第4章 「確認せよ、対生物用特殊弾頭」
個人兵装のレーザーライフルとは感触も重量も微妙に異なる小銃に、今回の作戦にあたって新たに開発された特殊弾頭。
普段と異なる装備品に緊張を隠せない私だけど、その緊張感は多かれ少なかれ他の皆も感じていたみたいだね。
「念の為の最終確認だけど…こっちの甲種弾頭を先に撃ってからの乙種弾頭だよね、マリナちゃん?」
「随分と念押しするんだな、お京…とはいえ相手は、使い慣れない新兵器だからね。正しく運用するための再確認は、幾ら繰り返してもやり過ぎる事はないのさ。」
何しろ一年B組のサイドテールコンビだって、こんな感じだもの。
それにしても京花ちゃんったら、特殊弾頭の装填された弾倉を手の平の上に並べちゃってさ。
さっきは予備弾倉を見つめていた私の事を茶化したのに、自分の場合は構わないのかな?
「お京の認識で大丈夫だよ。切り札の乙種弾頭を撃つのは、麻酔弾の甲種弾頭で巨大ツチノコの動きを充分に鈍らせてからだ。」
「ありがとう、マリナちゃん。甲種弾頭でフラフラになった巨大ツチノコなら、乙種弾頭の必殺攻撃も通りやすいって寸法だね。何はともあれ、まずは足腰をガタガタにしてやらなくちゃ!」
いずれにせよ、京花ちゃんの中で納得出来たなら何よりだよ。
巨大ツチノコの足腰が何処にあるのかは、ちょっと私には分からないけど。
今回の巨大ツチノコ捕獲作戦に参加する公安系公務員に支給された特殊弾頭のうち、麻酔弾である甲種弾頭に関しては何度か使用した事があるんだよ。
比較的記憶に新しいのは、今年の上半期に発生した凶牛ウイルス騒動かな。
危険なカルト教徒がウイルスで民間人を凶暴な牛怪人に仕立て上げて暴れ回ったんだけど、その時にもこの麻酔弾が役立ったんだよ。
だけど乙種弾頭に関しては、本作戦のために新造した出来たてホヤホヤの超兵器だからね。
事前のテストは勿論しているけれども、実戦で使用するのは今回が初めてだから、どうしても緊張しちゃうんだよなぁ…
「あっ…あの、千里さん…やはり千里さんは、乙種弾頭の事が気掛かりなのでしょうか…?」
「そういう訳じゃないよ、英里奈ちゃん。この官民連携で開発した乙種弾頭は、人類防衛機構の優秀な科学者達の御墨付きだからね。そういう意味では信頼してる。だけど開発監修として民間から招聘された医学博士の人が、ちょっと変わり者だったからね。こうして乙種弾頭の装填された弾倉を見ていたら、つい思い出しちゃうんだよ。」
養成コース時代からの付き合いである華族令嬢に応じながら、私は乙種弾頭の開発に携わられた医学博士の先生に思いを馳せたんだ。
五條県立大学医学部付属病院から開発監修としてやってきた芹目アリサ医学博士は、優れた研究論文を幾つも発表している学会の若き俊英であると同時に、腫瘍の摘出手術を得意とする優秀な外科医でもあるんだ。
オマケに理知的で颯爽とした美人さんでもある訳だから、至って凡人の私としては羨ましい限りだよ。
だけど御自身の専門分野への情熱が強過ぎるのか、腫瘍の特性とか健全な組織への影響といった話題になると夢中になっちゃったそうで、開発班の皆様方も驚かれたらしいんだ。
「確かに少し風変わりな方ですが、優秀な研究者で腕の立つ御医者様でいらっしゃる事も確かですよ、千里さん。父の知人である伯爵家の御隠居様も、件の芹目先生に胃癌を治して頂いたそうですからね。」
「華族様の癌手術を任されるって事は、それだけ信頼されているって事なんだろうね。私のお母さんの同級生がピアニストとして参加している交響楽団の指揮者の人が、こないだ脳腫瘍の療養から復帰したんだけど、その人も例の女医さんに執刀して貰ったみたいだよ。」
少し変わり者だけど、外科医としても研究者としても力量は一級品。
件の医学博士に対する私と英里奈ちゃんの評価は、大体そんな感じかな。
考えてみれば、専門分野を極めた末にエキセントリックな人間になってしまうのは、研究者には往々にしてある話だよ。
何にせよ、本作戦に使用する乙種特殊弾頭には件の女医さんの専門分野である癌細胞の研究データが大いに役立ったらしいから、その点は感謝しないとね。