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欠落した満月と冷酷な太陽  作者: 武臣 賢
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第三十五話

 いつもの場所でいつものように本を読んでいると、判で押したように ユリスがやってきて、ボクの前に座った。本から目を逸らしてユリスを見ると、ちょっと苦笑いをしていた。


「ねえ、スミタマお願いあるんだけど聞いてくれるかしら? というのはちょっとずるいわね。私のお願いをぜひスミタマに叶えて欲しい。実は二つもあるんだけれど……」


 嘘か真か? ユリスはなんとかオルガスの説得には成功したらしい。

 しかし、条件付きだった。しかも二つ。そのどちらもが、当然、ボクに関係しているらしく、それを満たさなければ、ユリスへのご褒美は絶対に認めないと言われたそうだ。

 だから、ユリスも苦笑いしながらも、いつもよりもちょっとだけ必死にボクにお願いしにやってきたのだ。


「さっきも言ったように、お願いは二つ。まずひとつ目は、冒険者ギルドに行ったり、依頼を受けるのは必ずスミタマと二人じゃないとだめ。そしてもうひとつは、スミタマにはこれから私の屋敷で一緒に暮らしてもらう。この二つなんだけど……お願い受け入れてほしい」


 色々と問題も多い条件だ。逆にボクはユリスに質問を返した。


「冒険者ギルドだけど、ボクが単独で動く分には構わないのかな? 必ずユリスと二人で行動しなければならないとなると、ちょっと難しい、正直なところ。それと屋敷だけど、知っての通り今は官給で学院に通わせてもらっているんだ。それがユリスの屋敷に住むとそのあたりはどうなるんだろう? あの下宿の家賃も帝国に出してもらってるんだよ」


 ボクは腕を組んで深刻なときに出る癖、眉間にしわを寄せて尋ねた。

 実際、一人で動けないと冒険者ギルドに入る意味はほとんど失われる。ボクが調べたい内容は、ボクの秘密にも関わり合いが出てくるからだ。そして、官給が打ち切られてしまうと、ボクは生活ができなくなってしまう。もちろん、官給が打ち切られてもユリスの屋敷に居候させてもらえるのならば、ギルドでの依頼をたくさんこなせばいいだけなのかもしれないけれど……。

 そのあたりは何とかする。今日、お父様に時間を取ってもらっているから、放課後一緒に王宮に行きましょうよ。そうユリスがボクを誘うので、とりあえずは、分かったよ、と応えておいた。


 約束していたのだろうか、それともよほど娘が気がかりなのか、放課後、学院前にひときわ立派な馬車が差し回されていた。オルガス家の家宰が出迎え役で、ユリスとボク、そしてユリスの執事長共々、馬車に乗り、王宮へと向かった。馬車の中では、誰もが無言だった。

 馬車は、王宮内のオルガスの屋敷ではなく、宮廷内、オルガスの執務室のある建物へと向かっているようだった。

 出窓の手すり以外は、直線が目立つ石造りのいかにも質実な建物丸々一棟がオルガスの執務所だ。吹き抜けの奥の円階段を登ったその奥がオルガスの執務室になっており、家宰に導かれて、ボクとユリスは応接室へと通された。

 家宰によるとオルガスは今、別の部屋で来客中だそうで、しばらく待っていてもらいたい、とボクたちに謝りながら言った。それじゃあお茶でも飲みながらゆっくりと、と思いつつも、ユリスはどこか気忙しそうに、もう、お父様ったら約束したのに、などとぶつぶつ言っている。


「もしかして、ユリス、了解をもらったって言ってたけれど、考えておくって言われたぐらいなんじゃないの?」


 ボクは直感でユリスに声を掛けてみた。


「そ、そんな訳ないじゃない。実際に、ちゃんと、分かったってお父様はおっしゃった……し」


 語尾を少し濁らせるあたり、かなり怪しい。

 ユリスとは違った意味でボクも何だか心配になってきてしまった。ボクがティーカップをソーサーに戻すカチリという音だけが、余韻を伴って長く響いた。ユリスはよほど気がかりなのか、お茶には目もくれなかった。

 そう長く待たされたわけではない。ないのだが、ひどく長い時間だった。あれから一言もしゃべらないユリスに、心配はなおさらに募った。

 無口なユリスを見て、疑心が確信に変わった。


「ねえ、ユリス、怒らないから正直に言ってほしい。二つの条件って、お父上が出したんじゃなくて、もしかして、君が言い出したんじゃないの?」


 じっとユリスを見つめると、慌てて視線を逸らすユリス。

 願いを叶えてなどと言っていたのも、引っ込みがつかなくなったからだろう。何だかいよいよ怪しくなってきた。目を合わさず、ユリスは窓の外を見つめている。


「正直に言ったら、スミタマは、うんって言ってくれる? 言ってくれるなら本当の話をしてあげてもいいけれど、うんと言ってくれないんだったら、絶対に本当の話はしない……」


 ユリスは白状したも同じような意味不明な言葉を口走った。

 ボクはユリスの太腿を、痣が残らな程度に、強くぎゅっとつねった。

 痛っ、と言いながらユリスが太腿をなでながら、半分、涙目でボクの方へ向き直った。


「分かったよユリス。ボクの言った条件をお父上がクリアにしてくれるのなら、上手に騙されてあげるよ。一緒にいたいっていうユリスの気持ちは、とても嬉しいからね」


 不承々々ながら、ユリスの片棒を担いで、条件付きでとぼけてあげる約束をする羽目になってしまった。

 ほどなくオルガスが現れた。やはりボクの予想通りだった。ユリスはボクに断られるのが怖かったようだ。

【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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