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第6章 「激震!巨大ツチノコ大車輪」

 大和神話に語り継がれし英雄が成し遂げたように、奥河内の山奥に潜む大蛇の暴挙に終止符を打とう。

 そのように私が決意を新たにして間もなく、硬直していた事態は一気に動き出したんだ。

「山中より大型の熱源反応を確認、速度を増しながらこちらへ接近中!」

「よし来た、いっちょやりますか!」

 オペレーターを務める北加賀屋住江一曹の通信に頷きながら、私は被ったヘルメットのバイザーを下ろしたの。

 ハブやマムシと同様にツチノコの牙には毒があるんだけど、この毒は水鉄砲みたいに吹き付ける事も出来るんだって。

 それで皮膚の擦り傷や目といった敏感な箇所に毒液を浴びると、遅効性の毒で厄介な事になっちゃうんだよ。

 そこで今回の作戦に参加する人員は、毒液の噴射攻撃を食らわないように細心の注意を払う事になったんだ。

「総員、状況開始!」

「了解!」

 一斉に小銃を構えた陸自の曹士隊員達の声は、ガスマスクでくぐもっていたの。

 とはいえガスマスクを着用していたのは、陸上自衛隊の皆様だけじゃなかったんだけどね。

 対BC兵器用のガスマスクやヘルメットを通常のボディーアーマーに加えて装備しているのは、堺県警機動隊の皆様方や特命機動隊の下士官の子達も同様だよ。

 私達を始めとする特命遊撃士は、生体強化ナノマシンの投与と特殊能力サイフォースの発現で頑丈な身体を持っているから比較的軽装でも事足りているけど、それでも普段の出動よりは物々しい重装備なんだよね。

 黒いセーラーカラーに赤ネクタイを巻いた白い遊撃服と黒ミニスカはそのままだけど、足元は黒のフェイクニーハイで素肌を完全に覆っちゃったし、両手も黒いタクティカルグローブで完全防備。

 そして極め付けは、たった今こうして被った多機能ヘルメットだよ。

 ワイヤレスイヤホンやハンズフリーマイクといった通信機能にレーダーシステムも搭載された優れ物で、軍用バイクに乗る時にも着用してはいるんだけど、頭部を密閉しちゃうと狙撃時の微妙な感覚が鈍っちゃうから、私としてはあんまり被りたくないんだよね。

