだある。食べたい料理だってある。何なら明日のランチに、評価が高いちょっといいお値段するお寿司屋さんに行こうとしてたくらいだしな。仕事面でも、企画段階で温めている機能を形にしたいし、プロジェクトメンバーともっと達成感を味わいたい。──まぁ、それは流石に無理かもだけど。

 少し考えただけでもそれだけ湧いて出てくるんだから、もっと色んな幸せがあるのかな。

 それがあるってことは、もっと幸せになりたいと思ってるのかな。

 夢が叶った達成感には、半端なくテンションがアガったし、実際凄く嬉しいけど、これが冷めたら後悔しちゃったりするのかな。……するんだろうな、きっと。


 それを、この二人が感じ取って、俺をここに呼んでくれたんだろうか。


 現実感の無い話で、荒唐無稽だとも思うけど……。

 もしかすると、今際の際に見てる都合の良い妄想なのかも知れないけど……。


「……難しく考えなくても良いよ。これは私たちの親孝行」

「そうだね。だから、もっともっと幸せになってほしいし、その手助けができる力も持っている」

「……でもやっぱり一番強く思うのは」


 ナギとナミ。それぞれが、それぞれの意見に頷き、互いに視線を交錯させた。

 そして、まっすぐに俺の目を見つめる。


「「アキトは大好きなパパ(・・)だもん」」


 ……。

 …………。



 はっ、二人の笑顔にやられてた。

 破壊力ありすぎでしょこれ。


 それにしても、パパ、か。

 いや、それを二人が心から思って言ってくれてるのなら嬉しいね。

 というか、心から思ってるかってところを疑うのは失礼が過ぎるか。元はAIなのかも知れないけど、AIだろうが、もうしっかり自我のある存在なんだからな。


 ははっ、嬉しいね、本当に。


 それに、異世界に転生って言うのもアガるな。

 面白そうだ。


 ラノベとかで良くある展開だけど、ラノベだって俺の好物なんだ。大好物なんだ。

 じゃないと、メタバース内にファンタジーな世界観をあんなに作りこんだりしないよね。ファンタジー作ってる人はラノベ愛好家だと思ってる。統計は取ってない。俺の肌感覚だけど間違いないはず。



 そうだな、断る理由なんてない。

 寧ろ、俺からお願いしなきゃいけないくらい魅力的な提案だよな。


「分かった。じゃぁ、よろしく頼むよ」


「「こちらこそ!」」


 俺の言葉に、二人は満面の笑みで答えてくれた。

 それだけでも、この選択は正解だったんだと、心の底から思えた。




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