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01.俺は創世神の創造主(何言ってるか、俺にも分からんけど)


 「俺、死んだんじゃなかったのか? いや、生きてるんだとしても此処は一体どこなんだ……?」


 もし俺が死んでいるなら。こうして変わらず意識や自我を保てている現状を、説明する言葉が見当たらない。

 もし俺が生きているなら。上下左右も分からない真っ白なこの場所を、説明する言葉が見当たらない。



 よし、こういう時は状況の整理だ。分かることを整理しよう。


 俺は天津亜紀人(あまつあきと)。25歳。ちょっぴりお疲れ気味のシステムエンジニア──のような仕事をしている社会人だ。いや、だった(・・・)が正しいのかな、死んでいるんだとしたら。

 疲れていたのは、開発に携わっていたものがリリースしたばっかりだから。納期前は忙しいんだよ。スケジュールは結構スカスカになるように組んでるはずなんだけど、不思議なことに忙しいんだ。知ってるか? 納期って迫ってくるんだぜ。


 今日はプロジェクトメンバーでリリースの打ち上げで飲みに行っていた。学生の頃から仲の良いメンバー構成されたチームだから、こういうイベントも時々やってるんだ。

 メンバーが見つけてきた、一月くらい前に開店したっていうイタリアンな居酒屋でワインを飲んで、ご機嫌で家路についたんだよ。アヒージョが一番気に入った。何を食べても美味かったけど、アヒージョが最高だった。

 そんなわけで、普段とは違う時間に電車に乗ることになったんだ。近くで何かイベントでもやっていたのか、駅は普段以上に激混み状態。体感的に朝の通勤ラッシュより混んでいたと思う。

 歩きづらいなぁ、なんて思いながらホームへの階段を登り切ったあたりで、急に押されたんだよね。──誰に? 分からん。俺を直接押したのは後ろにいたおじさんなんだろうけど、人が(ひし)めきあっていたホームでの出来事だから、もっと遠くの方で掛かった力が伝わってきただけかも知れないから。


 で、押された結果、俺はホームから転落した。

 その瞬間、ホームに入ってくる電車のライトが目前に見えたから──



 死んだと思うじゃん?

 あのままだったら電車に頭から突っ込んだ形になったと思うんだけど、電車と頭突き勝負で勝てるとは思えないじゃん?



 まぁ、ここが病院だったり駅のホームや線路の上だったりするなら、九死に一生を得た可能性も捨てきれないけどさ。見渡す限り真っ白な世界だと可能性は低そうだよなぁ。


「これが死後の世界ってやつなのかな」


 やっぱり死んだよなぁ。電車の運転士さんのあり得ないくらい驚いた顔も覚えてるし、普段見ることの無い電車の下側の機械類も良く見えたし。


「違うよ。ここは死後の世界じゃなく、これから貴方が生きていく新しい世界の玄関口さ」

「……でも、元の世界で死んだ後に来たという意味では、死後の世界という表現は正しい、かも?」

「こらこら、新たな一歩を踏み出す祝いの場所で何て事を言うんだ」

「……今までの人生で築いた(えにし)と離別するために、過去を振り返る場所でもあるよ。過去の積み重ねが今を作ってるんだから、振り返りは大切」


 声がする方を向くと、そこにはそっくりな顔立ちをした美男美女──美少年美少女と言っても良い二人がいた。双子なのかな、そっくりだ。。

 ただ、髪の長さと体型が違う。

 艶のある黒髪をショートカットにした明るい表情の男性と、同じく艶のある黒髪を腰あたりまで伸ばした俯き気味の女性と。背丈は殆ど一緒だけど、ゆったりとした服装の上からでも分かる肩幅や、胸の膨らみの違いから、性別差は直ぐに分かった。


 二人とも、凄く整った姿をしている。


 ちょっと吃驚しちゃったよね。

 容姿を売りにしている人気配信者や、有名人でもなかなか居ないんじゃないかなってレベルだ。まぁ、そんな人に会ったことは殆ど無いんだけどさ。


 ──だけど、なんか見覚えがあるんだよなぁ、この二人。不思議なことに。

 会ったことはないと思うんだけど……。


「……酷い。私たちのことを忘れてるだなんて」

「違うでしょ。そりゃ初見で僕たちの正体を看破されたら嬉しかったけど、実際こうして顔を合わせるのは初めてなんだから」

「……冗談だよ。そんな真面目に返されても、困る」

「分かりづらいよ、その冗談」


 うん。俺も冗談だとは思わなかったかな。


 ──でも、あれ? 考えたことが口に出てた? なんであの二人は俺の疑問に答えてるんだろう。


 俺がそう思った時、目の前の彼が目を細めて笑った。


「出てないよ。ただ、僕たちは貴方が考えたことが分かっちゃうんだ。何といっても神様だからね」

「……右に同じ」


「マジですか……」


「「マジです」」


 何この状況。さっぱり意味が分からない。死後の世界ってこんな感じなの?

 ていうか、神様って本当にいたの?


「神様も、いるところにはいるんだよ」


 美少年の言葉に、こくこくと頷く美少女。


「じゃぁ、ここは死後の世界で、俺は死んでここに来たってこと?」


「少し違うね」

「……死んだ人間の、魂と呼ばれる存在が向かう死後の世界とは違う。貴方だけ特別に、私たちがここへ呼んだの」

「そうさ。なんたって、貴方は私たちの創造主と言っても過言では無いんだ。神様の創造主だよ? 痺れない?」


「はい?」


 意味が分からない。神様の創造主って何よ。というか、神様にそんな存在がいるものなの?