 だけど太秦栄華ちゃんの一件があるから、万一に備えて泣く泣くヘルメットを被ったんだよ。

 古人曰く、「備えあれば憂いなし」。

 一筋縄ではいかない敵を相手にするなら、幾ら用心しても損はないよね。

 注意一秒、怪我一生。

 民間人も公安系公務員も、無病息災が一番だよ。


 そうこうしているうちに、此度の捕獲作戦の標的が現れたんだ。

 細い若木や背の高い草を圧し折り、地響きで大地を揺らしながら、ソイツは足場の悪い山肌を転がるようにして降りてきたの。

 まるで油を塗ったかのようにギラギラと光る玉虫色の鱗に、大きな口と底気味の悪い凄みを帯びた鋭い目。

 そして何より、ビール瓶でも飲み込んだのかと見紛う極端に太くて短い胴体。

 さながら四肢をもぎ取ったオオサンショウウオの皮膚組織に、鱗をビッシリと移植したかのようだね。

 このズングリムックリとしたフォルムこそ、かつて未確認生物として日本中を騒がせたツチノコの身体的特徴の最たる物だよ。

 とはいえ身の丈二メートル半だなんて、巨体と一言で形容するには非常識過ぎるけどね。

 ちょっとした牛馬のスケールじゃない。

 いずれにせよ、これで待ち人来たりだよ。

御出(おい)でなさったな…総員、迎撃準備!」

「はっ!承知致しました、和歌浦マリナ少佐!」

 長い前髪で右目を隠した少女士官の号令に応じ、私はアサルトライフルの狙いを定めたの。

「撃ち方、始め!」

 引き金に掛けた指へ力を加えれば、三点バーストの鋭い銃声と共にライフル弾が勢いよく飛び出し、酒樽目掛けて飛翔を試みた巨大ツチノコの腹部へと次々に命中する。

 実弾式のアサルトライフルも、これはこれで良いよね。

「我々も続きます!総員、撃ち方始め!」

「はっ!承知しました、江坂芳乃(えさかよしの)准尉!復唱します、撃ち方始め!」

 特命機動隊と陸上自衛隊によるアサルトライフルの一斉射撃と、警官隊の拳銃弾がツチノコの腹部に着弾したのは、それから間もなくの事だったの。

 間断なく鳴り響く銃声を聞いていると、胸が弾んでくるね。

 軍人としての私の闘争本能を高揚させてくれる心地良い音色だけど、この長閑な奥河内の滝畑地区に銃声は少し不釣り合いだったかな。

 まあ、民間人の皆様方には残らず避難して頂いているから、何も問題ないよね。

「チィッ!」

 離陸寸前で入った邪魔に訝しんだのも束の間、巨大ツチノコは好餌である酒樽目掛けて跳躍を試みる。

 これこそ野生動物の悲しい性だね。

「チチィッ?!」

 しかし、その滞空時間と跳躍距離は彼の予想した物より遥かに短く、目標距離の半分にも満たない地点で無様に墜落したの。

 獲物を前にしてお預けを食らわされて、巨大ツチノコに動揺と苛立ちが感じられるよ。

「おおっ、凄い!流石は本作戦の為に開発された、特殊弾頭!筋組織を麻痺させるのもお手の物だね!」

 空っぽになった弾倉を入れ換えながら、私は嬉々として軽口を叩いちゃったの。

 招聘した専門家の先生方と連携して開発された特殊弾頭は、巨大ツチノコの屈強な腹部の皮膚にもキッチリと着弾し、麻酔薬としての効果を見事に発揮したんだ。

 その大きな図体もあって完全に眠らせる事は出来ないけど、俊敏な跳躍速度を削げたならば充分な成果だよ。

 そして本作戦の為に作られた特殊弾頭には、もう一種類あるんだ。

 それも面白い効果を備えた、飛び切りの優れ物なの。

 それはね…

「悠長な事を言ってる場合じゃないって、千里ちゃん!アイツ、まだ何かやろうとしてるよ!」

「おおっ、ホントだ!」

 我に返った私は、思わず素っ頓狂な声を上げちゃったの。

 やはり自動拳銃の装填を終えた京花ちゃんが叫ぶ先で、巨大ツチノコは力を振り絞って跳躍を試みたんだ。

「チッ…チィーッ!」

 特殊弾頭に搭載されていた麻酔薬の影響は著しいようで、ヨロヨロとした弱々しい跳躍は山肌の斜面を僅かに登っただけに留まったの。

 しかし巨大ツチノコとしては、僅かでも斜面を登攀出来ただけで充分だったみたいだね。

「チッ、チィ…」

 何発も特殊弾頭を撃たれて半ば痺れた腹部の筋肉を強引に動かし、やっとの思いで尻尾の先端を咥える巨大ツチノコ。

 その苦痛に耐える険しい表情からも、攻め手である私達への激しい憎悪と敵意が伺えるよ。

 そして、「このままでは終われない」という強い反骨心もね。

「むっ!奴はまさか…」

「総員、退避!巨大ツチノコの動向に警戒せよ!」

 部隊を速やかに後方へ退かせた陸自と機動隊の隊長さん達の御判断は、実に機敏で正確だったよ。

 何しろ次の瞬間、巨大ツチノコは輪のような姿勢でゴロゴロと転がり始めたんだからさ。

 山肌の草木を圧し折り、砂利や土を吹き飛ばしながらね。

 それは言うなれば、大型ダンプの車体から外れ落ちて暴走する前輪タイヤのような荒々しさだよ。

「フフン、なかなかやるじゃないの。そうやすやすとは捕まらないって事かな!」

「ちょっと、京花ちゃん!」

 同期の戦友が漏らした軽口に思わず眉を顰めた私だけど、あんな一言を京花ちゃんが口走ったのも、ここら一帯を完全封鎖出来ている余裕の現れだね。

 もしも民間人の避難誘導が完了してなかったなら、こんな悠長な事なんて冗談でも言えないよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巨体なだけあってまだまだ余裕がありますな! まさかのローリングサンダーにどう対処するのか……次回、気になるぜ。
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