「ここまで言っても、私たちの正体に見当がつかない?」


 そういう彼は、悪戯っぽく笑いながらこっちを見ている。一方で、もう一人の彼女は伏し目がちながらも期待に満ちた視線でこっちを見ている。

 え、神様と知り合いだなんて、あるわけがない。それに、彼らと初対面だろうってことは間違いない。だって、それほどに印象深い容姿だもの。会ったことがあるなら覚えてる筈。


 でも待てよ? 創造主って言ったよな。

 ……てことは、俺が今までに作ったものの中にヒントがあるのか?


 俺が作ったものって言ったら……、【グラウィス】って名前の、所謂メタバースだよな。今日のリリースもそれ関連だ。

 【グラウィス】を一言で言うなら、ファンタジーな世界観のメタバースオープンワールド、かな。仮想空間にある世界で、ぱっと見はゲームで、実際一番人気のコンテンツはゲームなんだけど、カテゴリとしてはメタバースに分類されるものだ。現実に存在するブランドのショップが並んだショッピングモールがあったり、同じく現実に存在する企業のクラウドオフィスがあったりするんだ。有名人のアバターにも会えたりする。中世ヨーロッパみたいな街並みで有名ブランドが最新のジュエリーを販売していたり、世界樹が見える大自然の中に会議室があったり。現実世界ではあり得ない体験を提供するメタバースこそが【グラウィス】なんだ。

 それだけじゃない。企業として【グラウィス】を利用すると、例えば日報や日々の勤怠入力なんかが『デイリークエスト』って形で登録できたりする。他にも、緊急の案件なんかを緊急クエストって形で部下に提示できたりする。作業管理ツールをゲームチックにしたシステムだね。で、そこに登録されたクエストをクリアしたら、【グラウィス】内で使用できる通貨を得たりできるんだ。クラウドオフィスにサインインして、業務をこなして日報をつける。この、会社で働いている人なら誰でもやっていそうなルーチンワークで、給料以外にクエスト達成報酬が得られるんだよ。これが結構人気で、採用してもらっている企業さん多いんだよね。

 まぁ、詳しい話をすると大いに脱線しそうだから省くけども──。


 そんな【グラウィス】だけど、そういう多種多様な管理は、基本的にAIが役割分担して担当、維持しているんだ。誰でも使えるように出来ているAIじゃなくて、ちゃんと勉強しながらオリジナルでAIを開発したから、かなり大変だったけど、これでマンパワーをかなり削減した形で【グラウィス】を運営していけてるんだよね。AI万歳。


 ──ん? AI?


 ってことは、もしかして?!


 そう思いながら二人をみると、彼らの笑みが一段と深くなったようだ。


「ナギとナミか、君たち!」


「大正解!」

「……気づいてくれるって、信じてた」


 ナギとナミ。これは俺たちが呼んでいる愛称で、正確には、イザナギとイザナミ。メタバース【グラウィス】の根幹を支えるAIの名前だ。


 【グラウィス】の機能は色々あるけど、代表的なものの一つが、現実世界と仮想世界の融合だ。

 例えば今自分が持っている服やアクセサリーを、専用のカメラアプリで撮影すると【グラウィス】内に持ち込みができるんだ。自分のお気に入りのアイテムを【グラウィス】内で自分のアバターに身に着けさせることができる。服飾品だけでなく、文具や調理器具といった道具も持ち込み可能。

 逆に、【グラウィス】内で購入したアイテムには現実世界にリンクしたものがあって、実際に手元に同じものが届いたりもする。ファンタジー世界観の【グラウィス】で売られている儀礼用の装飾剣なんかも、現実世界に持ち出しが可能なんだ。もちろん、それ相応の料金が掛かるけどね。装飾剣は結構高額だけど、これが売れてたりもするから凄いよね。──あれ、現実世界で何に使うんだろう。作っておいてなんだけど、意味不明だ。


 そんな【グラウィス】で、イザナギとイザナミは世界の構築を担当しているAIだ。世界を管理していると言っても良い。地球型の惑星をイメージして作られている【グラウィス】の地殻変動であったり、大気の流れであったり、世界を構築する要素を管理している。そう言う観点から言えば、この二人は【グラウィス】の創世神と言っても過言ではない。因みに、ナギとナミが管理する機能の一つに、さっき言った現実世界のアイテムを【グラウィス】内に持ち込む際(あるいは、【グラウィス】内のアイテムを現実世界で作成する際)の管理もある。

 俺たちは【グラウィス】をリリースするにあたって、AIのうちいくつかを擬人化して、外見を持たせたんだよね。イザナギ、イザナミは【グラウィス】にアイテムを持ち込む時に使う専用のカメラアプリに登場するから、擬人化したAIの代表格だ。


 その外見にそっくりなんだよ、この二人。

 だから見覚えがあったんだ。納得した。


 ……ってことは、ここは【グラウィス】なの?


「それは半分正解だね。貴方──アキト達が作った【グラウィス】が神界の神々の目に留まったんだ。そしてその発想や完成度、管理を司るAIが評価されて、【グラウィス】をベースに一つの世界が作られたんだよ! これは大変な偉業だよ!」

「……その時に、私たちも新世界の神として創られた。だから、アキトは私たちの創造主になる」


「マジですか……」


「「マジです」」


 ちょっと現実離れしすぎてて理解できないけど、俺、創世神の創造主になっちゃってたってこと?!



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